第8回「ABテストを実施する場面でのユーザーモデルの活用」
第7回では、インタビューやユーザーテストのような質的な調査を実施する際の対象者の選択にユーザーモデルを活用する考え方についてご説明して参りました。
第8回の今回は、施策やデザイン等を決定する段階でよく登場するABテストを実施する場面でのユーザーモデルの活用について考えてみましょう。

何らかの意思決定に「ABテスト」という手法を使っている方は多いと思います。
対象者をきちんとランダム化することやテストで検証したい項目を絞る等、留意することはあっても、結果や有意性の解釈がシンプルにできるので、例えばマーケティング領域でしばしば発生するクリエイティブテスト等においては重宝な手法です。
但し、「ABテスト」という手法自体からは、「AとBのどちらが選択されたのか」の結果が得られるだけで、「選択の対象となるAとBをどのように準備するのか」や「被験者がA又はBを選択したのは何故か」のような選択行動の熱量のもとを明らかにすることを含んではいないので、そのまま実施しただけでは“学習”は効きません。
もちろん、単純に「AのデザインとBのデザインのどちらが良いのか」のような結果を得たいだけであればそれで充分でしょうが、学習が効かないと、テストの必要な事象が発生するたびにひたすら何度も「ABテスト」を繰り返すことになってしまいますし、AもBも良くなくても、どちらかを選ぶしかないので…のようなことにもなりかねません。
結果の良かったデザインを選択した被験者の持つ心理特性をユーザーモデルを使って“学習”しておくことで、被験者の解像度は格段に高まりますし、次に同じ目的で別の制作を進める際にも、学習した心理特性を活用して、より効果的なデザイン制作を進めることもできます。
また、「ABテスト」に関与していない実際の対象者(ターゲット)群から、“学習”した心理特性に類似した特徴をもつ対象者を効率的に選び出すことも可能になるでしょう。
デザイナーの感性や経験のみに基づいてアートのような唯一無二の制作物を作るのであれば「デザインはデザイナー任せ」ということもなくはない(“学習”の必要はない)かもしれませんし、「どうしてそのデザインなのか」はあまり自分で考える必要がない制作物であればともかく、テストをする必要があるようなクリエイティブにはそもそも固有のビジネス目的があります。
そしてその目的を前提に実際の対象者(ターゲット)が想定されることがほとんどですから、熱量のもととなる、対象者(ターゲット)に選択行動を起こさせる固有の動機や意識の解像度を高め、再現性の高い制作物を“意図して”作ることができる必要があるのは当然ですよね。
次回(第9回)は、生成AIのプロンプト作成にユーザーモデルを活用するイメージについて考えて参ります。
著者

小澤 一志
ユーザーモデリングラボ 代表
富士ゼロックス株式会社研究技術開発本部シニアリサーチャー、慶応義塾大学SFC研究所を経て、2019年ユーザーモデリングラボを開業、日本感性工学会会員。
様々な分野を対象に、ユーザーモデリングやユーザーモデルを活用したコンサルティング、UX(User eXperience)リサーチやUX改善コンサルティングに従事。