UX改善効果を数値化して社内理解を得るために:最も重要な7つのKPI
本記事はTestingTime社より許可を得て翻訳したものです。
元記事:”The 7 most important UX KPIs and how to measure them”, 29. January 2019
著者:Sandro Meyer
ユーザーエクスペリエンス(UX)の改善は、Webサイトの運営やWebマーケティングにおいて重要な課題です。しかし、UXの重要性を説明したりUX改善の効果を測定したいときにはどのような数値を確認すればよいのでしょうか?
本記事では、UXの効果を測定するための7つのKPI(パフォーマンス指標)とその測定方法をまとめた米国TestingTime社のブログ記事を紹介します。
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目次
『測定できるものは管理できる』
『測定できるものは管理できる(”What gets measured, gets managed”)』
―これは、アメリカの経営思想の父、ピーター・ドラッカーの言葉です。
残念ながら、UXの世界にこの考えは十分に浸透していないのが現状です。しかし、数字で裏付けた明確な結果がなければ、組織の上層部にUXの推進を提案し、より多くの予算を得ることは難しいでしょう。
あなたは、社内の「スーパーマン」のような役割を期待され、明確な根拠もないままUX施策に取り組むことに限界を感じていませんか。しかしそれでも、社内スタッフに「UX」を受け入れ理解して欲しいとお考えなら、是非、本稿を読んでみてください。
「UX」というと、複雑なアンケートやユーザーインタビューが連想されがちです。しかし、UXの効果と進捗を具体的な数値に置き換えて評価できる指標は、実はたくさん存在するのです。
本稿ではUXの効果を計測するために最も重要な7つの指標を紹介しますが、その前に以下のトピックについて説明していきます。
- KPIとはなにか?
- KPIとROIの違いはなにか?
- UXのKPIを測定すべき3つの理由
- UXのKPIには何を設定すべきか
KPIとはなにか?
KPIはプロジェクト・部門または企業における目標の達成度合を数値として表し、成功と失敗を判断する指標です。
KPIは通常、プロジェクトごとに異なるので、個別に設定する必要があります。
例えば、アメリカのコミックヒーロー「スーパーマン」のKPIは次のようになります。
- 1時間あたりの救助者数
- 犯罪現場に到着するまでの飛行時間
- ヒーロースーツへの着替えにかかる時間(10億分の1秒単位で計測)
企業の営業部門がKPIとしてよく利用するのは「コンバージョン率」です。コンバージョン率とは、例えば10件の顧客アポイントメントのうち成約は2件というような指標です。
一方、UXにおけるKPIは人間の行動や意見、感情を数字に変換するという点で他のKPIと大きく異なります。UX担当者は、UXのKPIを行動KPIと態度KPIという大きく2つに分けて考えます。
「行動KPI」:クリックや入力など、ユーザーが実際に起こした行動によって評価する指標
例:タスク成功率、タスク処理時間、検索とナビゲーション、ユーザーエラー率
「態度KPI」:ユーザーの発言によって評価する指標
例:システムユーザビリティスケール(SUS)、ネットプロモータースコア(NPS)、顧客満足度(CSAT)
KPIとROIの違いはなにか?
企業は、ROIとKPIを使用して、特定の目標の達成にどれだけ成功したかを測定できます。
ROI(投資収益率)は純粋に財務的な指標です。投資に対してプロジェクトがどれだけ成功したかを数値化します。例えば、オンラインショップを改善するためにUX施策に10,000ユーロを投資し、翌年には25,000ユーロの収益を上げた場合、ROIは150%となります。
一方、KPIとはプロジェクトの達成度合を具体的な数字に変換したもので、自分で選んだり定義したりすることができる点でROIと異なります。
ROIは財務指標に過ぎませんが、KPIは、コールセンターの従業員からCEOまで組織のほぼすべての従業員に応じて設定でき、さまざまなプロセスに適用できます。
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UXのKPIを測定すべき3つの理由
UXのKPIを測定したほうがよい理由はたくさんあります。このうち、最も重要な理由は以下の3つです。
➀ステークホルダーとの意見のすり合わせがしやすくなるから
➁KPIがベンチマークとしての役割を果たすから
➂早い段階でプロダクトやサービスの問題を察知できるから
➀ステークホルダーとの意見のすり合わせがしやすくなる
KPIはUXの課題や戦略的な目標を社内の意思決定者により効果的に伝えるのに役立ちます。
KPIがあれば、「ここが使いやすくなった」といったような漠然とした主張で上司の評価を得ようとする必要はありません。その代わりに、客観的でしっかりとした事実や数字に基づいた議論をすることができます。
逆に、KPIがないと、UXチームの成果が、価値があり効果的であったかどうかを、プロジェクトの各段階(前・中・後)において証明することは、ほぼ不可能でしょう。
