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アプリのUX 銀行アプリのUX改善事例 Google Play評価が2.8→4.7になったワケ

ユーザーエクスペリエンス(UX)という概念は、ここ近年で急速に普及し、あらゆる企業がUX改善プロジェクトを立ち上げています。
しかし、実際、どのような流れでUXを改善すればよいのでしょうか?
また、UX改善の効果はどのように評価すればよいのでしょうか?

本稿では、世界27か国で70を超える金融機関のUX改善に携わってきたUXDA社が実施したモバイルバンキングアプリの事例ケーススタディから、実際の改善フローと評価方法についてご紹介します。

※本記事はUXDA社より許可を得て翻訳したものです。
 元記事:Mobile Banking UX Case Study: From Hated to Loved
 著者:Alex (Founder/ CEO/ UX Strategist), Arita(Senior UX Architect/ UX Consultant)

中東の銀行業界デジタル化のお手本「ヨルダン銀行」

ヨルダン銀行のモバイルバンキングアプリは、GooglePlayで当初2.8という低い評価でした。しかし、その6ヶ月後、評価は4.7へ上昇しました。

一体どのようにして評価をあげることができたのでしょう?

それは、ヨルダン銀行が抜本的なUXの改善に取り組んだからにほかなりません。

UX改善の取り組みにより、ヨルダン銀行のモバイルバンキングアプリは飛躍的に改善されました。そして、中東地域の何百万人もの顧客にとって、ヨルダン銀行はかつてないほどアクセスがしやすく、便利な存在へと変化したのです。

本稿では、多くの人々の銀行に対する見方を大きく変化させたと言われる、ヨルダン銀行のDX(デジタルトランスフォーメーション)の事例を詳しくご紹介します。


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中東の銀行業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の春

ここ数年、中東地域の銀行業界には、急速なデジタル化の「春」が訪れています。

多くの大手銀行は、リテール顧客向けにモバイルバンキングアプリを新たに立ち上げました。ヨルダン銀行のケースは、その成功例といえるでしょう。ヨルダン銀行は、UXの大幅な改善により、銀行業界におけるデジタル化のお手本といわれる存在となりました。

新しいアプリのリリース以来、ヨルダン銀行の顧客満足度は着実に高まっています。顧客中心主義がデジタルバンキングの成功にいかに大きな影響を与えるかということをこの例を通して、読者のみなさんにお伝えしたいと思います。

プロジェクト概要
企業:ヨルダン銀行
プロジェクト:モバイルバンキングアプリ
実施期間:4-6カ月
予算:5~10万€
UXDAの役割:
ステークホルダーインタビュー、製品品質監査、競合他社分析、ユーザーリサーチ(ペルソナの構築)、ユーザージャーニーマップ、情報アーキテクチャ、シナリオフローマップ、ワイヤーフレーム、デザイン


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顧客のフラストレーションの原因は「多機能」

ヨルダン銀行の最初のアプリは、様々な機能を搭載していました。残念なことに、「多機能」はしばしば問題になります。

顧客は機能が多すぎることでわかりにくく感じ、預金残高の確認のようなシンプルかつ利用頻度が高い機能すら実行できずに終わってしまっていました。

「多機能」がもたらす複雑さと情報の多さにより、顧客はアプリをうまく活用することができなかったのです。

例えば、請求書支払いのような日常的な行為は、実はアプリを利用すれば簡単に実行できました。しかし、顧客はアプリを利用せず、わざわざ銀行の支店に出向いていました。

顧客は、このアプリに不満を感じており、アプリを利用して自分の資産を管理することはできないと思っていました。それだけでなく、アプリを利用することで、自分自身では解決できない疑問や質問をさらに抱えるようになってしまっていたのです。

また、支店へ足を運ばねばならないことは、支店でどのくらいになるかわからない待ち時間を過ごさねばならなかったり、ほかにすべきことができなかったりということにつながり、多くの顧客が不満を抱いている状況でした。

