インサイトをつむぐ強力なコンパス 「具体と抽象」思考をつかいこなそう

【作成】2020/08/07   【更新】2020/09/17 

世の中にない新しいサービスを企画する際、ユーザーを知るためにペルソナやカスタマージャーニーマップなどでモデリングすることはとても重要です。

しかしながら、ユーザーが何を考え、何を感じ、何を必要としているかを把握するためには、そうしたツールを作成して終わりではなく、「具体と抽象を行き来」する思考を繰り返し、ユーザーの本質に迫る(=インサイトを紡ぐ)プロセスが欠かせません。

2020年7月7日のオンラインセミナーでは、ルノー日産三菱アライアンスのUXデザインチームご所属の水野太さんがご登壇。本記事では「具体と抽象」を行き来する思考法についてのハイライトをお届けします。

セミナー後半では、発売当初から物議をかもしながらも、学習参考書としては異例のヒットとなったあの「日本一楽しいドリル」のコンセプト誕生について、水野さん流の分析もご紹介いただきました。

「具体と抽象の行き来」は特別なことではなく、日常の中で意識することから始められます。「ユーザーの本質をつかむ思考」の旅をサポートする「コンパス」として「具体と抽象思考」を使いこなすヒントが満載です。ぜひご一読ください。

【オンラインセミナー動画】インサイトをつむぐ強力なコンパス 「具体と抽象」思考を使いこなそう

「具体と抽象」思考を使いこなそう

セミナー冒頭、水野さんは、メインメッセージである「インサイトを紡ぐ強力なコンパス 『具体と抽象』思考を使いこなそう」をスライドに提示します。

UXリサーチの実践での「具体と抽象」思考は、ユーザビリティテストのような評価型リサーチ、そして特に、探索型リサーチに援用できると水野さんは太鼓判を押します。

この「具体と抽象」思考のイメージは、三角形のモデルで表すことができます。

「具体」から「抽象」は上位概念に向かうプロセス、「抽象」から「具体」は下位概念に向かうプロセスのイメージです。通常は「具体」から「具体」に視座を変えることなく考えを進めがちですが、課題を把握するためには、一度「抽象」をかませることが大切です。

大小2種類の「具体ー抽象ー具体」思考プロセス

この「具体ー抽象ー具体」の三角形の思考プロセスには大小2種類あります。

①小さな「具体ー抽象ー具体」の思考プロセス

リサーチの実査後、ペルソナ、CJM、バリュープロモーションキャンバス、ビジネスモデルキャンバス、リーンキャンバス、といったツールを使って中間成果物をつくってみる思考プロセスにあたります。

②大きな「具体ー抽象ー具体」思考プロセス

考え方は①とまったく同じですが、とらえる視点がより大きくなります。

三角形の左角の「具体」は、ユーザーの利用状況の把握と明示で、インタビューや分析のプロセスです。「抽象」は、ユーザーの要求事項の明確化です。ペルソナやカスタマージャーニーマップを作って、取り組むべき課題を抽象かし本質を定めていくプロセスです。そして、右角の「具体」は、抽象化されたユーザーの要求事項を再度具体化し、プロダクトに落としていくプロセスです。

「具体と抽象」の思考プロセスは、「まだ世の中にないもの」を考えるときの武器になる

激変する世の中で、「まだ世の中にないものを考え作らなければはならない」機会は増えています。その際に重要なのは、あらためて人間(=ユーザー)そのものに向き合い、向き合うことでわかった事実から、具体と抽象の思考を駆使して「解釈」することです。

「具体と抽象」の思考プロセスはUXリサーチャーや製品企画/開発者/デザイナーにとって強力な武器であり、開発という長旅の「コンパス」になると水野さんは提言します。

インサイトとは「解釈し切ったあとに残る本質」

UXリサーチャーがリサーチ、特に探索型リサーチを実施する際に最も重要なことは、「インサイトを導出すること」です。

では、インサイトとはそもそも何でしょうか。

インサイトを一言でいうと、「本質をつかむ、物事を見抜く」ことです。
たくさんの事実を集め、その背後にあるものを見抜き理解する、つまり「解釈し切ったあとに残る本質」がインサイトであると言えます。

