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アジャイル開発のスプリント内でUXリサーチは実施できるのか

元記事:”How To Run Research In Agile Sprints”(eBook)より抜粋
米国UserZoom社より承諾を得て翻訳

これまで「UXリサーチ」は、主に事業立ち上げやリニューアルなど「大きな意思決定」をともなう場面で実施されるものでした。

一方、近年注目を浴びている「アジャイル型UXリサーチ」は、企画・設計・調査・分析にあまり時間をかけずクイックに回すリサーチ手法で、スピードの早い開発サイクルに合わせてユーザ理解を実現できる、という大きなメリットがあります。

本記事では、米国UserZoom社発行の“How to Run Research In Agile Sprints”より抜粋し、「アジャイル型UXリサーチ」を実施するメリットと実際の運用方法をご紹介します。

UXリサーチは時間がかかるというのは誤った認識です。

この誤った認識のため、多くのアジャイル開発チームはスプリント内でUXリサーチを実施せず、結果、低品質なデジタルエクスペリエンスを提供しています。

しかし、UXリサーチは、適切なタイミングと手法で実施でき、かつ、最も迅速で手軽な手法です。

アジャイル型UXリサーチに対する4つの誤解

「アジャイル型UXリサーチ」は、近年注目を浴びている一方でその成果については誤解もまだ多いようです。

以下では、「アジャイル型UXリサーチ」に対する主な4つの「誤解」と、それを否定する「真実」をご紹介します。

誤解➀ ユーザは最終段階のプロトタイプや運用中のウェブサイトしか評価できない

→真実➀ デザイン初期段階こそUXリサーチすべき

ユーザから有用なフィードバックを収集するために、完成品または完成間近のプロダクトをユーザに提示する必要はありません。 例えば、ワイヤーフレームやプロトタイプだけでなく、手描きのスケッチのような非常に初期の段階でも、ユーザから実用的なインサイトを得ることができます。

このような初期段階におけるUXリサーチは「方向性テスト(directional testing)」と呼ばれます。

これは、ユーザが画面のどこをクリックするかを確認したり、ユーザにプロトタイプを触りながら感想をつぶやいてもらうというようなシンプルなテストです。

ユーザに設計中のサイトを体験してもらうことを、事前に、丁寧に説明することで、プロダクトの完成度が低い場合でも、ユーザから役立つフィードバックを得ることができます。

誤解➁ UXリサーチの対象者を短時間で見つけることは難しい

→真実➁ リサーチ専門会社の活用で効率的なリクルーティングが可能

スプリント内でモニタをリクルーティングする際、UXリサーチを実施するのに十分な数の対象者を確保するのは、従来の方法では困難です。 事実、プロファイルに合致する1人または2人の対象者を見つけることすら難しい場合があるでしょう。

自社でのリクルーティングに課題を感じているのであれば、リサーチ専門会社に委託するという方法は有効です。クルーティングを自動化することで、UXリサーチを促進できるだけでなく、対象ユーザを探しに行く時間を節約し時間をより有効活用することができます。

※例えば、本書を発行した米国User Zoom 社では「intellizoom」というサービスを提供、独自のパネルを含む1億2000万人以上のユーザから対象者を調達し、調査開始から数時間以内に結果を入手できます。

誤解➂ ユーザリサーチを実施できるのはリサーチャーだけ

→真実➂ テンプレートを利用すれば、誰でもユーザリサーチは実施可能

バリスタがいなければ、コーヒーが飲めないわけではないように、スプリントチームにリサーチャーがいないからといって、ユーザリサーチができないわけではありません。

米国User Zoom 社の調査では、同社のサービス利用者には専門的なバックグラウンドを持たず簡単なユーザリサーチを目的とする人が多く、高度で複雑なユーザリサーチのために利用する人数(数千人)を上回っています。

実際のところ、Steve Krugの”Don’t make me think”(注1)を読んだとしても、リサーチャーでなければUXリサーチを実施することは困難だと感じるかもしれません。こうした場合、非リサーチャーを積極的にサポートするためのサービスを提供しているリサーチ専門会社を利用することは有効です。

