【ECサイト等の運用改善に!】UXデザインの活用で「売上が7倍」になった話
創業当初より、データ活用だけでなく、フィールドワークをベースにユーザーのインサイトを徹底的に追求する株式会社キュービック。多数のメディアを運営するキュービックでは、クレジットカード領域のメディアをUXデザインの取り組みによって売上7倍に導いたという実績があります。
本セミナーでは、株式会社キュービックのUXデザイナー鈴木瑛介さんをお招きし、クレジットカードメディアチームが成約率改善のために行ったことを、UXリサーチの具体的な事例を交えながら、課題や施策と共にお話しいただきました。
ポップインサイトでは、ユーザーリサーチにもとづいたプロダクト・サービス改善を支援しています。キュービック様にもご導入いただいた継続伴走支援型のUXリサーチサービスについてはこちらからお気軽にご相談ください。
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目次
自己紹介
株式会社キュービックでUXデザイナーをしております鈴木瑛介と申します。本日のお話は、「1年で売上7倍を実現したサイト分析の手法と考え方」について、具体的な事例を用いてお話します。
私たちは、ユーザーのことを何も分かってない
一番伝えたいメッセージは「私たちは、ユーザーのことを何も分かってない」ということです。この言葉はキュービックで大切にしていることで、数字を見てユーザーを知った気になるのではなく、行動に現れない真のインサイトをつかみにいくことが重要です。
本日は手法の話がメインになりますが、「私たちは、ユーザーのことを何も分かってない」を前提に、どのようにユーザーインサイトに挑み、その結果、どう数字につながっていくのかを見ていただければと思います。
クレジットカード比較メディアのビジネス構造
弊社は、クレジットカードの比較メディアを運営しております。ビジネスモデルとしては、広告から訪問してきたユーザーに対して、弊社の比較メディアでクレジットカードの提案を行って、クライアントサイトに送客します。申し込みが発生したら弊社に報酬が入るという仕組みです。いわゆるWeb広告ビジネスです。
クレジットカードメディアチーム内の役割
クレジットカードメディアチーム内の役割は、商材選定、広告運用、メディア開発に別れており、売上から成約率(CVR)などの指標を持ち、一貫して行っております。
その中でも、メディア開発のUXチームの領域は、サイトやLPの設計、それに伴うインタビューなどの定性調査、定量分析、テスト設計を行っております。UXデザイナーが設計して、デザイナーがデザインし、エンジニアがコーディングしています。指標は、成約率(CVR)になります。
およそ1年で売上が7倍に
クレジットカードメディアチームでは、およそ1年で売上が7倍になっています。
最初の頃CVRが下がっていきますが、この頃はとれる領域でしか勝負していませんでした。その後、広告配信を拡大していきつつも、CVRを伸ばして急成長していきました。
直近では、取りきれていなかった配信面にチャレンジし拡大を行い、CVRは落ちているけれども、売上は引き続き上昇中になります。
定量/定性調査の繰り返しによるPDCAが成功の鍵
売上が7倍に至るまで、どう成約率の改善をしてきたかというと、定量/定性調査の繰り返しによるPDCAを行ってきました。
最初に改善施策を行い、定量の側面からA/Bテストを行い、定性の側面からはユーザーテストを行い検証していきます。そして、テストを行うだけではなく、検証結果についてUXリサーチ手法を活用して分析と課題設定を行います。
収益があり、ユーザーにとって価値のあるメディア
UXデザイナーとして成し遂げたかったことは、ユーザーにとって価値のあるメディアにすること、かつ、その上で収益を出すことです。
昨今の広告では、ユーザーが置いてけぼりになっている問題があると思います。検索結果やCVRを最重視した結果、ユーザーの感情を害するようなコンテンツも見受けられますが、弊社の「人ファースト」というコアバリューを体現するために、ユーザーにとっての価値を追及したいと思っています。
定性調査を活かしきれていない問題
その上で感じた課題としては、一つ目は定性調査を活かしきれていないことがありました。これまでも、スポット単位でユーザーテストやインタビューを行っていましたが、定量の結果(A/Bテスト)に頼っていました。
二つ目に、A/Bテストにも限界があり、結果はわかるが理由がわからないという問題点がありました。理由がわからないと仮説が生まれづらく、次の改善につながらない。また、数字上では成果は伸びているけれども、ユーザーが本当に有益に感じていて数字が伸びているのか、たまたま手法で伸びているのかがわからないということがありました。
そこで、UXリサーチの手法で定性調査で得られた数値を正しく分析しつつ、ユーザーテストを定期的に継続的に行うことにより、ユーザーがどう感じているのか、ユーザビリティにどのような課題があるのかモニタリングすることにしました。
これが改善施策を行う時のもともとの流れです。施策をして、A/Bテストをして、たまにユーザーテストを行って施策につなげる小さいサイクルを回していましたが、
