組織の枠を超えた「共創」が鍵。セブン‐イレブンの新規事業を加速させるUX伴走術
日本屈指の小売りネットワークを築いてきた株式会社セブン‐イレブン・ジャパン。同社は今、「ヘルスケア」という新領域に挑んでいます。
この新領域での事業創出を加速させているのがセブン‐イレブン・ジャパンの「ヘルスケア推進部」と、グループ全体のUX向上を支援するセブン&アイ・ホールディングス社の「UX伴走チーム」、そして同チームのスペシャリストメンバーとしてリサーチはじめUXデザインプロセスの実務・推進を担うポップインサイトによる三社の共創体制です。
不確実性も高いと言われる新規事業において、事業会社・横断伴走チーム・専門家という三社の連携がいかにして新規事業の解像度を高めていったのかを紐解きます。

【プロジェクトメンバー】
株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 新規事業推進室 ヘルスケア推進部 岡崎和浩様(写真右から2番目)
2007年7月セブン‐イレブン・ジャパンに入社、店舗勤務の後、店舗経営相談員として現場を経験。前職のドラッグストアでの経験を活かしてヘルスケアの領域に挑戦している。
株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 新規事業推進室 ヘルスケア推進部 里村和彦様(写真左から2番目)
2014年4月セブン‐イレブン・ジャパンに入社、店舗勤務の後、店舗経営相談員として現場を経験。2024年9月より現職。これまでの経験を活かし、“加盟店が取り組みやすい”“お客様に伝わる”ヘルスケアなど、多角的な視点で取り組んでいる。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス グループシステム部オフィサー 江村 聡信様(写真左)
前職では携帯電話キャリアの公式サイト制作・運用を担当し、コミュニケーションデザイン本部部長、クリエイティブセンターシニアマネージャーを歴任。2022年7月にセブン&アイ・ホールディングスへ入社し、デザイン組織立ち上げを統括。セブン‐イレブンのヘルスケア領域の新規事業伴走や、商品宅配サービス『7NOW』のユーザー体験向上に向き合う。
株式会社メンバーズ ポップインサイトカンパニー UXデザイナー 宮本檀(写真右)
新規事業開発やプロダクトの新機能開発などをUXデザインのアプローチで支援。「作ってみたけど使われない」をなくすために「ユーザーにとってのうれしい体験」を踏まえた事業やプロダクトを作っていきたい。
【Introduction】組織の壁を越え、イノベーションを加速させる「共創」の形
宮本: 本日はよろしくお願いいたします。本編に入る前に、改めて皆さんのチームの立ち位置についてお聞きしたいです。まず、江村さんたちの「UX伴走チーム」は、グループ内でどのような役割を担っているのでしょうか。
江村様: 私たちはセブン&アイ・ホールディングスグループの開発組織内に拠点を置く、グループ全体のUX窓口です。日々、各事業会社から漠然とした課題が持ち込まれますが、それを定量・定性のリサーチを軸に人間中心設計のサイクルに当てはめ、ビジネスを前に進めるための意思決定ができる状態にもっていくのがミッションです。
宮本: 単に作るだけでなく、より上流から関わっているのですね。
江村様: そうですね。ユーザーとテクノロジーを繋ぐだけでなく、ビジネスの視点も含めた「3つの重なり」を最大化し、イノベーションを拡大させるチームでありたいと考えています。そのため、常に複数のプロジェクトを並行して伴走しています。
宮本: その伴走相手の一つが、セブン‐イレブン・ジャパンの「ヘルスケア推進部」ですね。
里村様: はい。私たちはセブン‐イレブン・ジャパンの中でヘルスケア分野の新規事業を検討しています。部署内には「戦略的ライン」と「プロダクトライン」がありますが、今回の宮本さんたちとの取り組みは、まさに抽象的な戦略をどう形にするかという上流工程での取り組みになります。
宮本: ありがとうございます。まさにビジネス(セブン‐イレブン・ジャパン)・事業開発リード(セブン&アイ・ホールディングス)・UXデザイン(ポップインサイト)という三社の専門性が重なる体制ですね。それでは、具体的なプロジェクトの歩みを伺っていきましょう。

立ち上げ期の「右腕」から始まった、UX伴走の形
宮本: 江村さんと一緒に、UX伴走チームとしてセブン&アイ・ホールディングスの事業会社の様々なご支援を始めてからもう4年ほどになりますね。改めてポップインサイトとの関係性を教えていただけますか。
江村様: 私が4年前に入社した当時は、社内にクリエイティブデザイン職がいなかったので、デジタル文脈でユーザーの声を活かしながらサービス開発をしていくことをミッションに、エクスペリエンスデザイングループを立ち上げたんです。ポップインサイトさんには立ち上げ当初の時から、ユーザーリサーチのスペシャリストとして「右腕」のような感覚で入ってもらっていますね。