さらに、このアプリのデザインは時代遅れな印象を与えており、最新のモバイルバンキングについて顧客がイメージするものとはかけ離れていました。

「顧客の日常生活における金融業務をサポートし、日々をより良いものにするため」のアプリ提供でしたが、それとは反対に顧客を失望させてしまっていたのです。

このため、ヨルダン銀行の最初のアプリは、GooglePlayで5点中2.8という評価でした。人々は、時代遅れのデザインであること、複雑で使いにくいことに不満を抱いていました。

GooglePlayのユーザレビューに書かれていたのは、「お願いだからアプリを刷新してほしい」「削除したほうがいい」「使用中に心臓発作を起こさないようにしよう」「ひどすぎる、1点以下の評価だ」といった辛口のコメントでした。

顧客の不満が増すことは別の銀行への切り替え意欲の高まりにつながります。このため、ヨルダン銀行内では、危機感が急速に高まっていました。

UX改善の目標は「支店に代わる」モバイルアプリ

以上のことから、ヨルダン銀行は、顧客が自身の資産を簡単に管理できるよう、モバイルバンキングアプリを大幅に改善したいと考えていました。

ヨルダン銀行が目指したのは、使いやすくわかりやすい、100%ユーザーフレンドリーな新しいアプリです。新規の顧客を引きつけるとともに、現在の顧客を維持することが最大の目的でした。

最初のアプリを提供した際、ヨルダン銀行は、Product Value Pyramid(価値要素ピラミッド)を参考に基本機能を設計しましたが、顧客を満足させ、競合他社と肩を並べるには、それだけでは不十分であることに気がつきました。

また、ヨルダン銀行は、デザインにおいても競合他社よりも際立っていることに加え、なにより重要なこととして、アプリが使いやすく、素晴らしい顧客体験をもたらすよう改善したかったのです。

言い換えれば、口座残高の確認、請求書の支払い、送金といった行為が、外出中であってもどこからでも実行できるような操作しやすい設計にしなければならないと感じていました。

彼らは、顧客が支店に行かずとも、多くの操作をアプリ上で実行できるようにしたいと思っていました。アプリの利用を促進することで、定期的に銀行の支店を訪れなければならないといった、多くの人々の悩みを解決したいと考えていました。

このため、Product Value Pyramid(価値要素ピラミッド)において、より上位の概念を満たし、デザイン的にも美しく、使いやすいアプリを作成しなければなりませんでした。

UXリサーチによる課題の把握

ヨルダン銀行の新しいアプリは、UXDA独自のFinancial UXDesign Methodology(金融UXデザイン手法)に基づいて作成されました。

Financial Design Methodologyとは、Product Value Pyramid(価値要素ピラミッド)、Design Pyramid(デザインピラミッド)、Experience Pyramid(体験ピラミッド)の3つから構成されています.

このUXDA独自のFinancial UX Design methodology(金融UXデザイン手法)は15年間にわたる開発の末、現在すでに世界27か国で70を超える金融機関のデジタル製品を成功に導いています。

UXリサーチ概要
目的設定:ステークホルダーインタビュー、製品品質監査、競合他社分析
リサーチ:ユーザーリサーチ、ユーザージャーニーマップ、レッドルート分析
エンジニアリング:情報アーキテクチャ、シナリオフローマップ、ワイヤーフレーム
デザイン:デザインリサーチ、デザインコンセプト、ユーザビリティテスト

ペルソナとシナリオの設定

優れたUXを兼ね備えたモバイルバンキングアプリを作成するには、我々は顧客がなぜ、どのように既存のアプリを利用しているかを把握しなければなりませんでした。

まず、メインとなるペルソナを特定しました。たとえば、2人の子供を持った母親で、家事をこなしつつ繁忙度の高い仕事も両立しなければならないというような設定です。

このように具体的なユーザーを仮定することで、この女性に共感することができるようになります。そして、彼女がアプリを利用する上で、頻繁に実行する重要なタスクを発見します。

次に、それが彼女にとってなぜ重要なのか、彼女はそのタスクをどのように感じているのか、彼女はどのような行動パターンをとっているかなどを話し合っていきました。

そして、Jobs To Be Done(ジョブ理論)フレームワークに基づき、各ペルソナにおけるシナリオリストを作成しました。

ペルソナは新しいアプリをどのような流れで利用するでしょうか?
なぜ、ペルソナはある特定のシナリオに沿って行動しているのでしょうか?
それはどのような状況でしょうか?