このようにユーザーテストを定期的に継続的に行うということ、そして一番大事なのがUXリサーチの手法を活用して、定性のデータを分析して次の課題設定を行うことを開始しました。
具体的な改善事例
はじめに実施した改善施策
次に、具体的な改善事例についてお話します。今回の改善は複数のクレジットカードを比較できるランキングサイトでの改善です。
まず、情報の優先順位を整理しました。改善前は「読むエリア」のテキスト、「見るエリア」の表、「読むエリア」のテキスト、という順番で、表がテキストに挟まれている状況でした。
改善後は、「読むエリア」「見るエリア」を明確にまとめ、「見るエリア」で視覚的にわかる情報を置き、その後でじっくり読んでもらう「読むエリア」にわけました。
初回CVRは1.2倍改善
次に、この施策について定量と定性の両方の側面から検証を行いました。
まずは、定量のA/Bテストは、Google Optimizeを使用し成約率の評価を行いました。その結果、CVRは1.2倍改善しました。
ユーザーテストで体験を評価
次に、なぜ改善したのか、今後どういう施策が出来るのか、ユーザーテストで体験を評価しました。具体的には、動画でユーザーがページを見る姿を観察して、A/Bテストの結果の理由を考察します。
ユーザーテストの流れ
要件設定から実査まではポップインサイトさんにご協力いただきました。
キュービック様のご支援事例はこちら>>【事例】事業特性をしっかりと理解してくれるので、知りたいことに対して的確な調査ができた
実際のユーザーの発言
結果は、「情報が見やすかった」という良い話も聞けた一方で、「ページが長く自分がどこを見ているか分からなくなる」「ページ上部に比較表とかがあれば良いのにな」という話もありました。
UXリサーチの手法を活用
次に、分析と課題設定を行いました。これまで分析方法は独自なもので、ユーザーの発言をそのまま鵜呑みにして改善策に反映してしまうこともありましたが、UXデザインチームを設立してからは、UXの手法を取り入れて活用するようになりました。今回は価値マップの作成についてお話します。
価値マップとは?
価値マップは、ユーザーの発言や行動の背景にある価値をKJ法を用いて体系的にまとめたものになります。KJ法というのは、同じ系統の価値をグルーピングしてまとめていく手法です。
例えば、「カードで表を比較する価値」「カードの一覧を見る価値」は「カードを俯瞰する価値」でまとめています。
価値マップからわかること
・ユーザーの発言や行動の背景にある価値は何か
・現状のページで満たせている価値と満たせていない価値は何か
価値マップ作成方法
最低5、6名のユーザーにページを見る姿を動画で撮影してもらい、ユーザーテストを実施しています。ここで出た発言や行動を抜き出し、ユーザーがどのような価値を感じてその行動や発言をしたのか、価値を振り返ります。本来であればユーザーにとっての出来事や生の声を心の声に変換してから価値にかえるのですが、ここでは便宜上直接、価値に置き換えています。
ユーザーの発言
・あんまり知らないのが多いな
・年会費無料じゃなくても別にいいな
↓
価値への言い換え
・知っているカードを比較する価値
・年会費を払ってでも、高い還元を得る価値
ユーザーの価値を満たせているかどうかを色分けします。色付けは一般的な方法ではなく弊社独自の工夫です。
ここで事前に色分けしておくことで、マッピングする時に、「充足できている部分」はどこか、あるいは、「未充足の価値」はどこかが判別しやすくなります。
KJ法でマッピング
次に、KJ法でマッピングしていきます。マッピングしたものを見ると、左側のお得なカードを申し込む価値はある程度満たせていそうだとわかります。最初に行った、見るエリアと読むエリアを分けたことで、ユーザーがお得さに関する情報を適切に受け取れていると判断できます。
課題設定
一方、右側にあるカードを比較できる価値に問題があることがわかります。
課題をひとことでまとめる
・カードを比較できる価値
・カードごとの違いがわかる価値
・カードを俯瞰する価値
このあたりが未充足であることがわかります。課題は「一覧性が低く、俯瞰的にカードを探せないこと」ととらえて、課題設定をしました。
2回目の施策でCVRが1.33倍へ。施策から課題設定を繰り返して売上7倍に
2回目の施策では、元々テキストで記載してある情報をアコーディオンにまとめました。
その結果、CVRが1.33倍となり最初の施策からさらにCVRがアップしました。
このように、施策から検証、分析と課題設定の流れを繰り返していくことにより、様々な施策がうまれ売上7倍までになりました。
なぜ、成功したのか~ユーザーのインサイトを適切に捉えられたこと~
結論から言うと、定性調査で結果の要因を探り、ユーザーのインサイトを適切に捉えられたことだと思っています。
定性調査を行っていなかった場合、最初の施策でCVRが1.2倍になったことで「情報構成がわかりやすくなって成功したな」と結論づけてしまい、要因が憶測レベルでさらなる改善機会を損失していたと思われます。
もしリサーチ分析をしていなかったら?
