Works
導入事例

【事例】調査の中で様々なデジタルツールを使うことで、総合的に考えられるようになり、環境が劇的に変わった|日本特殊陶業

日本特殊陶業株式会社
インタビュー
日本特殊陶業株式会社
ビジネスクリエーションカンパニー
ユーティリティービジネス部
ユーティリティービジネス開発課/波多野 岳様
フードカルティベーション課/大矢 誠二様

事例PDFのダウンロード
業種・事業内容
メーカー/BtoB

スパークプラグ、セラミックス製品等の製造

支援テーマ
新規事業の市場検証
利用サービス
UXリサーチ
背景・課題 新規事業立ち上げの検討
支援内容 UXリサーチャーをチームに配置し、市場検証に関わるUXリサーチを実施した
成果 ・チームメンバーにHCDが浸透した
・デジタルツールを活用することで環境が劇的に変わった
・お客様の共感を得られる提案が出来た



前回のインタビューでは、UXリサーチャーオンデマンド(UXRO)導入の流れをお伺いしました。今回は、具体的なプロジェクトの進め方についてお伺いしたいと思います。

新しい考えを取り入れないと進めないと感じ、HCDを取り入れた

---まず、ご担当者さまの部署のミッションと役割を教えてください。

波多野さん:日本特殊陶業グループは、創業時よりセラミックスのコア技術を基にプラグ、センサを中心とする製品の進化、改善に取り組んでおります。その中で、ユーティリティービジネス部のミッションは、新規事業を創出することです。大きな概念ですが、人が生きる上で関係するものをビジネスに繋げています。そして、ユーティリティービジネス開発課は、まだ具体的に大きなテーマになっていないものを取り扱い、他の課にも関わり、横の組織として動いている「HCD(※)推進チーム」、技術的なリサーチをする「リサーチチーム」も包括しています。

※HCD(Human Centered Design)/人間中心設計:ユーザーのことを理解して、ユーザーが使いやすいプロダクト・サービスを作ろうとするアプローチ

---今回、社内の別チームが調査されている中、並行してご依頼いただきました。プロジェクト開始の背景を教えてください。

大矢さん:もともとHCDの考えが含まれている書籍等で、HCDの概念にはなんとなく興味があったのですが、カンパニー内、及び、私自身もHCDという言葉は、当時メジャーではありませんでした。そのため、どのようなアウトプットが出るのかわからない状況で、予算がつけられなかった……。やりたくても、なかなか出来なかったんです。その後、新たに着任したカンパニー長が「HCDをもっと取り入れていこう」と言ってくれたので、慌ててHCDの専門書を買って読んで、HCDの概念が少し理解でき、これは実践で試すチャンスだと思い、進めていた2つのテーマでHCDを取り入れようと決めました。

---なぜ、HCDを取り入れようと思ったのですか。

大矢さん:カンパニー長は、(当初は、HCDという言葉自体は言われなかったのですが)そういった視点が必要だということをずっと発信されていました。具体的にどのようにすれば良いのかわからず、私たちのチームだけ完全にテーマが止まった状態になってしまって……。一から始めなければいけないと、藁にもすがる思いでいろいろと勉強している中で、新しい考えを取り入れないと進めないと感じ、、上記の背景もあり、HCDを取り入れました。

書籍の知識だけでは身につかないため、実践を通して学びたい

---数あるリサーチ会社の中から、ポップインサイトを選んでいただいた決め手を教えてください。

大矢さん:様々な企業をリサーチした上で、お願いしました。スピードを優先していたため、ポップインサイトさんは既に他のテーマで依頼していたという点と、スタートの対応が良かったことが決め手です。実は、個人的には、違う企業も試したかったのですが、営業さんのスピード感と親身な対応、先行テーマのリサーチャーさんの対応を受けて、この方たちなら、最後まで寄り添ってくれそうだなと思い、決断しました。

---調査前に、ポップインサイトに期待していたことを教えてください。

大矢さん:新規事業開発では、顧客ニーズを明確にしてソリューションとマッチングすることが重要です。ポップインサイトさんには、その点を期待していました。

波多野さん:私は、技術出身で製品の開発や設計を行っていたので、上流のビジネスについて考えることは始めたばかりです。マーケティングやビジネスクリエーションがよくわからないまま書籍などで勉強する中で、「人間中心」という言葉に出会いました。ただ、未知の分野でどうすれば良いのかわからず……。書籍の知識だけでは実際に身につかないと感じたため、今回の調査で実践を通して学びたいと思いました。

