顧客体験CX。アフターコロナの顧客体験を最適化する3つのキーワード
「アフターコロナのビジネス戦略をどう構築すればよいのか」という問題に、多くの企業が直面しています。
新型コロナウイルスのパンデミックという社会的・経済的混乱の中、BtoB・BtoCいずれのサービス利用者も、状況の急速な変化や次々と届く新しい情報に適応せざるを得ない状況です。
この状況で企業が優先すべきことは、パンデミック下での顧客ニーズと行動の変化を理解し、パンデミック収束後にどう変化していくかを予測することです。この予測に基づくことで、今後の 「新しい日常(New Normal)」で最大の価値を出す顧客体験(CX/UX)を創出することができます。
「新しい日常(New Normal)」での顧客体験とは、「デジタル領域での顧客体験」を意味します。あらゆる社会的・経済的活動がデジタル化・オンライン化している現在、デジタル領域での顧客体験を最適化することの重要性が高まっています。
本稿では、海外のマーケティング・UXリサーチ会社が実施したリサーチの結果を踏まえ、アフターコロナで顧客が優先する
- 「安全性」
- 「ダイバーシティ(多様性)」
- 「デジタルの人間化」
という3つのキーワードを紹介します。
安全性
非接触型アプローチ
パンデミック下のユーザは、衛生上の不安に過敏になっており、物理的に人と接することがない安全なアプローチを好む傾向が強くなっています。
Prosper Insights and Analyticsが実施したリサーチでは、米国における消費者の72%が、3月から4月にかけて店舗での買い物を減らしており、18〜44歳の40%以上がオンラインショッピングの機会を増加させています(Forbes)。
また、宅配サービスは「便利なもの」から「必需品」となりました。
イタリアでは2月から3月にかけてオンライン食料品の宅配ユーザー数が2倍になり、中国では食品配達サービスMeituanの受注数が2020年初頭の4倍となりました(McKinsey &Company)。
こうしたことから、McKinsey&Companyは、カスタマージャーニーに含まれる物理的な接触型のタッチポイントを非接触型のタッチポイントに変更することを推奨しています。
オンラインショッピングでの迅速なトラブル対応
一方で、Usertesting社のリサーチによると、非常時のキャンセル対応やキャンセルポリシーについてのユーザテスト件数は激増しています。
この現象は、「デジタル領域での顧客体験」では注文キャンセルの可否や条件などをすぐに知りたいという要望が高まっていることを示唆しています。
インターネットのセキュリティ強化
また、今回の危機は従業員の勤務環境にも大きな影響を与えました。
現在、米国で自宅からリモートワークしている人の53%は自宅勤務歴が1カ月未満です。これは、パンデミックにともなってリモートワーク人口が急増していることを示す結果です(Slack)。
また、74%の企業が、永続的に従業員をリモートワークさせると話しており、リモートワークの増加傾向はパンデミックの収束後も持続する見込みです(GfK)。
同様に、従業員側でも、リモートワークを続けたいという傾向がみられます。例えば、5月にロックダウンが解除され始めたフランスでは、70%以上の従業員が、ロックダウン解除後も定期的(32%)または不定期(41%)にリモートワークを続けたいと回答しています(franceinfo)。
リモートワークが増加したことで、ビデオ会議ツールの「Zoom」が突如脚光を浴びることになりました。しかしながら、プライバシーとセキュリティ上の問題が多数明らかとなったことは、皆さんの記憶に新しいことと思います。
もちろん、利便性とセキュリティの間には避けられないトレードオフがあるでしょう。しかし、Zoomの問題は、リモートワークへの移行にともない、利便性以上にセキュリティの優先度が重視されていることを示しています。
以上から分かることは、ポストコロナのデジタルサービスでは、
・製品・サービスを提供する際、物理的に人と接触しないこと
・アクシデントが生じた際に迅速に情報が入手できること
・製品・サービス利用時に十分セキュリティに注意が払われていること
という条件が満たされた安全な顧客体験の設計が求められているということです。
ダイバーシティー(多様性)
多様なユーザ層への対応の必要性
上述のとおり、パンデミック下では、デジタル領域での顧客体験は「あれば便利」から「生活になくてはならない不可欠なもの」へと変化しました。このため、幅広いサービス利用者層に対応した顧客体験の提供が求められています。
全世界の20業界、1400サイトを対象にしたリサーチによると、2020年1月~2月と比較して、4月のオンライントラフィックが25.4%、オンライントランザクションは42.8%増加しています。また、3月に家庭でメディアコンテンツに費やされた時間も、ニュース利用が36%、ソーシャルメディア利用が21%増加していました(Statista)。
一方で、今回のパンデミックによって「デジタル格差」の存在がかつてないほど露呈したとも言われています。
課題1:インフラ格差・経済格差による「デジタル格差」
ユネスコによると、インターネットに接続している世帯は全世界の55%にすぎません。先進国では87%の世帯がインターネット接続していますが、発展途上国では47%、後発開発途上国では19%となっています。さらに、先進国でも高速接続が可能な世帯はかぎられています。アメリカでは人口の6%以上(2100万人)が、オーストラリアでは13%が高速接続ができない状態です(WEF)。
課題2:「デジタル格差」による教育格差
外出規制により、世界中で10億人を超える子ども達が学校に通えない状態が続いています。教師が毎日オンライン授業を実施していたとしても、デジタル格差のために多くの子ども達が教育の機会を喪失しています(WEF)。
オンライン授業に参加できたとしても、オンラインツールやアプリを使いこなせるかによって、教育の格差が発生する可能性が高くなっています。
課題3:「デジタル格差」による高齢者の孤立リスク
また、デジタル格差は、高齢者の孤立という問題も生んでいます。
例えば、米国では、50歳以上の77%がスマートフォンを使用しているものの、70歳以上では62%、タブレット利用にいたっては40%まで落ち込みます(ARPP)。