このプロセスを通じて得たペルソナの主要なシナリオをいくつかご紹介したいと思います。

ペルソナにおける3つのシナリオ
「スーパーマーケットで買い物していたとき、買いたいものが買えるか残高を急いで確認したい」
「家計簿をつける際、まだ支払っていないお金がどのくらいなのか知って早く対応したい」
「今月のピアノのレッスン料をまだ振り込んでいないみたいって娘が電話してきた。レッスンがキャンセルにならないように急いで振り込みたい」

Jobs To Be Done(ジョブ理論)フレームワークにより、ヨルダン銀行のモバイルバンキングユーザーが、アプリを利用してどのようなタスクを実行しているのかわかりました。

アプリを眺めるためだけに起動する人はいません。すべての顧客は、可能なかぎり快適に迅速に、そして簡単にタスクを実行したいと思っているのです。

また、多くの場合、顧客は、アプリ内で機能を検索することに時間をかけたくないと思っています。顧客は、追加で考えたり、なにかを新たに認識する手間をかけずに問題解決することを、アプリに期待しているのです。

「UXエンジニアリング」でジャーニーを改善

以上のステップにより、ヨルダン銀行は、顧客の状況、動機、行動を把握した問題解決サイクルを作成することができました。

このサイクルを踏まえ、顧客を満足させるために、どのような新しいモバイルバンキングアプリにすればよいか、詳細な仕様を設計していったのです。

また、顧客が特定の目標を達成するためにどのような行為が必要かを説明するシナリオフォローマップも準備しました。

そして、この段階で、顧客が簡単かつ迅速に目的を達成するために、アプリがどのように機能するかについて、(法的要件の確認だけでなく)開発サイドとも相談しました。これにより、望ましいフローを実装できるかどうかを早期に確認することができました。

ポジティブさを演出するデザイン

以上のUXリサーチおよびUXエンジニアリングのプロセスを経ることで、「顧客に最高のエクスペリエンス(体験)と使いやすさを提供するためにはヨルダン銀行の新しいモバイルアプリはどのように機能すべきか」を明確にすることができました。

その後、ヨルダン銀行は、次のステージ、つまり、実際の製品のデザインや触覚(触った時の感覚)の具体化を進めていきました。

すべてのプロジェクトにおいてもっとも懸念されるのはデザイン段階です。
ヨルダン銀行にとっては、タスクの実行という点だけでなく、アプリのデザインにおいても、顧客の期待を満たすことが重要でした。

実は、ヨルダン銀行は、ブランド・アイデンティティを刷新したばかりでした。このため、今回のアプリ改善は、デジタルチャネルを通じて新しいイメージを共有する絶好の機会だったのです。

デザイン刷新の目標は「ヨルダンの文化精神を取り込むこと」でした。このため、アプリは中東の情熱を伝えるエネルギッシュでダイナミックなものでなければなりませんでした。

ヨルダン銀行アプリデザインのムードボード

ヨルダン銀行の新しいアプリが顧客をひきつけ、ポジティブな感情を引き出し、視覚的にも魅力的であること、そして顧客がアプリをもっと使用し、友達にも薦めたいと思わせるようになることが重要でした。

エレガントさとエネルギッシュさを際立たせるため、明るくさわやかな色のアクセントを目立たせ、背景を暗くしました。また、デザインをユニークで活気に満ちた明るいものにするために、暗い背景から「飛び出る」ように、画面のグラデーションと影付きの色を使用することにしました。

「ワクワク」体験を提供するアプリが誕生

ヨルダン銀行の新しいモバイルバンキングアプリは、ヨルダンの気質と豊かさを取表現しつつ、究極のユーザーエクスペリエンスを提供しています。

それは単なる銀行アプリではありません。短時間で問題が解決でき、顧客は自宅など快適な場所で、ほとんどの金融業務を実行することができます。

顧客は、もはや支店の長い列に並ぶ必要がなく、無駄な時間を過ごすこともなくなりました。つまり、顧客は、支店に並んでいた時間を別の必要なことに費やすことができるようになったのです。