さらにリサーチ分析をしていなかったら、「ページが長くてどこを見てるかわからなくなる」などのユーザーの発言をそのまま鵜呑みすることで、「文章を短くして、一番上に比較表を置けばいい」など、本質から外れた施策になってしまいます。
ユーザーテストの分析によって、ユーザーはお得なカードを申し込むという価値を感じていて、現状サイト内で満たしていることがわかりました。これは適切な情報量でユーザーを満たせてあげているからです。こういった明確な課題設定なしに施策をすることによって、満たせていた価値まで削り取ってしまう可能性があります。
きちんと分析したことによって、お得なカードを申し込む価値をユーザーが強く感じていて、現状のLPで提供できている。引き続きそれを提供しつつも、現状を満たせていない価値「一覧性を加えるにはどうしたらいいか」という思考で改善施策を考案できたなと思っています。
UXの手法を用いて分析する上での注意点
・自分の思考を何度も再構築する
UXの手法を踏めば、必ずユーザーに有益なサービスが提供できるわけではない。「うまくまとまったな」と思っても、それを信じ切らずに何度も自分の思考を再構築する必要があります。
・なるべく1人でやらない
1人の視点で定性データを分析しようとすると、慣れるまでは特にバイアスがかかってしまい結論ありきの解釈をしてしまう。複数メンバーで、できれば、サービスの関係者(マーケター・デザイナーなど)を巻き込んで多様な視点からユーザーを捉える必要があります。これには、チーム全体としてユーザーの認識が揃ってくることで、一貫性のある施策を打つことができるというメリットがあります。
最後に
最後に、繰り返しにはなりますが「私たちは、ユーザーのことを何も分かってない」ということです。
ユーザーを知らないことよりは、ユーザーを知ったつもりでいることが怖いです。ユーザーを知ったつもりだと表面的なニーズだけをとらえて間違った方向に進んでしまうユーザー視点がだんだんと薄くなってきて、数字が主語に進んでしまうことが起こりかねません。
ユーザーを知ることは地道な作業になりますが、思考を再構築することを繰り返し繰り返しやりながら、泥臭くインサイトに挑み続けることが重要だと思っています。
Q&A
ユーザーテストなどの調査の対象選定基準はどのように決めていますか?
新しくLPを作る際はインタビューを行いまして、そのインタビューからペルソナを導き出して、そのペルソナに近いユーザーを探します。
ポップインサイトさんとご相談しながら、事前アンケートでペルソナに近いユーザーを獲得できるような仕組みを作って実施させていただいています。
定量的な成果が見えづらいと言われがちな定性改善・UX手法などをチームメンバーに展開する際は、どんな流れで導入されたのでしょうか?苦労された点などはありますでしょうか?
