会員数の拡大に隠れた「宿泊客の本音」を求めて。顧客理解に基づいたロイヤルティプログラム改善への挑戦
日本有数のホテルチェーン「都ホテルズ&リゾーツ」を展開する株式会社近鉄・都ホテルズ。会員組織「都プラス」の規模が拡大する中、同社は「顧客が真に求めている価値」を掴みきれないという課題に直面していました。
そこで、同社が選択したのは「UXデザイン」のアプローチ。ロイヤルティの高い層と低い層、両者の生きた声を聴くことで見えてきた、様々な施策の可能性と顧客の声を聴く重要性とは。
プロジェクトを牽引した浜本様、山本様と、伴走したポップインサイトのUXデザイナーの宮本、高岩がプロジェクトを振り返ります。

【プロジェクトメンバー】
株式会社近鉄・都ホテルズ 業務推進室 営業企画部 部長 浜本 康夫様(写真左)
大学卒業後、株式会社都ホテル(現ウェスティン都ホテル京都)に入社。その後、株式会社近鉄・都ホテルズへ出向し、データ分析および会員プログラム「都プラス」のCRM業務に従事。その後、3つのホテル現場を経験。8年前に3度目のチェーン本部勤務となり、マーケティング全般を担当。2025年1月より現職。
株式会社近鉄・都ホテルズ 業務推進室 営業企画部 山本 遼平様(写真右)
2024年に近鉄グループホールディングス株式会社へ入社。その後、株式会社近鉄・都ホテルズへ出向し、データ分析および会員プログラム「都プラス」のCRM業務に従事。加えて、メルマガ施策の企画・運用をはじめ、各種データ関連業務を幅広く担当。
株式会社メンバーズ ポップインサイトカンパニー UXデザイナー 宮本 檀
新規事業開発やプロダクトの新機能開発などをUXデザインのアプローチで支援。「作ってみたけど使われない」をなくすために「ユーザーにとってのうれしい体験」を踏まえた事業やプロダクトを作っていきたい。
株式会社メンバーズ ポップインサイトカンパニー シニアUXデザイナー 高岩 仁
SIerを経てポップインサイトへ。関心の対象を「システムの正誤」から「ニーズの発見」へ転換。ユーザーの本音を経営層から現場まで広く共有し、共感に基づいた改善・構築を行うことで、サービスの価値向上に寄与している。
「ファン」を増やすため、顧客理解を加速させる「共創」の体制
―― 今回、営業企画部の皆様が中心となってプロジェクトを推進されましたが、部署としてはどのようなミッションを担っているのでしょうか。
浜本様: 私たちは近鉄グループのホテルチェーンである「都ホテルズ&リゾーツ」全体の営業・マーケティング戦略を統括しています。国内外24のホテルそれぞれの個性を活かしつつ、グループ共通のファンをいかに増やし、LTV(顧客生涯価値)を高めていくかが大きなミッションです。そのなかで、私は部長として、ブランド全体の方向性や、会員組織「都プラス」のあり方など、経営戦略に近い視点での意思決定を担っています。
山本様:私は現場に近い立ち位置で、具体的な販促施策や会員サービスの運用を推進しています。
浜本様:現場に近いメンバーは他にもいまして、今回のプロジェクトは部署全員で取り組んだ形です。
――ビジネス戦略を担う浜本様、実務の中心を担う山本様、そしてUXリサーチ・UXデザインのポップインサイトという、三者の専門性が重なる体制ですね。
会員規模拡大の裏で模索していた「顧客の解像度」
――次に、 今回のプロジェクトが始まったきっかけを教えてください。
浜本様: 我々のホテルチェーンの会員組織「都プラス」は30年の歴史がありまして、ステータス制度を設けたり、スマホアプリを開発するなどで会員数が拡大しています。ただ、お客様が都プラスに対してどのような価値を感じ、何を期待しているのかが掴みきれていないまま進めてきていたので、期待ほど上位会員が増えてはいなかったんです。どうすればより上位の会員を増やしていけるのか、どうすれば他社へ目移りすることなく都ホテルを「指名買い」していただけるのか、わからない状態だったのです。
そのため、昨年あたりからもう少し突っ込んでお客様の考えていることを知りたいなと思いまして。以前、我々の旗艦ホテルのひとつである志摩観光ホテルのお客様にインタビューを実施していたので、同様のことが都プラス会員の方でもできないかなと考えたのがきっかけですね。
――そういった背景がある中で、ポップインサイトのUXデザインアプローチを選んでいただいた理由は何だったのでしょうか。
浜本様:単にお客様が「都プラス」のどこに価値を見出しているのか、どこに不満があるのかを調べるだけではなく、弊社グループのホテルを初めて利用した時の認知~宿泊体験までのカスタマージャーニーマップと、二回目以降の利用時の宿泊体験についてのカスタマージャーニーマップをそれぞれロイヤルティの高い層・低い層で描いて次の一手を考えていくという提案が、マーケティング的にもCR(Customer Relations、企業と顧客の信頼関係)的にも非常に有効と思ったためです。
褒められて終わりではない、低ロイヤルティ層からの収穫
――今回はロイヤルティの高い層だけでなく、あえて「低い層」にもインタビューを行いました。
浜本様:対象の選び方は、参考になりましたね。私は当初、ロイヤルティが高い層のみへのインタビューを考えていたのですが、低い層にも聞いてみるのはどうかとポップインサイトさんからご提案をいただきました。