UX改善後、ヨルダン銀行のアプリは、Google PlayおよびApp Storeの評価が2.8から4.7に上昇し、その後も、これらの高評価を維持しています。

ヨルダン銀行は目標を達成することができました。顧客は、自宅から、または外出先から、日々のすべての金融業務を処理し、お金を管理することができるようになり、支店に行く必要がなくなりました。

また、同時に、新アプリのデザインは、顧客の1日を明るくし、日々の金融生活に潤いを与えるようなエネルギッシュでダイナミックなものへと変化しました。

今回、ヨルダン銀行は、顧客のペイン・ポイントや課題を明らかにし、顧客体験を飛躍的に向上させるために、多くの改善を実施しました。例えば、バランスに関する情報へのアクセスは、即時かつ簡単となるように改善しました。なぜなら、それが最も重要で頻繁なタスクの1つであったからです。

また、顧客には特定の送金先があること、新しい送金は頻繁に発生しないこともわかったため、送金については従来とは異なる設計にしました。

以前に実施したことがある送金を簡単に実施できるよう変更することが重要だったのです。改善により、顧客はどこにいようとも、数回のタップで家族や友人へ送金することができるようになりました。

これらは、改善のほんの数例です。実際には、以前のアプリと比較し、顧客の手順、労力、時間を大幅に削減する多くの改善が施されました。

今回のUX改善の最大の目的は、顧客の日々の金融業務をサポートし容易にするモバイルバンキングアプリを提供し、顧客の満足度を向上させることでした。このため、顧客からのフィードバックが何ものにも代えがたいものでした。

新しいアプリへのレビューでは、顧客は、時間が節約できるようになっただけでなく、日常の金融業務の強力なアシスタントに変革したアプリに感謝の言葉を記載してくれています。「顧客の時間と労力を大幅に節約してくれてありがとう!」「このアプリケーションが大好き」という風に。

デザイン賞の受賞

UXを改善した後、ヨルダン銀行の新しいモバイルバンキングアプリは、グローバルプロフェッショナルサービスの大手企業であるアクセンチュアから「The Best Digital Design 2019」を受賞しました。

また、同時に、サービスデザインのカテゴリで、世界最大かつ最も権威のあるデザイン賞の1つであるiFデザインアワード2020にもノミネートされました。

必要なのは「改善する勇気」!

顧客を失う可能性を考えると、デジタル化に取り組まない銀行はないでしょう。

しかし、莫大なマーケティング予算を用意したり、顧客を混乱させてしまうような多くの機能を搭載するだけでは、十分ではありません。

顧客は、日々、市場にある無数の他の製品の中から選択をしています。つまり、顧客に価値を提供する製品を創出する必要があるのです。

ヨルダン銀行のUX改善は、優れたユーザーエクスペリエンス(顧客体験)が顧客満足度に多大な影響を与えることを裏付けています。銀行やその他の金融サービスにおいても、ヨルダン銀行のように、顧客のために変化し、顧客の日常生活をより良いものにするための改善が開始されることを願っています。

著者について

Alex, Founder/ CEO/ UX Strategist

アレックスは半生を心理学とビジネスに費やし、100以上のデジタルプロジェクトと30以上のスタートアップに携わってきました。また、10年間に及ぶUXとファイナンス研究の結果、UXDAの方法論を開発し、金融業界を改善するためのあらゆる課題に挑んでいます。

Arita, Senior UX Architect/ UX Consultant

アリタは、クライアントのビジョンとユーザーが求める金融商品との間のギャップを取り除くために全力を尽くしています。Crypto, White-label などにおけるリテール・バンキングでの経験から、常に最高のUXソリューションを提供することができます。

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投稿日: 2020/07/17 更新日:
カテゴリ: 海外の最新UXを学ぶ, UX改善