また、KPIのような信頼性の高いデータがあれば、UXの年間予算を決定する際の議論がはるかに進めやすくなります。さらに、給与にパフォーマンス関連のボーナスが含まれている場合は、KPIを使用して収益に対する「効果」を証明することもできます。
➁KPIがベンチマークとしての役割を果たす
果たすべき目的へ向かう前にはまず、自社の現状を正確に知る必要があります。現在地を把握しさえすれば、目的地からどれだけ遠く離れていても正しい方向に一歩進めることができるのです(旅行の計画と同じですね)。
この時、KPIという強力なビジネスナビゲーションツールがあれば、方向を間違えたり貴重な時間とお金を無駄にしたりすることを防げます。
また、UXデータを使用し、社内外のデータソース(例えばデータがある場合は競合他社)と比較してプロジェクトのベンチマークを行い、まだ課題が残っている場所を見つけることもできます。
➂早い段階でプロダクトやサービスの問題を察知できる
KPIは、大量のデータによる複雑さを劇的に軽減し、製品やサービスの「健康状態」に関して迅速かつ正確な情報を提供してくれます。
KPIは、医師にとっての脈拍、体温、血圧のような役割を果たします。これらの重要なデータを使用して、問題があるのか、介入が必要なのかといったことを迅速に判断することができます。
UXのKPIには何を設定すべきか
UX施策の成功の鍵は、真に関連性のあるKPIを測定することにあります(例えば、ねん挫した腕を治すために患者の腰回りを測定しても、ほとんど意味がありません)。
組織やプロジェクトにとって最も重要なKPIを2~3つ測定することに焦点を当てることから始めるのがベストです。
重要な指標を常に把握しておけば、最初から混乱を避けることができます。
目標やプロジェクトによって、測定する必要のあるKPIは異なります。例えば、ウェブサイトの登録数の増加を目標とする場合は、「ログインフローにかかる処理時間」「ユーザーエラー率」が考えられます。
また、売上増加を目標とする場合は、「タスク成功率」「1回の購入あたりクリック数」といったKPIが考えられるでしょう。
UXの効果測定に最も重要な7つのKPI
UXのKPIは行動KPIと態度 KPIに大きく分けられます。
行動UX KPI(ユーザーが実際に起こした行動によって評価する指標)
行動KPIはユーザーが実際に行っていることや、ユーザーが製品やWebサイトをどのように利用しているかを数値で表すものです。
行動KPIに関するデータは、通常、インタビュアーやオブザーバーの介入なしに完全に自動的に収集することができます。このため、行動KPIは、KPI測定を始めようと考えたとき、シンプルで安価な方法といえます。
1.タスク成功率
2.タスク処理時間
3.検索・ナビゲーション比率
4.ユーザーエラー率
1.タスク成功率
タスク成功率(The task success rate:TSR)は正しく実行されたタスクの数を測定します。KPIとしてとてもよく使用される指標です。
例えば、フォームに記入したり、製品を購入するというように、タスクに明確に定義された終了時点がある場合、TSRを測定することができます。
ただしデータ収集を始める前に、特定のケースでどのような行動を成功とみなすかを明確にしておく必要があります。
■タスク成功率=タスクを正しく遂行できた数/タスク試行数
出典:TestingTime
タスク成功率は、ユーザーがタスクをうまく完了できない理由についてはなにも教えてくれませんが、初めに確認すべき非常に価値のある指標といえます。
基本的に、タスク成功率が高いほどユーザーエクスペリエンスは向上します。
例:
10人の被験者に、花の配送会社のオンラインショップで、急ぎ指定の宅配便とクレジットカード決済を使って、赤、黄、白のバラを10本注文するというタスクを与えました。被験者のうち8人はタスクを成功させることができましたが、2人は成功しませんでした。
ユーザー1はクレジットカードでの支払いの際に問題があり、タスクを成功できませんでした。
ユーザー2はウェブサイト上で黄色のバラを見つけることができず、タスクを成功できませんでした。
この場合、タスク成功率は以下のように計算されます。
8/10 = 0.8 x 100 = 80%
この際、可能ならば「初めてタスクを実行する」ユーザーのタスク成功率も測定することをおすすめします。2回目以上の経験があるユーザーの場合に指標がどのように変化するかを確認することができるからです。
2.タスク処理時間
タスク処理時間は、ユーザーがタスクを正常に完了するのに必要な時間(分単位、秒単位)を記述するものです。
通常、平均的なタスク処理時間は、最終的なKPIとしてよく利用されています。
基本的にタスク処理時間が短いほどユーザーエクスペリエンスは向上します。
例:
7人の被験者に、「ウェブサイト上のカスタマーサービスの電話番号を探す」というタスクを与えたところ、以下のとおりの時間がかかりました。
この場合、タスク処理時間は以下のように計算されます。
(22+15+60+24+18+31+17)/7=26.71秒