パンデミック下ではデジタルは大きな役割を果たします。
外出することなく食料品や生活必需品を購入したり、最新の健康情報を検索したり、また、家族や友人とつながったり、エンターテイメントの提供を受けることも含まれます。
つまり、デジタル領域にアクセスできない生活を送る高齢者はパンデミック下で孤立し、生命をおびやかされるリスクにさえ直面しているのです。
この問題に関連して、ウェブサイトのユーザビリティ(使いやすさ)研究の第一人者であるJakob Nielsenは、UXの観点から貢献できることのひとつとして、高齢者に対応した大胆なUI改善の必要性を訴えています。
ポストコロナで必需品となったデジタル領域での顧客体験に求められるのは、国、世代、環境を問わず、簡単で、迷いなく、ストレスを感じずに操作できるUI・UXです。
ダイバーシティー(多様性)を考慮したUX改善がかつてないほどに求められているのです。
デジタルの人間化(共感をよぶメッセージ伝達)
デジタルに「人間とのやりとり」が欲しい
パンデミック下のデジタル領域での顧客体験の価値は、「効率的」だけでは十分ではありません。企業との物理的な接触ができなくなったことで、ユーザは「人間とのやりとり」をリモートやデジタルのタッチポイントにも求め始めているからです。
これまで企業は、対面(物理的タッチポイント)、メールや電話による(リモートタッチポイント)、オンライン販売やカスタマーサポート(デジタルタッチポイント)など、複数のタッチポイントで顧客に対応してきました。デジタルというタッチポイントは、特に効率性を優先する場合に採用されたチャネルでした。
しかし、Accentureのリサーチによると、パンデミック下で思いやりのあるカスタマーサービスを提供することは、顧客からのポジティブなブランド認知を得ることにつながり、カスタマーロイヤルティを大幅に向上する可能性があることが示されました。
また、緊急かつ複雑な問題への回答を求めている場合、約6割の顧客はライブ感のあるやりとりをより好むというリサーチ結果もあり、直接やりとりのできるコンタクトセンターを設置する重要性を訴えています。
「コロナへの立ち向かい方」を示すメッセージが欲しい
一方、パンデミック下では、広告を自粛したほうがよいと考えている企業もあることでしょう。しかし、企業やブランドに対して「広告の掲載を控えるべきだ」と感じている消費者はわずか8%にすぎません。
人々はむしろ「そのブランドが新しい日常生活にどう役立つのかを伝えてほしい」(77%)、「この状況に立ち向かうためのブランドの努力を表明してほしい」(75%)「ブランドが安心感を与えてほしい」(70%)と考えています(Kantar)。もちろん、「コロナウイルスの状況を悪用してブランドを宣伝しないでほしい」(75%)「滑稽な口調は避けるべきである」(40%)という声があることには注意が必要です(Kantar)。
こうしたことから、アフターコロナの顧客体験において重要なメッセージの発信方法は、デジタルの世界であっても人間らしさを感じるやりとりがあること、つまり、人との物理的なつながりを感じさせる、共感をよぶメッセージ伝達であるといえます。
まとめ
本稿では、海外のコンサルティング会社・UXリサーチ会社が実施したリサーチの結果から見える、アフターコロナのデジタル領域で顧客が優先する3つのキーワード
- 「安全性」
- 「ダイバーシティ(多様性)」
- 「デジタルの人間化」
を紹介しました。
海外と同様、日本でも、アフターコロナのビジネス戦略の策定は急務です。
パンデミック収束後のデジタル領域での顧客体験を最適化するためにも、まずは現時点の顧客ニーズと行動の変化を理解するためのリサーチからはじめてみることが大切です。
(参照資料)
AARP,”2020 TECH AND THE 50+ SURVEY”
Accenture,”COVID-19: Responsive customer service in times of change”
Forbes,”How consumers are dealing with Covid-19 economy”
Forrester,”COVID-19 Accelerates Digital Adoption For European Consumers And Businesses”
franceinfo,”“J’ai l’impression de tout flinguer en retournant au bureau” : à l’heure du déconfinement, ces salariés veulent rester en télétravail”
Garner,”Gartner CFO Survey Reveals 74% Intend to Shift Some Employees to Remote Work Permanently”
MacKinsey & Company,”Adapting customer experience in the time of coronavirus”
Medium,”Designing secure experiences in COVID-19”
Slack,”Report Remote work in the age of Covid-19”
Statista,”Coronavirus impact on online traffic worldwide in week ending April 19, 2020”,”Media consumption increase due to the coronavirus worldwide 2020, by country”
United Nations,”Coronavirus reveals need to bridge the digital divide”
World Economic Forum,”Coronavirus has exposed the digital divide like never before”
カンター・ジャパン,”「新型コロナウイルス(COVID-19)バロメーター調査」:初回の国内調査データを無料提供開始”
無料DL|ユーザビリティテストの基本
数あるUXリサーチ手法の中でも最初に始めやすい「ユーザビリティテスト」の「基本的な設計・実査・分析の流れ」と「実施の進め方や注意点」を解説します。