リサーチでは、インタビューや観察によって対象者に向き合い、事実を集めて解釈することから「インサイトを紡ぐこと」が始まります。

インタビューでは、見たり聞いたりした具体的な内容(=FACTS)がコンテクストの中にちりばめられています。集めたFACTSを俯瞰しながら理解し、主観的な解釈にもとづいて発見したこと(=FINDINGS)は、インサイトを紡ぐ際の大きなヒントになります。このFINDINGSから、Why?なぜ?を問う、という抽象化のプロセスをたどり、本質(=INSIGHTS)に迫っていくのです。


▶「リサーチからインサイトを紡いでいく際の要素の関係モデル」パート動画はこちら

「UXデザインの実践」という文脈で着目すべきインサイトのひとつとして、「体験価値を明らかにすること」が挙げられます。

「UXデザインの教科書」の著者である安藤昌也氏によると、「ユーザーの体験価値に着目し、それを実現するような新しい手段となる行為を創り出すことがUXデザインの中心的な課題である。そのため、体験価値は最も重要な情報である」とされています。

ここで水野さんは、「体験価値」はユーザーにとって嬉しさの源泉ともなる、と解説し、「少し高価なブランドバッグを購入」したユーザーのリサーチ事例を紹介します。このリサーチでは、購入者が人とは違うものを持っているという満足感を感じる価値を見出していることが明らかになりました。この「体験価値」を見出すことこそが「インサイトを紡ぐ」ことであり、「インサイト」はUXリサーチで得られる最も重要な情報なのです。

▶「少し高価なブランドバッグを購入」事例パート動画はこちら

抽象化と具体化

続いては、「抽象化」と「具体化」の解説です。

「抽象化」とは、WHYを問い、事実を取捨選択して本質にせまること、また、それを関係性や構造に配慮して一つにまとめ一言で表すことです。

抽象化の6つの側面

水野さんによると、「抽象化」には6つの側面があります。

例えば、「カスタマージャーニーマップ」は、「何かと何かの関係性をみる(①)」なかで必然的に法則やパターンを見出し、「全体を俯瞰(②)」した際のその法則やパターンの関係性を、時系列やステップごとなどでマッピングしたものです。ここでは、個々のフェーズやタッチポイントでのエピソード(具体)をいったん抽象化し、再度マップ(具体)に落とし込む、というプロセスが発生しています。

また、「ペルソナ」は、リサーチによって知った特徴(具体)のエッセンスを一言・一文に集約(③④)して抽象化したうえで、1人の「仮想の人物」として具体化したものが多く含まれます。

抽象化から生まれた「日本一楽しいドリル」コンセプトの分析

抽象化の例としてあがったのは、近年話題となった「うんこドリル」の「日本一楽しいドリル」というコンセプトです。

水野さんは以下のように見立てています:

「うんこドリル」コンセプト誕生プロセス(水野さんによる分析)

  • おそらく、子供たちの行動観察などのリサーチを繰り返すなかで「家で勉強することは退屈で嫌い」という事実が明らかになった
  • 「うんこドリル」チームは、「勉強しても遊んでいるときのような楽しさは感じられない」という「未充足」の体験をつかんだ
  • 「うんこドリル」チームは、この「未充足」を満たす「”学び”を通じて”楽しさ”を得られる価値」という仮説を見出した(=紡いだ)
  • 同時に勉強以外のシーン(友だちと遊んでいるシーンなど)をリサーチするなかで、「うんこのハナシは楽しくて夢中になれる」という発見があった
  • この発見から、「うんこ」という言葉・概念が持つ「夢中で何かに没頭できる価値」も同時に紡ぎだされた

「”学び”を通じて”楽しさ”を得られる価値」「夢中で何かに没頭できる価値」このふたつのインサイトを合わせて生まれたコンセプトが「うんこを通じてまなびをよろこびに変える」というコンセプトだったのではないか、と水野さんは分析します。