3.検索・ナビゲーション比率
ナビゲーションバーは、ウェブサイト内の非常に重要な要素です。ナビゲーションから見たいページに到達できなかったユーザーは、次に検索機能を使用します。つまり、検索機能の使用が少ないほどユーザーエクスペリエンスは向上するのです。
しかし、ナビゲーションバーと検索、この2つのメトリクスのどちらがより望ましいかは、ケースバイケースで決定したほうがよいでしょう。
例えば、サブページが10ページしかないWebサイトの例を考えてみましょう。
この場合、通常は検索機能は必要ないため、検索機能のメトリクスを考える必要はありません。
■検索・ナビゲーション比率=検索またはナビゲーションを利用しタスクを遂行できた数/タスクを遂行できた数
出典:TestingTime
例:
9人の被験者に「花屋のオンラインショップで3本のヒマワリを注文する」というタスクを与えます。
次に、ナビゲーションフィールドと検索フィールドを何人のユーザーが利用したかを分析します。最後に、検索・ナビゲーション比率を計算します。
検索比率の計算 3/9=0.33×100=33%
ナビゲーション比率の計算 6/9=0.66×100=66%
4.ユーザーエラー率
ユーザーエラー率(User error rate:UER)とはユーザーが間違った入力をした回数のことです。例えば、住所欄に生年月日を入力して失敗となるような場合が考えられます。
ユーザーエラー率はウェブサイトがどれだけ明確でユーザーフレンドリーであるかの目安となります。つまり、ユーザーエラー率のスコアが高ければ高いほど、ユーザビリティの問題が多いということになります。
この場合、ユーザーのどの行動がエラーとなるかについて事前に定義しておくことが重要です。
以下、最も一般的なユーザーエラー率の測定方法を2つ紹介します。
ユーザーエラー率測定方法① エラー発生率(Error occurrence rate)
タスクにおける1つのエラーを検討する場合(または、複数の想定エラーのうち1つだけを測定したい場合)に使用するメトリクスです。
■エラー発生率=タスク遂行に失敗した数/テストを実施した数
出典:TestingTime
例:
100人中5人のユーザーが「メールアドレス再確認欄」にメールアドレスを誤って入力した。
この場合の「エラー発生率」は次のように計算されます。
5/100 = 0.05 x 100 = 5%
ユーザーエラー率測定方法② エラー率(Error rate)
タスクごとに複数のエラーが発生する可能性がある場合(または複数のエラーを測定したい場合)に使用するメトリクスです。
■エラー率=タスク遂行においてエラーが起きた回数/タスク試行数
出典:TestingTime
例:
6人の被験者に銀行のオンラインポータルで振込を行うタスクを実施させます。
このタスクには5つのエラーが想定されており、ユーザーのエラーの数は以下のようになりました。
この場合の「エラー率」は以下のように計算されます。
(3+1+2+3+2+1)/6×5= 0.4 x 100 = 40%
つまり、エラーの数の平均がエラー率となります。
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態度UX KPI(ユーザーの発言によって評価する指標)
態度KPIは製品を購入する前、購入中、購入後にユーザーがどのように感じているのか、何を言っているのかを測定するものです。ここでは、以下3つの指標を紹介します。
5.システムユーザビリティスケール(SUS)
6.ネットプロモータースコア(NPS)
7.顧客満足度(CSAT)
5.システムユーザビリティスケール(SUS)
発明者のJohn Brooke氏によると、システムユーザビリティ・スケール(SUS)は、製品のユーザビリティをテストするための「Quick and Dirty(完成度は低くてもスピード重視で一旦形にする)」ツールです。
このスケールは10項目のアンケートで構成されています。それぞれの項目について「非常に同意する」から「全く同意しない」まで5段階の回答ができます。
例: Webサイトのユーザビリティ値の測定
あなたのウェブサイトのユーザビリティの価値を測定したいとします。
下記のアンケートを使用して「SUS」スコア(0~100、平均は68)を計算しましょう。もしスコアが平均値68を下回るようであれば、そのウェブサイトには重大な欠陥があるため、改善する必要があります。
1.このWebサイトを頻繁に使用したいと思う
2.Webサイトは不必要に複雑だった
3.Webサイトが使いやすいと感じた
4.このWebサイトを利用するには、技術者のサポートが必要だと思う
5.このWebサイトのさまざまな機能は上手くまとまっていると思う
6.このWebサイトには矛盾がとても多いと感じた
7.ほとんどの人がすぐ使いこなせるようになるWebサイトだと思う
8.このWebサイトは使うのがとても面倒だと感じる
9.自信を持ってWebサイトを操作できた
10.このWebサイトを使いこなすには事前にたくさんの知識が必要だと思う
(訳参照)UX MILK, ”ユーザビリティの評価は何をどう計測すればいい?”