(注1)モバイルユーザビリティの定番書、20カ国で翻訳・累計45万部超の世界的ベストセラー。日本語訳「超明快 Webユーザビリティ‐ユーザーに「考えさせない」デザインの法則」。

例えば、米国User Zoom 社では、次のようなサービスを提供しています。

  • リサーチ初心者を対象とした、UXリサーチスキルと自信を与えるための包括的なオンボーディング(サービス利用初期段階の顧客向けに実施する研修)とトレーニング
  • UXリサーチ用テンプレートが豊富なライブラリ
  • 目的に応じて迅速かつ簡単に実施可能なユーザビリティテストのテンプレート
  • UXリサーチ実施前の専門家からのアドバイス、および充実したQ&Aによるサポート

より実践的なサポートが必要な場合は、経験豊富なプロフェッショナルサービスチームをオン・デマンドで利用できるなど、簡単なリサーチから結果のプレゼンテーションまで、クライアントの目的に応じたサポートが提供されています。

リサーチャーが実施したUXリサーチからポイントをピックアップしたい、リサーチ人材が不足しているがスプリント内でUXリサーチを実施したい、など目的に応じてリサーチ専門会社を利用すれば、リサーチャーでなくともUXリサーチの実施は可能なのです。

誤解➃ UXリサーチですべてがわかるわけではない

→真実➃ アジャイル型UXリサーチ成功のカギは、リサーチ対象をビジネス上のインパクトが最も大きい箇所にしぼること

前述の『方向性テスト(directional testing)』に少し話を戻しますが、アジャイル型UXリサーチで「すべて」を明らかにすることはできません。

そのため、1週間または2週間といったスプリントでUXリサーチを実施する場合、「どんな質問が最も影響力があるか」を考えることが必要です。 質問を絞り、最も影響力があるタイミングで、迅速に有効な回答を得ることに焦点を合わせることが重要です。「新鮮な」リサーチ結果は、すぐにプロダクトに反映することができます。

一方、アジャイル型アプローチで扱うには大きすぎると思われる課題は、別のアプローチを採用することをお薦めします。

例えば、「方向性テスト」ではなく、数週間から数か月の期間で別のUXリサーチを実施します。一定の時間を確保できるので、大きな課題に対する解決策を確実に得ることができます。つまり、「FOMO(the Fear Of Missing Out:取り残される不安・恐怖)」を回避するための長期リサーチを同時進行しつつ、アジャイル内では方向性テストを実施することで、1週間ごとにビジネスにインパクトを与えることができるのです。

アジャイル型UXリサーチの運用方法

成功の鍵はステークホルダー間の協力

では、どのようにすれば、アジャイル開発におけるリサーチ環境を整え、UXリサーチを実施することができるでしょうか?鍵となるのは、いかにして「ステークホルダー間の協力」を得るかということです。

例えば、アジャイル型リサーチによって多くの企業のUXを改善してきた米国UserZoom社では、成功事例の共有やイネーブルメントワークショップ(注2)の実施、専門リサーチャーの提供などによりクライアントのリサーチ実施をサポートしています。

以下では、➀プロダクトオーナー・デザイナー・リサーチャーとの対話、➁プロダクトオーナーとの対話について米国UserZoom社における取組みを紹介します。

(注2)イネーブルメントとは、チームを強化・改善するための取り組みのことで、最適なユーザリサーチを全体設計し目標達成度合いを数値化して管理する手法を指します。

➀ プロダクトオーナー、デザイナー、リサーチャーとの対話

(a) ステークホルダーの賛同と支援を得る

UXリサーチをアジャイル開発に取り入れることをステークホルダーは歓迎していますか? もし、そうでない場合は、設計段階でユーザリサーチをスキップするとどのようなリスクがあるかをステークホルダーに理解してもらい、また彼らがユーザリサーチを取り入れることに対しどのような障壁があると感じているかを明らかにすることが重要です。
このような場合、お客様の成功事例をチームと共有することが有効です。