インタビューで得られたファクトに対して、どれだけ分析できるか

---まず、新規事業案で解決しようとしている課題の存在を確かめるため、現在の想定ターゲットの課題を把握することから始めました。最初の進め方で不安な点はありましたか。

波多野さん:そもそもインタビューの経験が乏しかったため、やり方は正しいのか、本当に潜在ニーズが見つけられるのか不安でした。技術開発では、いかに顧客要求の最短スケジュールに対して、厳しい要求品質を満足できる製品を早期提供できるかを目指していたので、今回のように遠回りなやり方で、時間をかけて、根本に立ち戻ってやる必要は本当にあるのか……?と不安に思っていましたね。

でも、実践して実感しました。インタビューだけではなく、インタビューで得られたファクトに対して、どれだけ分析するかが非常に大事だということを。今までは、ファクトが出た段階で満足していたんです。ファクトからペインリストを起こして、Doニーズ(※)やBeニーズ(※)へいかに収束(※)させていくか……この大切さを学びました。最初は発散(※)しっぱなしで、どう収束させれば良いのかわからなかったのですが、ファクトデータを順々に見ていく中で理解していきました。

※Doニーズ:〇〇したいという、生活の欲求
※Beニーズ:〇〇でありたいという、Doニーズの元になる本質的な欲求
※発散:テーマに対してアイデアをたくさん出すこと
※収束:発散によって出た複数のアイデアから結論を導くこと

大矢さん:昔の営業手法とは違い、時代の変化を感じました。この進化に気づけただけでも、とても良いツールを手に入れたと思います。環境が劇的に変わりましたね!昔は、実際に会いに行くスタイルのリサーチしか知りませんでした。その後、スポットのコンサルに依頼して、ちゃんとしたモニターに聞けるようになったんですが……。ヒアリングと言っても表面的なことを聞くだけで、情報がどんどん積み重なって、結局どれをやれば良いのかわからず、いわゆる発散だけをしていたんです。

それが今回、調査の中で様々なデジタルツールを使うことで、どのようなモニターと話せば良いのかがわかり、総合的に考えられるようになりました。Do/Beニーズまで考えていく方法を知り、そこまでやることによって、ようやく「マーケティングというものが出来るようになった」と感じました。しかも短期間で。

共通する課題を立てることが出来て、他分野に上手く繋げられた

---これまで、新規事業開発はどのように進めていたのですか。

大矢さん:ベースは既存事業の考えからスタートします。既存事業は、仲の良いお客さんに聞きに行き、それに沿って製品を作れば問題ないのですが、新規事業は聞きに行く相手がいないので、R&Dソリューション……技術のところだけ目標を立てずに先にやってしまっていました。そして、仲の良いお客さんに紹介されたお客さんや聞きやすいお客さんに軽くヒアリングするだけで進めてしまい、売れない、小規模な市場しかない……となるパターンです。これでは、成功する訳ないですよね(笑)。そんな時、カンパニー長から、新規事業における「ニーズ発信」の考え方を聞いて、HCDに繋がっていったんです。

---スケジュールがタイトでしたが、大変ではありませんでしたか。

波多野さん:全体を通してとにかく大変でした。こちらからも情報を出さなきゃいけないので。情報のキャッチボールをする中で、私たちがボールを持ったままだと進まないし、止めちゃいけないなと……。そして、ポップインサイトさんに全部お任せではなく、私たちの中でも検討や分析をするスタイルだったので、その分やはり工数はかかりましたね。初めてでわからない部分は、試行錯誤しながらチームで相談しながら進めたので、短時間では難しかったです。ただ、良い雰囲気で進められていました。

---今回のプロジェクトで得られた結果や示唆から、上手く次のステップに繋げられたと感じますか。

波多野さん:上手く繋げられました。もともと、ある業界に固執していたところから他分野へどう広げるかを問われていたのですが、業界を超えて共通する課題を立てることが出来たので、他分野に上手く繋げられました。

Do/Beニーズによって、本質的な提供価値を考えることができる

---今回のプロジェクトで把握できた課題から、既にあった新規事業案をブラッシュアップしていくアイディエーションも行いました。アイディエーションの方法や、UXリサーチャーの関わり方はいかがでしたか。

波多野さん:アイディエーションはホワイトボードツールのMiroを使って、プロジェクトメンバー4名で発散させながら収束させるプロセスで、ポップインサイトさんにも共有しながら進めました。もう少し時間があれば、一緒にアイディエーションしたかったですね。お互い同じ時間で話し合えば、また違った広がりもあったかもしれないなと思いました。