「うんこドリル」は、地道な「具体と抽象」思考によって研ぎ澄まされたコンセプトの好例と言えます。


▶「うんこドリルのコンセプト」パートの動画はこちら

具体化の難所は「『問題』と『課題』の切り分け」

では、「抽象化」とは逆のプロセスである「具体化」とはどういったプロセスでしょうか。
「抽象化」は意識的におこなわないと難しいプロセスである一方、「具体化」は誰もが日常的に、無意識のうちにおこなっている思考です。

「具体化」とは、抽象化でつかんだ本質をもとにHowを明らかにすることです。
詳細化し、選択肢を絞って自由度を下げ、数字や固有名詞に置き替えていきます。この置き換えの際には知識や情報を駆使する必要があります。

具体化から抽象化にステージを変える際に注意すべき点として、水野さんは「問題」と「課題」を分けて考えること、と強調します。

例えば、「リモートワークで太った」という問題に対し、「どうしたら痩せられるか」という課題を設定すると、「運動をする」「食事量を減らす」という解決策が出てきます。

しかしここで、取り組む課題を「どうしたらごまかすことができるか」と設定した場合、解決策は「収縮色の服を着る」となるのです。

このように、問いの立て方、課題の設定の仕方によって解決策は変わります。「いま世の中にないもの」を作ろうとする際には、問いの立て方や着眼点が大事なポイントになります。

「具体と抽象」思考は道筋を組み立てるコンパス

「具体と抽象」思考とは、具体と抽象の行き来による問題解決プロセスです。

いま起こっている具体的な事柄を理解し、一度抽象化して本質をとらえ、取り組むべき課題を定義したのちに再度具体的な解決策の実践に導くというシンプルな手順です。

激変する社会の中で、この思考方法を使うことで、問いを立てながら複雑な物事をよりシンプルに捉えることができます。「具体と抽象」思考は、激変する社会の中でその変化に適応しながら道筋を組み立てるための「コンパスのような道具となります。

この思考は決して目新しい方法ではなく、実は誰もが日常生活や仕事の中で無意識におこなっている思考です。
日常の中で少しだけ「抽象化/具体化」を意識してみると、カスタマージャーニーやペルソナといった「思考の道具」が少なくても、探索の旅=体験のリサーチに出かけやすくなるでしょう、と提案し、水野さんはセミナーを締めくくりました。

当日のスライドはこちら

▶当日のQ&Aはこちら

「わかりにくさ」の後ろ側にある「本質」

一般的には、「インサイトを探る」「インサイトを見抜く」といったような表現が多い中、水野さんが使われた「紡ぐ」という表現は非常に印象的です。

ユーザーの発言や行動といった「具体」を「抽象」化し、そしてまた具体へ落とし込む、という、「具体」と「抽象」の地道な反復プロセスは、さながら、細い繊維を何本も丁寧に撚(よ)って、一本の強い糸を作り上げていく「糸紡ぎ」の工程を想起させます。

水野さんからは後日、こんなメッセージをいただきました。

人間の内側の奥底にある価値観とその行動、裏側にある背景などは、思ったよりとても複雑で、そう簡単にわかるものでもないんですよね。そんな「わかりにくさ」の後ろ側には、ある種の美しさがあるんだと思います。ググればなんでも分かる時代、「抽象化」はどんどん失なわれていくかもしれない、でも人間らしい大事な知性なんだと思います。

「ユーザーを理解する」「他者を理解する」という複雑でややこしく、しかし同時に、人間らしく奥深い取り組みが「UX」という観点から広がり、まだ見ぬ価値あるプロダクトがどんどん生まれていくことをポップインサイトは願っています。

なお、
「ユーザーのインサイトを知るリサーチをどう展開していくか悩んでいる」
「UXリサーチの実践、一歩踏み出してはみたものの、ユーザーの行動や発言をうまく抽象化できない」

…こんな時はぜひポップインサイトにご相談ください。
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