(b) ステークホルダーを含むアジャイルチームとイネーブルメントワークショップを実施

スプリント内におけるUXリサーチの構築・計画についてアドバイスを実施します。

(c) リサーチ頻度を決定

7日間に1回、8日間に1回、または隔週で1回・・貴社にとって最適なユーザリサーチのタイミングはいつか、どのタイミングが貴社にとって一番最適かを判断します。

リサーチ専門会社によるUXリサーチサポート(UserZoom社事例)

2週間のスプリントサイクルにおけるユーザリサーチの場合

Virtual Scoping(スコーピング・リサーチ範囲の定義)
チェックリストの活用や、ミーティングの開催により、リサーチ範囲を決めるための「スコーピング」を実施。課題の抽出とユーザリサーチの構成を決定します。
また、次のスプリントでユーザデータが必要となるバックログ(やることリスト)にもフォーカスします。スコーピングの時間は、初期の数スプリントのうちは1時間程度かかりますが、回数を重ねると30分程度に短縮できます。

Co-Build(共同リサーチ設計)
リサーチスクリプトと対象物(画像、プロトタイプなど)を共有、UXリサーチ内容を固めます。

Co-Analysis(共同リサーチ結果分析)
最新の調査データを確認し、ステークホルダーへの最適な提示方法を決定します。

Retro(振り返り)
下記の点を振り返ります。

  • ユーザリサーチにおける成果は?
  • 他に改善する点は?
  • サイクル内でどのくらいユーザリサーチを実施できるか?

実施に至らなかったユーザリサーチについてはUX負債表(注3)を利用し、重要性に鑑み優先順位を決定します。

(注3)UX負債表(User Debt Board)
特にアジャイル環境でのUXリサーチにおける課題を整理し、実施するリサーチの優先順位を確定するために利用されている手法。リサーチ実行容易性とユーザ価値を軸に課題の重要性を整理したもの。

➁ プロダクトオーナーとのリサーチ効率化に向けた対話

(a) リサーチ参加者のプロファイルに関する合意

条件に合うモニタを絞り込むための事前アンケートについて合意をしておくことで、時間を大幅に節約できます。つまり、プロジェクトの対象・枠組みを改めて確認することや、リクルーティングの実現可能性について検討するといったことに時間を取られることがなくなります。また、この段階で合意しておくことは、一貫したUXリサーチを実施するという点でも役立ちます。

(b) 誰がUXリサーチを実施するかの決定

自らUXリサーチを実施するリソースが社内にあるのか、社内チームがアジャイル型UXリサーチを自力で実施するためのツールやスキルを備えているかをチェックします。また、ツールやスキルがない場合、プロフェッショナルサービスチームがリサーチャー・オン・デマンドとしてユーザリサーチを実施します。

(c) UXリサーチバックログの作成

スプリント内で実施するUXリサーチについて期待値を設定し、より大規模なUXリサーチで調査すべき課題についてはバックログ(今後やるべきリスト)を作成します。

(d) リサーチサイクルの決定

納品の目標日(例:第1週目の木曜日、第2週目の火曜日など)を共有し合意を得ます。ごく初期のプロトタイプまたはフラット画像であってもUXリサーチが可能であることを伝えます。

アジャイル型UXリサーチの実施例

リサーチの構成を決定し、何をいつ実施するかについて合意を得ることは、アジャイル環境でUXリサーチを進めていくにはとても重要なことです。

以下にいくつかの実施例をご紹介します。

2週間のスプリントの例➀ オンデマンドリサーチャーを利用した場合

2週間のスプリントの例➁ 内製の場合

まとめ

本稿では、米国では主流となりつつある「アジャイル型UXリサーチ」についてメリットと運用方法をご紹介しました。「アジャイル型UXリサーチ」は、デザイン初期段階から、短期間でビジネスインパクトのあるリサーチを実施でき、適切なタイミングで迅速にユーザ理解を反映することができる優れたメソッドです。

たとえ、時間やリソースに制限がある場合でも、リサーチ専門会社を利用することで、調査対象者のリクルーティングから社内ステークホルダー間の調整・リサーチ結果の共有まで2週間程度のサイクルでリサーチが可能です。

今回ご紹介した「アジャイル型UXリサーチ」は、ユーザ視点の高速PDCAによりビジネス成果を最大化することができる優れたメソッドといえるでしょう。

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