宮本: 当初はネットスーパーアプリの改善なども行いましたね。
江村様: はい。改善の優先順位をどうつけるか、感覚や経験だけでなく「何を根拠に進めるのか」が課題でした。その中でしっかりと人間中心設計の知見があるメンバーに入ってもらうことで、インタビューや日記調査、自社/競合の優位性や弱みの把握およびグロースのためのドライビングファクター調査など様々なリサーチ方法を実施いただきました。
結果、400個もの課題が出ましたが、どこを改善すればビジネスインパクトがありそうか、細かく課題の種類を分類するなどして優先順位をつけて改善していくことができました。
自社完結ではない、伴走チームと進める新規事業開発へ
宮本:今回、ヘルスケア推進部への支援が始まったわけですが、きっかけを改めて教えていただけますか。
岡崎様: セブン&アイグループ内の新規事業コンテストで、江村さんたちのチームを知ったのがきっかけです。お互いの強みを掛け合わせれば、今後ヘルスケア推進部で進める新規事業が一気に加速するのではないかと考えました。
宮本: どのような点に「加速」の可能性を感じたのですか。
岡崎様: 私たちは小売の現場や事業については理解していますが、デジタルの知見はまだ不足していました。一方で江村さんたちのチームは、エンジニアやデザイナー、ディレクターがいてデジタルの開発もできるし、さらにリサーチの機能も付随している。このチームと一緒に組めば、社外ベンダーに過度に頼らず、いいものが自社内でスピーディーに作れるだろうと期待したんです。
宮本: 当初、ヘルスケア推進部はどのような課題を抱えていたのでしょうか。
岡崎様: 正直に言うと、ヘルスケア推進部に入った当初は、ゼロからものを生み出すことに対して「何を基準に始めたらいいか」なかなか掴めず手探りの状況でした。
里村様: 私もヘルスケア推進部に入って1年半くらいなのですが、お客様にとっての「不」を探せと言われても、どうしても主観的になってしまうんです。自分はこう思うけれど、お客様はどうなのか。主観だけで考えると質が浅くなってしまいますが、今まではお店に来るリアルなお客様の声を聞くことしかできず、それ以外のお客様の声にリーチするハードルがありました。

「思考のキャップ」を外し、ユーザーの声でアイデアを磨き上げる
宮本: 今回、その課題に対して、我々からは新規事業開発において、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成するために有効とされるフィットジャーニーに沿った流れをご提案しました。その中でまずはワークショップを実施しましたが体験していかがでしたか。
岡崎様: ワークショップ自体が初めてだったので、当初はどんな形でやるのかも全然わからなかったのですが、実際にやってみると非常に勉強になりました。今後の新規事業を考える上での基礎の一つになったのではないかと感じています。
里村様: 新規事業も含めて自分たちの企業内で作っていくものだという認識でいたので、新規事業に対してのユーザー調査やアイデア出しも自分たちでやるものと思っていたのですが、伴走してもらってみんなで一緒に作るということを今回学ばせていただいたかなと思います。

宮本:実際にアイデアをお客様に評価してもらった時にはどう感じましたか。
岡崎様:実際の感想であったり、こうした方がいいのではないかというお客様の声を聴いて、まだブラッシュアップできるぞと感じましたし、より良いものが作れるのではと思いましたね。
里村様:お客様の声を聞くという視点では、私たちだけの力だと、来店してくださるお客様にしかなかなか聞けません。一方で、来店されない方たちのお声はめったに聞くことができないため、今回、そういった潜在顧客の声を聴けたのは大きかったです。
また、新規事業はセブン‐イレブン店舗と関係なしにフラットに考えないと、と思っているのですが、10年以上会社にいると、どうしても「これは難しそうだ」と考えてしまい、思考に制限がかかってしまうんです。
宮本:思考のキャップみたいなことですかね。
里村様:そうですね。その中で、お客様の声やワークショップで、自分たちでは考えが及ばないアイデアももらえたので、視野が広がりました。
岡崎様:外部の方たちの意見を入れると、そういうアイデアもできるんだなと。考えの幅が広がるのを実感できましたね。

