フォルクスワーゲン直伝 「アウトカムドリブン」でユーザーにフォーカスする組織へ【セミナーダイジェスト】
こんにちは、ポップインサイトです。
「フォルクスワーゲン・デジタルソリューションズ」のアソシエイトディレクターとして、デジタルプロダクトチームの構築と強化を担う「ミハエラ・ドラギッティ」さんがセミナーに登場。アウトカムドリブン(成果志向)でプロダクト開発をするVW(フォルクスワーゲン)グループが取り組んだ、顧客課題を解決するための戦略についてお話しいただきました。
今回は、そのダイジェストをご紹介します。
目次
成果重視アプローチとは~モノ作りではなく課題解決に焦点を当てる~
成果重視アプローチとは、機能や特性に焦点を当てたプロダクト開発ではなく顧客の課題解決や業務活動を支援することで、企業のさらなる成長を目指すことです。
ここでの「成果」とは、顧客やユーザーがメリットを得るための課題のことであり、成果重視アプローチは「顧客⇔成果⇔メリット⇔アウトプット⇔機能」という形で結びついています。
顧客⇔成果⇔メリット
まずはじめに、顧客理解です。顧客のメリット(=解決すべき成果)を理解するためには、顧客を理解しなければなりません。顧客理解を進める中で、解決すべき成果はなにか、顧客は本当にその成果を望むのかを見極めましょう。
メリット⇔アウトプット⇔機能
解決すべき課題(成果)を把握した後、顧客の課題解決となるプロダクトサービスを構築します。アウトプットは、どのようなプロダクトを開発するかに左右されますので、顧客の望む成果を念頭に置きながら機能を決めていかなければなりません。
フォルクスワーゲンの事例:販売管理アプリ「Thunder」
VWグループでは、ディーラー向け販売管理アプリ「Thunder」を提供しています。
このアプリを提供したきっかけを説明するため、VW販売店のディーラー・サムさんを紹介します。
■ VW販売店のディーラー・サムさん(45歳)
- 目標:お客様のニーズにマッチした自動車を売ること、VWからの販売およびリード獲得目標の達成
- ニーズ:ツールをうまく使い、タスクを無駄なくスムーズにこなすこと
- ペイン:事務作業が多い(無駄の多い紙ベースの業務)、セールストークの可視化・デモンストレーションができない
サムさんへの支援のために提供されたのが、ディーラー向け販売管理アプリ「Thunder」です。
このアプリの目的は、営業プロセスの根本的変革と、営業担当の事務作業量を減らし、自動車購買者に新しいユーザー体験を提供することです。ユーザーである営業担当者が、シンプルで効率の良い営業プロセスを進めることで、よりお客様のニーズに応じた自動車の提供が可能に。営業担当者と自動車購買者の、双方の新しいユーザー体験を実現できます。
このように成果重視アプローチのプロダクト開発は、機能や特性ではなく成果に焦点を当てることで、どのようにユーザーの課題を解決できるか考慮します。
成果重視アプローチである理由
では、なぜ成果重視アプローチなのでしょうか。VWグループが成果重視アプローチでプロダクト開発をする理由は、以下の3点です。
①解決策ではなく、課題に焦点を当てられる
VWグループの従来のプロダクト開発ではウォーターフォール型アプローチを用いており、「機能を持たせること」に注力していました。しかし、実装の細部にこだわりすぎると「結局、一番解決しないといけない課題は何?」となってしまいます。そこで解決策ではなく課題に焦点を当てる重要性に気づきました。
②顧客とそのニーズに気づける
私たちが解決策と向き合う前に、実際にどういった課題があるのか、実現可能な解決策は何なのかといった「ユーザーとそのニーズ」に光を当てます。そうすることで顧客を理解し、全体の意思決定に大きな意味を持ちます。
③解決すべき課題が明確になる
「ユーザーにとって価値のあるもの=どれだけの機能や特性があるか」ということではありません。達成すべきインパクト(強い影響を与えるもの)について共通認識を持つことが重要です。
このように「製品を作る」ことではなく、「解決すべき課題」に焦点を当てなければなりません。機能ではなく成果を優先項目としてロードマップに置くことで、解決すべき課題に目を向けることができます。
成果重視アプローチの導入方法
では、VWのアプリ「Thunder」が、どのように成果重視アプローチを導入したのかについてご紹介します。
①ステークホルダーとの合意形成
まず、プロダクト開発のはじめに、ステークホルダーとどのように作業を進めていくかしっかりと話し合いました。どのような機能を開発するのか、その機能は誰に/どういうものに必要とされているのかといったことに関して、我々プロダクト開発チームがきちんと解決策を定義します。また、ステークホルダーとの間で問題があるときには、その時々に合う形でのカンバセーションを繰り返し設定します。
②チーム全体でソリューションに取り組む
我々のチームは、クロスファンクションチームというデザイナーやプロダクトマネージャー(PM)、デベロッパー全ての部門がいるチームです。PMはビジネスの視点から期待価値、ソフトウェアデベロッパーは解決策を技術面できちんと構築することというように、それぞれがプロダクト開発に平等に貢献しています。全員が主体性を持って成果を出し、失敗補償に対応できるようにしました。
成果重視アプローチを成功させるには、実際にステークホルダーにも一緒に開発に参加してもらい、明確な戦略を持つことも忘れてはいけません。
③取り組みの第一歩