---アイディエーションの進め方で、気になった点はありましたか。

波多野さん:最初はなかなかアイデアが出ませんでした。Do/Beニーズまでいき、深層ニーズがわかっている中で、ポップインサイトさんの助言も踏まえながら導き出そうとしても、アイデアをたくさん出すというのは、簡単なようで難しかったですね。

---その後、ブラッシュアップしたアイデアを元に、ソリューションインタビューとして、セールスシートを作成して受容性を評価しました。このプロセスによって、ソリューションを十分に評価できたと思いますか。

波多野さん:一定の評価はできました。モニターの方にセールスシートを提示して、生のコメントが聞けて、こういったやり方があるんだと実感できました。ただ、初回にインタビューしたモニターの方の課題を解決させているので、再度インタビューしたらそりゃ満足するだろうなと思っていました。2回目は、初回にインタビューを受けていない、フラットな状態の方にインタビューして、もう少し幅広い視点を見たかったですね。良いモニターが見つからず、仕方なかったのですが……。

---ソリューション評価まで行った結果、良かった点を教えてください。

波多野さん:実践を通して、自分の手を動かして学ぶことができました。一番期待していたところですね。また、Do/Beニーズを行った後、分析やアイディエーションなどができて勉強になりました。いくつかのプロセスがあると思いますが、その中の王道の道を、軸として自分の中に確立できたと思います。

大矢さん:Do/Beニーズという概念を知れたことですね。これによって、本質的な提供価値を考えることができるとわかりました。「この観点で他市場を検討し、Do/Beニーズが刺されば他市場でも展開できることがわかるんだ!」と新しい発見でした。私たちのチームでは、ステークホルダーマップも使ったので、どのような人にどのようなアプローチしていけば良いか、総合的に見ることができました。今までは、狭い範囲しか見えていなかったのですが、総合的にベストなサービスは何なのか、考えるきっかけになり、想像以上の結果でした。

昔のヒアリング方法では、Do/Beニーズまでたどり着けなかった

---ユーザー視点を取り入れた新規事業開発のアプローチは、これまでのアプローチと比べていかがでしたか。実際に取り組んでみて、どのように感じられたか教えてください。

波多野さん:もともとモノベースだったところから顧客視点になったので、こんなやり方があるんだって思いました。従来よりもニーズベースの方が良いです。現在、モノベースで動いている他のプロジェクトでは、「顧客の声が聞けていなくて、顧客に伝わらない(=なかなか売れない)」という課題が出ています。今回のプロジェクトと照らしてみると、顧客視点が欠けているからこのような課題が出るのかと……、全体を通して繋がりましたね。

大矢さん:結局、ニーズを如何に深堀り出来るかが新規事業を成功させる鍵だと思いました。ソリューションありきで考えるにしても、ニーズの深堀りは重要だと感じます。私たちはソリューションに寄りすぎていたので、一度、今回のようなニーズを深掘りする体験をするとバランスがとれるんじゃないかと思います。

---実際にUXリサーチを行い、難しいと感じた点はありましたか。

波多野さん:時間がかかるところですね。ビジネスの全体像で捉えると最短距離ですが、最初の部分だけ見ると時間がかかるように見えてしまいます。上層部が求めている組織のスケジュール感と合ってないと感じます。一サイクルでできちゃうって思われているため、何回もサイクルを回すという認識がなく、そこの進め方が難しいですね。

大矢さん:ヒアリングが難しく、そして重要だと思いました。昔のヒアリング方法を続けていたら、Do/Beニーズまでたどり着けなかったです。実際のヒアリング設計では、ポップインサイトさんの長年のノウハウを感じました。ポップインサイトさんのヒアリング結果があれば、Do/Beニーズを導き出せるかもしれませんが、今後、私たちだけでヒアリング自体をやり切れるかは、中々難しいんじゃないかとも思いますが、挑戦していこうと考えています。

課内に絶大な影響!HCDという考え方が普通になっていた

---今回のプロジェクトを通じて、社内のUXリサーチに対する意識の変化はありましたか。

大矢さん:課内に絶大な影響がありました!もう、一年前とは全然違います。HCDという考え方が普通になっていますね。もともと一年前、プロジェクトがなくなったときに、書籍などで勉強して「ニーズ発信」でやっていくことになり、ヒアリングなどを行ったのですが、上手くいかず……。今回のプロジェクトでHCDのUXリサーチを通じて、重要なお客さんにヒアリングできるようになり、書籍に書いてあることを実際できるようになったと体感したので、課内メンバーのマインドチェンジに繋がりましたね。