宮本:最終的に評価されたアイデアの共通点を整理したところ、ヘルスケア推進部のミッションに近い「生活習慣を変えることなく健康のメリットを得られる」点が共通していましたね。
里村様:私たちの掲げているビジョンと合致していた時には非常に納得感がありました。自分たちの考えがお客様のニーズと合っていたことは嬉しいですし、「この考え方で間違っていなかった」と実感できました。
宮本:他のプロジェクトにも広がっていっていますよね。
里村様:はい。今回得られた「生活習慣を変えない」という考え方はプロジェクトの枠を超えて他の取り組みにも繋がっています。例えば「お客様は歩いて来店される」ということも「健康行動」なのではないかという着想が得られたので、そこから派生して別の新規事業アイデアに繋がりましたね。
江村様:今回ユーザーに評価してもらったアイデアですが、関係者の間でさまざまな意見が出たものの、ユーザーには有用に感じてもらえるものもありました。「ユーザーにとって本当に良いもの」を知ることができるため、アイデアを具体化する前に想定のユーザーの声を聞くということが、改めて重要だと実感しました。
宮本:ありがとうございます。やはり「ユーザーにとってのうれしい体験ができるか」をおさえてから、事業を具体化していけると良いですよね。プロダクトを具体化する中で、ユーザーの声を取り入れる取り組みもさせていただいていますが、そちらについてはいかがでしょうか。
江村様:セブン‐イレブンの商品宅配サービスである『7NOW』で医薬品を受け取れるようにする機能開発のPoCですね。ビジネスについての理解が深い、セブン&アイ・ホールディングスの開発メンバーがプロトタイプを作成し、UX伴走チームがリサーチでユーザビリティ上の改善点を早期に発見するという、より良いプロダクトをクイックに作り上げていく体制ができているんじゃないかと思っています。
500円は安い?高い?リサーチで見えた買い手と売り手のギャップ
宮本:今回は新規事業のアイデアに合わせて、これから取り扱いを拡大していきたい商品についてもヒアリングを行いましたよね。
岡崎様:そうでしたね。お客様の声を聞く中で、一番意外だと感じたのが「栄養検査キットMY TYPE」の価格ですね。関係者の中では500円が高いのか安いのか意見が分かれていたのですが、多くのお客様からは「500円なら安いんじゃないか。本当だったら2,000~3,000円くらいしてもいいのでは?」と言われて。それは意外でした。
宮本:確かに、6名ほどアイデアについて意見を聞きましたが、逆にちょっと高めの価格でも問題ないという方がほとんどで、私としても意外でした。
岡崎様:関係者の中では、500円だと高いという全く逆の回答が多かったのです。この商品は自分の状態を知るためにまず検査キットを使い、対応するタイプの食品を摂取したうえで、自分の栄養状態が改善されたかを再度検査するという、複数回使うものになっていまして。1回使うだけなら500円でいいけれど、何回か使うならもっと手軽な値段がいいのではという意見が圧倒的だったんです。
宮本:あくまで売る側の発想としてはもっと安くという形だったんですね。実際にこの商品で解消したい課題を抱えている方に対し、どんな体験で課題を解消できるかを理解してもらったうえで評価してもらいましたが、高い有用性を感じていただける方が複数いて、許容できる価格感も想定より高い結果となりましたね。「更年期だとこういう栄養素も分かったらすごく嬉しい」といったサービスのブラッシュアップに繋がる意見も様々な観点でいただけましたし、私としても想定ユーザーへのヒアリングの重要さを改めて実感しました。
岡崎様:お客様から聞く機会というのは、店舗で勤務をしていた時に実際に売り場に来ているお客様にアンケートを取ったり、声かけをするくらいしかできていませんでした。店舗に来店されていない方も含めて、さまざまな年代の方や、普段コンビニエンスストアを使わないような方への声が聞けたのはよかったですね。今回に限らず、他の商品の展開を考えていく上でも、ユーザーの声を取り入れていきたいと感じました。
2026年 PoC50件へ。スピードと精度を両立する体制構築へ
宮本:ここまで取り組んできて、改めてこの「共創」の体制にどのような価値を感じていますか。
江村様:新規事業の打率を上げるためには、先人が成果を出してきた「型」に則ることが大事だと思っています。例えばアイデア出しのところでのダブルダイヤモンドとか先人たちが成果を出している手法を活用し、ポップインサイトさんが入ることでプロセスが整理されたと思います。その「型」をベースにオリジナリティとか独創的なものを追加していくことが必要だと思うので、それはきっとヘルスケア推進部の皆さんが進めていけるのではないかと。
宮本:新規事業のPoCを50本実施していくというようなお話も出ていますね。
里村様:上手く役割分担をしていけたらいいと思っています。お客様のニーズ把握や調査の部分はポップインサイトさんやUX伴走チームの皆さんにお願いしつつ、案自体を考えたり実務として進めていくのは私たちで実施していく。三社が役割を分担しながら共創することによって、スピードだけでなく事業の精度も高められるのではと思っています。
宮本: 最後に、今後の展望をお聞かせください。
岡崎様: 美容、介護、ウェルビーイング。この3つの領域を中心に探索し、事業化できるように育てていきたいと考えています。自分たちだけで考えると視野が狭くなりがちなので、外部の知見を幅広く取り入れ、事業を加速させていきたいです。

江村様: 不確実性の高い時代だからこそ、こうした熱量のあるチームと一緒に仕事をすること自体が、UX伴走チームとしての価値だと思っています。ポップインサイトさんとも一緒に、最先端を走っている熱量を価値に繋げていくチームになれればと思っています。
本プロジェクトを通じて浮き彫りになったのは、自社完結にこだわらない「チームの組み方」が、新規事業の成功確率をいかに引き上げるかという点です。
現場を熟知しているからこそ陥る「思考のキャップ」に対して、いかに客観的な視点を持ち込むか。三社による共創と、顧客の声を聞く姿勢がキャップを外す一助となったのではないでしょうか。
また、三社それぞれの知見や専門性を活かした役割分担によって、事業のスピード・精度の向上に繋がることもプロジェクトの中で実感されていました。
ポップインサイトはこれからも、UXのスペシャリストとしての専門性を活かし、伴走チームの「右腕」として熱量をもって支援を続けてまいります。
●導入サービス:UXリサーチャーオンデマンド(UXRO)
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※ページ上の各情報は2025年3月時点のものです。
