第6回「内発的な動機と外発的な動機」
第5回では、主観評価の結果を活用しようとする時にちょっと気になる「バイアス」を低減するための判別設問の工夫についてご紹介しました。
第6回の今回は、人が行動を起こす時の「動機」について考えてみましょう。
「動機」は人が行動を起こす“きっかけ”となる要因のことで、大きく内発的な動機と外発的な動機に分けることができます。
最近よく使われるCEP(カテゴリー・エントリ・ポイント)も一般的には「消費者が何かを購入しようと思った時に何らかのブランドを想起する“きっかけ”のこと」と表現されますので、ほとんど同様の意味合いのことでしょう。
ユーザーモデルは人の内発的な動機となる感性や感情的な側面を対象にしたモデルです。
状況やTPOのような外発的な動機は、人が何かを購入しようと考えるときの“きっかけ”としてはとても大切な要因なので、広告であればまずはこれらを前提に考えるのは当然(逆にこれらを想定しない広告はありえないともいえます)ですが、状況やTPO“そのもの”は商品やサービスの提供者(ブランド)側からは制御できませんし、状況やTPOは“個別の”商品やサービスに対する必然性を生むこともありません(もちろん、その状況ならこれ以外にない、という商品やサービスがあるのであれば、全くないとはいえませんが)。

例えば、家電のように、必ずしも一人で使うとは限らなかったり、狭い部屋で使う必要がある、とか、結婚して家族が増えた、のような使われる状況が変わる可能性が様々ある一種の家庭内公共財にとって、状況は重要な変数ではありますが、家電メーカー(ブランド)にとっては制御できない変数です。
人の内発的な動機も、商品やサービスの提供者(ブランド)側から制御しにくいのはもちろんですが、もし人が何かを購入しようと考えるときの内発的な動機を少しでも知ることができれば、その人が共感してくれるようにするにはどうしたら良いかや、ブランドが提供しようとしている商品やサービスの特性と親和性の高い内発的な動機をもつ利用者を効果的に探し出すことが可能になるのではないでしょうか。
商品やサービスの提供者(ブランド)にとって重要なポイントは、状況やTPOの変化によって生まれたタイミング(ブランド想起の“きっかけ”が生まれた時点)で選択肢に入れてもらえていることですから、家電であれば、(その人の内発的な動機に沿って) “このメーカーちょっといい感じ…”と思われているからこそ、例えば結婚して家族が増えた、といった(家電メーカーには制御できない)状況の変化によって生まれたタイミングで、偶然行った家電量販店の店頭で選択肢に入ることができ、手に取ってもらえるチャンスが生まれる…のような感じなのでしょう。
さらに、特定の心理特性の度合いの強さを予測することで、“このオーブンちょっといい感じ…”と思ってもらえるのは“実用的なオーブン”なのか“デザイン性の高いオーブン”なのかを知ることができれば、手に取ってもらえるチャンスはさらに広がってきます。
繰り返しになりますが、基本的に「動機」は商品やサービスの提供者(ブランド)側からは制御できません。
何はともあれ、普段のコミュニケーションを通じて、いかに「動機」の解像度を高め、どんな心理特性が、“ちょっといい感じ”のブランドとなり、手に取ってもらえる可能性を高めることができるのかを知ろうとすることが大切でしょう。
次回(第7回)は、ユーザーテストを実施する際の対象者選択にユーザーモデルを活用するイメージについてご説明して参ります。
著者

小澤 一志
ユーザーモデリングラボ 代表
富士ゼロックス株式会社研究技術開発本部シニアリサーチャー、慶応義塾大学SFC研究所を経て、2019年ユーザーモデリングラボを開業、日本感性工学会会員。
様々な分野を対象に、ユーザーモデリングやユーザーモデルを活用したコンサルティング、UX(User eXperience)リサーチやUX改善コンサルティングに従事。