浜本様:以前、ロイヤル顧客にインタビューした際は、皆さん「素晴らしい」と褒めてくださって、それはそれで参考になったのですが、今回はロイヤルティの高い層だけでなく、低い層の方にも話を聴くことで、私たちのサービス内容がいかに「伝わっていないか」が浮き彫りになりました。
山本様:私もインタビューに同席したのですが、ロイヤルティが高い層と低い層でここまでわかりやすく意見が違うのかと驚きました。また、「都プラス」に対する理解もそうですが、そもそも弊社のホテルに対する理解度も全然違っているのは感じました。
――どんな点で、特に理解度が違っていたのですか。
山本様:ロイヤルティの高い方は、一つのホテルに対して本当に詳しくて、思い出話が止まらなくなってしまうほど熱量が高い。一方で、ロイヤルティの低い方もホテル自体には興味をお持ちなのですが、あくまで「他のホテルと比較してどうか」という視点で深い理解までは到達していないという形だったんです。
浜本様:「都プラス」ではステータスに応じて様々な特典を設けているのですが、特典の内容までは深く理解されていないということもよくわかりましたね。例えばロイヤルティが低い方で、ステータスが今年落ちてしまった方にインタビューをしたところ、特典がよくわからなかったと言われていて。コミュニケーション不足であることを痛感しました。
逆にロイヤルティが高い方はステータスの特典を感じているというよりは、ホテル自体を気に入っているということがわかりました。
私たちとしては、ステータスの高い方にはその特典をしっかり理解いただけていると思っていたのですが、ステータスの高い・低いに関わらず提供している特典の価値がお客様にうまく伝わっていなかったということがわかりましたね。
――ポップインサイト側は、UXデザイナーとして印象に残っていることはありますか。
宮本: 私が印象的だったのは、事前の仮説が大きく覆された点です。元々は「ロイヤルティの低い方は新しい体験を求めて色々なホテルを転々とし、高い方は特定のホテルの安定した体験を好む」という仮説を持っていました。しかし実際にインタビューをしてみると、ロイヤルティの高い方こそ、都ホテルの中で「新しい発見」を楽しんでいることが分かりました。
例えば志摩観光ホテルであれば、「ここがテレビドラマの舞台なんだ」という知識との紐づきや、建築の背景を深く知ることなどです。ホテルが発行している冊子やコンテンツを通じて、同じホテルに泊まりながらも自分の中の情報がアップデートされていく。そのプロセス自体が愛着(ロイヤルティ)に繋がっていました。必ずしも「いつもの安定」だけを求めているのではなく、グループ内で「新しい体験」を楽しんでいるロイヤルティの高い方の姿は、非常に面白い発見でしたね。
浜本様:ロイヤルティの高い方は特定のホテルだけでなく、色々、興味を持たれているということですよね。
高岩:ずっと同じホテルがお気に入りだったけれど、今度別のホテルを都ホテルズ&リゾーツ内で開拓していこうという広がりが、ロイヤルティの高い方の中では起こっていたというのも発見でした。こういう動きを、ロイヤルティの低い方の中でも起こすことができるといいのではないか、という仮説も生まれましたね。

顧客の「真の動き」を可視化。確かな判断軸から生まれた、これまでにない施策案
――色々と発見があったインタビュー結果を元に、まずはロイヤルティの高い層・低い層のペルソナと、カスタマージャーニーマップを作成しましたが、作成してみていかがでしたか。
山本様:元々持っていた仮説とのずれを可視化することができましたね。例えば「都プラス」で予約すると高還元率でポイントが返ってくるのに、ロイヤルティの低い層はオンラインのホテル予約サイトでその時々で最安を探して予約しているなどの動きですね。
インタビューでのお客様の発言を根拠に可視化できたので、自信をもってお客様はこういう動きをしているので、こういう施策を打とうという話ができる。判断軸が作れましたね。

――ペルソナ・カスタマージャーニーマップの形でモデル化し、それをもとにワークショップで施策のアイディエーションを行うという流れでしたね。
浜本様:普段なかなか新しいアイデアについて集中して時間をとることがなかったので、ワークショップという場でそれだけをずっと考えるというのはいい訓練だったなと思います。
山本様:ホテル側から出たアイデアもあれば、女性ならではの視点のアイデアも出て、盛り上がりましたね。例えば、一つ上のステータス特典にはやはり興味を持たれる方が多いということが分かったので、1か月限定で先取りで体験してもらうといったアイデアが出またのですが、実務面を考えると我々からは出づらいアイデアで面白かったです。
浜本様:宮本さんと高岩さんのファシリテートが素晴らしかったので。
宮本・高岩:ありがとうございます。
――出てきたアイデアを6コマのシナリオにしてユーザー評価(定量・定性両方とも実施)した際の反応はどうでしたか。

浜本様:突出してこのアイデアがよかったというような傾向は出なかったのですが、全体的に評価が高かったですね。
宮本:特にアンケートでの評価は全体的に高めでしたね。ただ、総合評価では差が少なかったものの、各アイデアが実現した場合に利用意向が上がる・下がる理由を聞いていたので、その部分がブラッシュアップの参考にできるなと感じています。
高岩:定性(インタビュー)の評価の方でもブラッシュアップに繋がる意見を貰っていますね。例えば「誕生月限定の特典」がある案をぶつけてみた際、ユーザーから「誕生日がホテルの繁忙期と被ると予約が取りづらくて使いにくい」というリアルなダメ出しをもらえました。「では、誕生月を挟む3ヶ月間から選べる形式なら?」と追加質問をして反応を伺うなど、その場で舵取りをしながら評価を行えたのは定性調査ならではでしたね。

顧客理解に基づき、全方位で動き出したファンづくり施策
――今回のプロジェクトで得られたアウトプットは、今後どのように活用される予定でしょうか。
浜本様:もともと、2026年度に向けて「都プラス」の制度改定を計画していたのですが、今回のプロジェクトを経てお客様の解像度が上がったことで、当初課題に感じていた上位会員をどうやったら増やしていけるかだけでなく、様々な施策を具体的に検討・意思決定するための判断材料が得られました。
インタビューでは、例えば「一つ上のランクの特典に興味がある」という声があった一方で、現在の4つのランクのうち「ゴールドからプラチナへのハードルが非常に高い」という実態が見えてきました。そこで、次のランクを狙いやすくする改定を検討しています。
また、上位ランクである「プラチナ」や「ブラック」の会員数を増やすために「ステータスの獲得ハードルを下げるべきか」という議論もありました。しかしインタビューを通じて、既存の上位会員様には「自分たちが基準を達成して得たステータスなのに、新しく入る人のハードルが下がるのは面白くない」という心理的抵抗があることもわかったのです。
結果として「上位のハードルは下げずにステップアップを促す」という、既存のファンも大切にする確かな方向性を決めることができました。
他にも多くの発見があり、それらを元にロイヤルティプログラムの改定を進めています。リサーチ結果が、まさに意思決定の材料になっています。
山本様:既に現場で動き出している部分もあります。特典がわかりづらいという声に対しては、既にホームページは改修済みですし、アプリも今年中に改修予定です。

浜本様:また、今回、お客様の生の声を聴くことの重要性が非常にわかったので、今年ロイヤルティの高い方の中でも特によく利用してくださっているお客様に対してイベントに招待して関係性を作っていくというようなことも考えています。
共創プロセスで得た、納得感のある顧客理解が意思決定の武器に。
――改めて、今回のプロジェクトから感じた価値を教えてください。
浜本様:一つは、お客様をより解像度高く理解することができたというのが大きいです。先にも申し上げた通り、精度・納得度の高い意思決定に繋がっています。
もう一つは、ポップインサイトさんが持つ「顧客理解のためのノウハウや仕組み」を勉強させてもらったことです。UXデザイナーの宮本さん・高岩さんも非常に高い知見をお持ちで勉強になりました。
今後これらすべてを自力でやるのは難しいかもしれませんが、こういう方法・仕組みでやるのだということを実践できたのは大きかったです。
――貴社と同じような課題を抱えている方へのメッセージをお願いします。
浜本様:まずは一人でもいいので、顔が見えるお客様の声を聴いてみることがやはり大事だと思います。
社内で何か新しい施策を回すときの根拠を聞かれたときに、「私の仮説です」ではなく「こういうことを実際にお客様が言っておられました」と伝えることで、説得力も施策の重みも全く変わってきます。
――今回のプロジェクトでも説得力が得られたのですね。
浜本様:施策の決定に大きく影響しましたね。
ホテルの「真の実力」が試される時代に、選ばれ続けるブランドを目指して
――最後に、都ホテルズ&リゾーツ様の今後の展望をお聞かせください。
浜本様: 今は様々な外的要因などもありホテル自体の本当の実力が試されている時期だと感じています。そのため、OTA(ホテル予約サイト)経由ではなく、ホテルを「指名買い」してくれるファンを増やしていく必要があると考えています。
今回得られた知見を活かし、「都プラス」の会員になって直接予約をしてもらう、都ホテルをわざわざ選んでくださる方を増やすための施策を、最重要事項として進めていきたいと考えています。
会員数という「規模」の裏側に隠れていたのは、一人ひとりの宿泊客が抱く、まだ言葉になっていない期待やサービス理解の壁でした。
その「生きた声」にしっかり耳を傾け、机上の空論ではない、根拠のある施策アイデアを生み出し、実務へ即座に繋げていく近鉄・都ホテルズ様のスピード感は、まさにお客様と真摯に向き合う姿勢そのものだと感じます。
私たちポップインサイトもUXデザインのプロセスにおいて、真摯に「生の声」に向き合い、「お客様が自信を持って次の一歩を踏み出せるための確かな根拠」を共に導き出すパートナーでありたいと考えています。
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