キュービックではユーザー起点で事業やメディアを作っていくカルチャーが浸透していますので、導入のところはそれほど苦労はしませんでした。ただ、UXリサーチの本質的な価値をわかってもらって、社内で活用してもらうことは今私たちが直面している課題です。ここに対してですが、今回のクレジットカードサイトで成功した事例ですとか、他の案件でもUXリサーチを活用してることもあるので、実際に結果が出たことをもって広めていきたいと思います。
ユーザビリティ評価は定量で出す手法もあるのですが、ユーザビリティが上がったからといって、会社が追っている売上や利益が必ずしも上がるというわけではないですが、手法を利用してAサイトとBサイトをユーザーテストしたところ、ユーザーの評価が高かったのはBサイトだけど、売上が高かったのはAサイトだということも往々にしてあります。
ユーザービリティがどうこうだけではなく、それが結果に結びついているところを見せたほうが社内に展開する時には有効かなと思います。
施策の分析を行う際に、1フローでユーザーテストを何名に対して行っていますか?
ユーザーテストを5、6名に行えば8割ぐらいの課題がわかるというデータがありますので、5、6名を目安に実施しています。
施策のKPI設定はどのようにしていますか?CVR以外でも追っている指標はありますか?
施策のKPI設定は主にCVRになります。事業部との兼ね合いで、最大化したい指標が売上なのか利益なのかは変わってきますが、サイト改善で改善できる指標はCVRです。
クレジットカードでは訴求毎にLPが違います。学生に向けたページ、ゴールドカード向けのページなど色々あり、大体2か月に1回は施策を行う機会がありまして、先ほどのPDCAを回しています。
CVR以外の指標としては、クライアントページに誘導するCVRと、誘導後のクライアントページでのCVRを分解して追う場合があります。誘導はされるが、誘導後のCVRが上がらない場合は、弊社のLPとクライアントページの間で情報のギャップがないように改善を行っています。
施策を実施する前にも、なにか定性調査は行っていますか?
新しい施策を実施する前は、主に5名から10名ぐらいにインタビューを行っています。例えば、ゴールドカード向けのLPを3、4か月ぐらい前に作りましたが、作るにあたり、ゴールドカードはどんなユーザーが欲しているのか、そもそもゴールドカードをユーザーがどう思っているのかなどインタビューを行って、ユーザーの意見から、「ユーザーはこんな分類が出来そうだよね」と価値マップを作成する中で見出していって、ペルソナに落とし込んでいきます。
インタビューする人の選定は、ゴールドカードを持っている人でリクルーティングするのではなく、ある程度分類を行っています。
そもそもゴールドカードに興味を持ったこともない人、興味はあったけど申し込んでない人、ゴールドカードを持ってたけどやめちゃった人など分類を行ってインタビューを行い、それぞれの人がどのような価値観を持っているのか分けます。
今ゴールドカードをもっている人がもつ価値と、検討しているけどやめちゃった人が感じていない価値があり、「やめちゃった人にはゴールドカードを持っている人が感じている価値がきちんと伝わっていないからじゃないか」など仮説をたてたり、事前に分類することが大切だと思っています。
経営層からは数値やマーケットリサーチの結果を求められます。定性調査の価値をどう伝えるとよいでしょうか?
先ほどのお話にもつながってきますが、「UXリサーチでユーザーが喜ぶようになった」だけではなく、売上や会社の数字が上がることを示さなければいけないと思います。定量だけだと結果しかわからないが、定性を行うことによって、何でその結果が生まれたかが見えてきます。
なぜその結果が生まれたかが見えた結果、この仮説が生まれ、その仮説を施策に落とし込んだ結果、これだけ伸びましたという伝え方をすると伝わりやすいと思います。最初は組織ぐるみでは難しいと思いますが、サイトの分析や施策提案をきっかけにして個人レベルでユーザーに話を聞いてみるところからスタートすると良いと思います。
他社と比較してポップインサイトを選んだ決め手は?
私自身が導入に携わったわけではありませんが、ポップインサイトさんには、右も左もわからないUXリサーチの手法導入時からサポートしていただいており、事前のユーザーのスクリーニングから一緒にやっていただけるところが非常にありがたいです。
自分たちで集めるユーザーよりも、ポップインサイトさんのモニターさんが豊富なので、幅広い層や、ニッチな層が集められる良さがあると思います。
通常のLPO施策と定性改善施策がバッティングすることはありますか?それぞれの施策の比率を決めて実施されているんでしょうか?
通常のLPO施策も弊社ではやっていまして、全てで定性の調査をすることは厳しいですが、ユーザーがどう感じているかは後からでもいいので、ユーザーテストにかけて検証することを意識することで、両方を回せています。