成果重視アプローチを導入するための第一歩目にすべきことは、「ビジョン・戦略・成果の優先順位一覧・バックログ」の4つです。
■ ビジョン
ハイレベルなプロダクトを開発する中で、変えなければならないビジョンは何かを検討しましょう。
「Thunder」の場合、注力すべきは自動車ではなく、顧客です。従来の営業方法から、より顧客にとって馴染みの良い形で自動車を販売するためにはどうすれば良いかを検討しました。答えは、「簡潔にすること」です。事務作業やペーパーワークをよりシンプルにするツールを導入。お客様への説明が難しいものも、視覚的に説明できるようになりました。
■ 戦略
短期的・長期的に戦略を練りましょう。VWグループでは「Thunder」について、何を、どう変えるべきか、プロダクトビジョンとしてのハイレベルな方向性、ビジョンを達成するにはどうしたら良いのかの戦略を練りました。
■ 成果の優先順位一覧
戦略に対して、とりわけ重要視する成果はなにか、成果の優先順位を検討します。そうすることで戦略に即した動きができるのです。どのように課題を解決すべきか、どのような成果が、ユーザーのニーズに当てはまるのか。そしてまた、ビジネスゴールにどのように沿っていくかを、現在の戦略プランと将来とを結びつけることが重要になります。
■ バックログ
最後にバックログです。バックログというやり残している、未処理の部分にも優先順位があります。より良いプロダクトを開発するため、活動の中でプロダクトチームがしっかりと捉えていきましょう。
■ ペルソナを把握すること
これらの4つと同じく重要なことは、ユーザーペルソナをきちんと把握することです。構築するプロダクトはどういった人を支えるのか、誰のためのソリューションなのかきちんと把握しなければいけません。
「Thunder」の場合、3名のペルソナ(架空のユーザー像)が設定されました。
- 営業担当のサム:「Thunder」は彼の課題解決がポイント
- セールスマネジャーのマーティン:サムのチームの成功を確立する責任者
- 顧客のキャシー:ディーラーへ訪れ、自動車購入を検討
上記3名のペルソナに対して、彼らユーザーとしての課題を解決していきます。
成果重視アプローチの実現を成功するためのヒント
①ステークホルダーの支持を得る
まずは、ステークホルダーからしっかりとした作業合意を得ましょう。
あなたとステークホルダーとの働き方の違いを明確にすると、共同作業やコミュニケーションを取るときにより密に接することができるでしょう。重要なことは、ステークホルダーを活動に巻き込むことです。ユーザーインタビューやワークショップでアイデアを出してもらうことで、彼らに助けてもらうこともでき、彼らも新しいアプローチをしっかり把握できるでしょう。
②スケールに合わせたプロダクト管理の徹底
プロダクトの製作が進むにつれて、チームやステークホルダーの規模は大きくなるでしょう。拡大するプロダクトをきちんと管理しなければなりません。
まずは相互関係を早期に把握し、その対応策を検討しましょう。会議や議論をさらに効率的にするために、焦点を絞ったアジェンダの設定や、時間の区切り方を意識します。また情報の共通リポジトリ(貯蔵場所)を設定してデータのアクセス先を1箇所にし、プロダクト開発に関する主なコンタクト先を明確にすることも重要です。
③主要なデータを追加しながら顧客価値を再定義
各成果に対する主要な定量的データは必ず追加していき、重要なデータはビジョンと一致させるように共同で定義しましょう。
④改善改良を取り入れて長期的に取り組む
忘れてはいけないことは、プロダクト開発は長期にわたる取り組みであることです。すぐに効果が出ることを期待せずまずは具体的な目標を設定、定期的に測定することで新しいアプローチの状況を測定し、さらなる改善改良に努めましょう。アドバイスとしては、定期的に健全性(精神が正常かどうか)チェックを実施することです。課題がどこにあるのか、振り返ることが重要です。必要に応じて、課題を見直し・やり直しましょう。成果重視のアプローチの主眼は、新しいインサイトを発見したときに柔軟に調整・適応することです。
最後に
VWグループでアプリ「Thunder」を使用しているディーラーからは、非常にポジティブなフィードバックがありました(下図参照)。皆さん、ワクワクしながら使っています。
成果重視アプローチを導入することで、優れたプロダクトを作ることができます。
このセミナーが興味深いインサイトになること、を心から願っています。
プロフィール
ミハエラ・ドラギッティ氏 Mihaela Draghici
アソシエイト・ディレクター (Associate Director at SDC:LX)
14年以上にわたって、世界中のさまざまな地域のエンジニアリングチーム、プロダクトデザイナー、ローカリゼーションスペシャリスト、リサーチャー、コンテンツライター、ビジネスステークホルダーと協業、自動車、アフィリエイト マーケティング、e コマース、教育分野において 、B2C ・ B2Bの デジタルプロダクトをマネジメントしてきた実績を持つ。現在は、ポルトガル・リスボンにあるフォルクスワーゲン・デジタルソリューションズでアソシエイトディレクターを務めており、ユーザー中心のアプローチとアジャイルメソッドにより、フォルクスワーゲングループのデジタルプロダクトチームの構築と強化を担っている。
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