6.ネットプロモータースコア(NPS)
ネットプロモータースコアは1つのシンプルな指標で顧客満足度とロイヤリティを測るものです。NPSは統計的に企業の成長と相関があるとする研究も複数あります。
ユーザーは、NPSを決定するために次の1つの質問をするだけです:
「あなたが友人や同僚に(ブランド、ウェブサイト、サービスなど)を推薦する可能性はどのくらいですか?」
ユーザーはこの質問に1(非常に可能性が低い)から10(非常に可能性が高い)までの尺度で答えます。回答は3つのカテゴリー「推奨者」「中立者」「批判者」に分類され、「中立者」は計算に考慮されません。
批判者(Detractor):0~6
中立者(Passive) :7~8
推奨者(Promoter) :9~10
ネットプロモータースコアは以下のように計算されます。
(推奨者数ー批判者数)÷(回答者数)×100
例:50人の参加者を対象としたアンケートで、以下のような結果を得ました。
批判者:0~6 10人
中立者:7~8 10人
推奨者:9~10 30人
この場合、ネットプロモータースコアはこのように計算されます。
(30 – 10)÷50 = 0.4 x 100 = 40%
■ネットプロモータースコア(NPS)=(推奨者の人数-批判者の人数)/調査人数x100
出典:TestingTime
7.顧客満足度(CSAT)
CSATは、とても便利なメトリクスで顧客満足度を表します。
ユーザーに次のように質問します。
「どのくらい(ウェブサイト、製品、サービスなど)に満足していますか?」
結果は0から100までのパーセンテージで、100は最大の顧客満足度を表します。
スケールは通常「非常に不満」から「非常に満足」までの5段階です。
出典:Userlike
CSATスコアは、迅速でかつ容易に決定できるので、顧客とのやり取りが発生するいくつかのポイント、言い換えれば、すべてのマーケティングファネル(TOFU、MOFU、BOFUフェーズ)で測定することもできます。
※TOFU、MOFU、BOFUとは、マーケティングにおける集客の段階を分けた各段階を示します。TOFUは「Top of the Funnel」、MOFUは「Middle of the Funnel」、BOFUは「Bottom of the Funnel」の略です。
また、この方法を使用すると、目標到達プロセスのどの時点で顧客が立ち往生しているか判別できます。
■顧客満足度=満足した顧客の数/ 回答者数 x 100
1非常に不満
2不満
3どちらでもない
4満足
5非常に満足
CSATスコアを計算するには、このうち、「満足」「非常に満足」と回答したユーザー数をカウントします。
例:
商品やサービスなどの購入後、10人の顧客に、あなたのウェブサイトの使いやすさにどの程度満足しているかを尋ね、以下のように答えたとします。
CSATスコアは非常に満足5と回答した人数から以下のように計算されます。
(5 / 10) = 0.5 x 100 = 50%
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まとめ
この記事で紹介したKPIは、UXの価値を同僚や上層部に説明する際にも、また、UXが組織においてそれに値するステータスを持つためにも、非常に強力なツールとなるでしょう。
測定を始めるのが早ければ早いほど、成果が期待できます。UXの効果を測定可能な数値に置き換え、上司に自信をもってUX改善を提案しましょう!
著者について
Sandroは、Apple、flatevを経て、現在、TestingTimeでマーケティング責任者。また、2020年に自身のGrowth MarketingAgency「Growth Bay」を起業、運営しています。
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数あるUXリサーチ手法の中でも最初に始めやすい「ユーザビリティテスト」の「基本的な設計・実査・分析の流れ」と「実施の進め方や注意点」を解説します。