ただ、プロジェクト自体が進行中で、まだ成功したわけではないということもあり、まだ課外へは浸透していない気がします。興味がある人はちらほらいると聞きますが、課で予算をとるのが難しい印象ですね。

波多野さん:実践したメンバーの意識はかなり変わりました。つい最近、今回のプロジェクトに対して一連のソリューションを紐付けて、お客さんに提案に行ったのですが、ものすごく共感を得ることができ、「いいね、もっと次のステップ進めよう」という話まで進みました。そういった経験が手ごたえになって、お客さんに刺さるという成果に結びついて……大きな意識の変化に繋がりました。

大矢さん:Do/Beニーズがお客さんに刺さっているから共感までいくんですね。根本的なところから同じ思想にマッチングするので、そこから熱狂的なお客さんがつくのかなと思いました。

波多野さん:その一方で、課外へはまだ認知されていません。課外のメンバーは実践していないので、きちんと腹落ちできていないのではないでしょうか。別チームでも調査を重ねてきているので、HCDの認知はされつつあると思いますが、単語だけが独り歩きして、何でもHCDを通せば成功するという誤解がある気がしています。本来は、スタート地点にHCDがあるのがスタンダードなやり方ですが、モノが決まってから、HCDをやってよと言われたりします(笑)。まず、立ち戻って考えるということの理解を伝えるのが課題ですね。また、HCDは短期間でできるという誤解もあります。インタビューをすれば深層ペインがわかると思われている気がしますね。インタビュー後、深層ペインまでの分析に時間がかかるものなのですが……。組織の中で認知を広げていく難しさを感じています。

---今回のプロジェクトでHCDを取り入れたことによる、上層部の反応はいかがでしたか。

大矢さん:カンパニー長は、「ようやく当たり前のことができたね」という感じでした(笑)。まだ他の上層部の方は、HCDを理解されていない方もいる気がします。ただ、今回の調査の結果、それぞれのテーマでお客さんと強い絆ができているので、HCDで出た結果に対しては前に進めるという理解はできていると思います。

やり方がわからず不安ばかりだったが、プロと一緒に対等に進めていけた

---担当UXリサーチャーはどのような存在ですか。率直な感想を教えてください。

波多野さん:頼もしい存在で、非常に心強いパートナーでした。私たちチームメンバーだけだと、やり方もわからず不安ばかりだったのですが、プロの方と一緒にやって、対等に進めていけることが良かったです。

大矢さん:一般的なコンサル企業は、経験があるので上から指示してくる印象ですが、最初無知だったかもしれない私たちに(笑)対等に、フレンドリーに接してくれたのでやりやすかったです。多分、普通のコンサルでは相談できない軽い相談もできたのではないかなと思います。

---ありがとうございます。ポップインサイトは、お客様と一緒に事業を進めていくパートナーだと思っていますので、そのように言っていただけて嬉しいです。最後に、ポップインサイトに期待することを教えてください。

波多野さん:ちょっとやってみたいのは、今回行ったHCDプロセスというのは一つのやり方で、まだまだ色々なやり方があるのではないかと思います。他の選択肢も見た上で、今回はこうやっていこうと選べると良いなと感じました。今回わかった一本の道から、まだ知らない他の道に繋げるために、こういう道もあるんだよということを事前に示していただきながら、一緒に広げていけたら良いなと思っています。

大矢さん:2021年12月の組織変更で、方針書にHCDが明確に記載されるようになり、言葉の認知はかなり広まったと感じます。ただ、しっかりと理解できている人は少なく、実際に理解できている人材は今回のプロジェクトメンバー+数名くらいだけです……。やりたい人はたくさん出てきているので、彼らとも伴走して教えていただけると、やりやすくなっていくと思っています。今後、新たな伴走をお願いする予定です。

<担当UXリサーチャー黒澤より>

インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。社内のご事情や、プロジェクトを進める中で、どのようなことを考えられていたのかが分かり感慨深いです。ご迷惑をおかけしたこともございましたが、結果的に日本特殊陶業様の社内メンバーの意識にまで影響を与えられていると聞き、とても嬉しいです。

今後も伴走させていただきながら、より良いサービス設計やアプローチ方法を見つけていければと思います。今後とも何卒よろしくお願いいたします。


●導入サービス
UXリサーチ

※ページ上の各種情報は2021年12月時点のものです。

投稿日: 2022/04/01 更新日: