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アトミックリサーチとは? 顧客インサイトをニーズに応じて使い分け活用しつづけるプロセス

【作成】2021/11/19 【更新】2021/12/07

本記事はDovetail社より許可を得て翻訳したものです。

元記事:” Atomic research: From reports to consumable insights

UXリサーチはいつも「レポートにまとめて終わり」になっていませんか?また、部署ごとでUXリサーチを実施しているため、部署間で知識が共有できていないということはありませんか?

海外では、UXリサーチを継続的に実施し続けるだけでなく、UXリサーチから得たインサイトを組織全体で共有し、活用し続けていくプロセスが広まってきています。

このプロセスは「アトミックリサーチ」と呼ばれます。

本稿では、「アトミックリサーチ」について、その開発者であるトマー・シャロン氏の言葉を含め、わかりやすく解説しているDovetail社のブログ記事” Atomic research: From reports to consumable insights”をご紹介します。


ステークホルダーにとって、「役に立つインサイトをリサーチから見つけるのは大変だ」という話をよく耳にします。

また、リサーチに基づいた戦略的な意思決定を行う顧客中心の効率的な組織もありますが、多くの組織では、意思決定者にリサーチに注目してもらい、リサーチに基づいて行動を起こしてもらうことに苦労しているのが現状です。

これまでのリサーチプロセスでは、UXリサーチから得られた情報やデータをインサイトとしてまとめ、レポートにして発表したり保存していました。

しかし、レポートや、インサイトの元となった生の情報、具体的にはスプレッドシート・ビデオ・オーディオファイル・トランスクリプト・PDFなどは、ファイルやフォルダの中に埋もれてしまったり、さまざまな部署などに分散してアクセスできない状態(サイロ化)になっていることが多々あります。

これでは、貴重なリサーチの情報が失われていくだけでなく、企業は以前と同じようなリサーチを繰り返すという悪循環に陥ってしまいます。

海外で広がっている「アトミックリサーチ」とは

「アトミックリサーチ」は、当時WeWorkのUX最高責任者であったトマー・シャロン(Tomer Sharon)氏と彼のチームによって開発されました。

具体的には、リサーチのインサイトを「ナゲット」と呼ばれる単位に分解することが特徴です。

 「アトミックリサーチの基礎」(2018年)において、トマー氏は次のように語っています。

「アトミックリサーチとは、リサーチから得られたインサイトを原子のような小さい単位に定義しなおし、リサーチで得た知識を管理するアプローチです。 アトミックリサーチにおいては、レポート、スライドデッキ、ダッシュボードのような形ではなく、インサイトを『ナゲット』という新しい単位で管理します。 言い換えれば、『ナゲット』は、エビデンスを含むタグ付きの観測結果であり、1つのカスタマーエクスペリエンスから得られたインサイトとも言えます。」

私たちは最近、アトミックリサーチの背景をより深く理解するために、トマー氏にお時間をいただきました。

トマー氏によると、アトミックリサーチの目的は、組織における3つの問題を軽減することでした。

  • リサーチ・メモリー:時間の経過とともに組織の知識が失われること
  • リサーチ・サイロ:組織の中でインサイトから得られた知識やインサイト間のつながりが共有されないこと
  • 誰も読まない長いリサーチ・レポート

アトミックリサーチの最小単位『ナゲット』とは?

ここではもう少し『ナゲット』という概念についてみていきましょう。

『ナゲット』とは、検索したり共有することが可能な、カスタマーエクスペリエンスから得られた生の質的データです。

『ナゲット』になにが含まれるのかを理解するのに役立つ言葉を以下に紹介します。

■観察(Observation)

「観察」とはリサーチャーが何を学んだかについての説明にあたります。

トマー氏によると、「観察」にはWhat(なにが)とWhy(どうして)の両方が含まれていなければならないと強調しています。

「Why(どうして)という視点を加えることで、インサイトの質が上昇します。例えば、What(なにが)は『自社のあるメンバーが、自社のプリントサービスを利用するより自分のプリンターを持ち込みたいと言った』ことだとしましょう。そして、これにWhy(どうして)という視点を加えると『なぜなら彼はプリントサービスを利用するためのプロセスを一人でやり遂げられないと感じたから』となります。こうして理由を加えることで、Whatは単なる事実ではなく、インサイトに変化します。」

■エビデンス(Evidence)

「エビデンス」とは、ビデオ録画・オーディオ・写真・スクリーンショットなど、「観察」を裏付ける資料のことを意味します。

■タグ(Tags)

リサーチ方法、デモグラフィックデータ、エクスペリエンスの種類、ユーザー・ジャーニー内のどの時点か、などの情報を把握するための分類法です。

個々の「ナゲット」にタグが付けられていることで、例えば、異なるリサーチであっても、コンテキストにおけるパターンを特定・追跡することができ、誰もが情報を分析することができます。

例えば、壁一面に色分けされた付箋が貼られていて、それぞれの付箋には一連の顧客インタビューから抜粋した内容が書かれていると想像してください。

「ナゲット」とは、その場にいるリサーチャーだけでなく、誰もがそれを利用することができるように、壁一面の付箋をデジタル化したものと言えます。

つまり、アトミックリサーチでは、「ナゲット」という単位でインサイトが管理されていることによって、あるインサイトを特定し、追跡することができるようになるだけでなく、より大きな全体像を描くために複数のインサイトを利用することもできます。

なお、「ナゲット」は写真やスクリーンショットなどソースを問いませんが、一般的にはビデオインタビューのような質的なものが多くを占めます。

また、それぞれの「ナゲット」を検索したり追跡しやすくするためにタグやフィールドを割り当てて分類するのが一般的です。具体的には、タグやフィールドとしては、次のようなものが考えらえます。

  • 手続き的な情報:日付・ソース・エビデンスに用いているメディアの種類など
  • デモグラフィックデータ:年齢・性別・居住地など
  • エクスペリエンスに関する情報:感情やその大きさ・頻度など
  • ビジネスに関する情報:収益範囲、ビジネスユニット、製品ラインに関する情報など
  • サービスデザインに関する情報:カスタマージャーニーのどの時点か、行動・シーン・人物像など

この結果、リサーチャーはインサイトのライブラリを構築することができ、それをリサーチ・リポジトリと呼ばれる保管スペースに蓄積していくだけで、カスタマージャーニーにおけるポジやネガの瞬間などの傾向を特定したり観察することができます。

つまり、ユーザーエクスペリエンスに関する真実が詰まった唯一のデータソースを作成し、インサイトに変換したり、テストをしたり、ビジネス上の意思決定に役立てることができます。

トマー氏は、次のように強調しています。

多くの組織はリサーチリポジトリを持っています。しかし、一般的にリサーチ・リポジトリは、必ずしもインサイトの知見を集めたライブラリーとはなっていません。それはインサイトの保管場所ではなく、レポートの保管場所になっています。

アトミックリサーチの現状

いつでもだれでも利用できるリサーチ

企業にとって、「ナゲット」が格納されたリサーチ・リポジトリを保有することは、顧客に関するリサーチを格納し簡単に閲覧できる一極集中型のデジタル・ファイリング・システムを持つことを意味します。

リポジトリには、リサーチャー、プロダクトデザイナー、プロダクトマネジャー、マーケティング担当者など、企業のあらゆる部門がアクセスできます。チームメンバーは、タグを使って関連するデータを検索し、分析することができます。

これにより、組織内に保存された何年も前のレポートやファイルを手作業で探し回る必要がなくなります。また、リサーチ・リポジトリには常に新しい「ナゲット」が追加され、貴重なUXリサーチデータのハブを構築することができます。

このようにアトミックリサーチというモデルは、リサーチ・リポジトリと組み合わせることで、UXリサーチを、常に進化し続けるナレッジシステムへと変貌させます。

過去の事実やインサイトが簡単に再発見できるようになれば、知識はいつまでも色あせず、リサーチが忘れ去られることも、関連するリサーチが無駄になることもありません。すべての事実とインサイトは、リサーチが終わった後も価値を与え続けることができます。

さらにトマー氏は、アトミックリサーチがうまく機能するためには、リサーチ自体が変わらなければならないと言及しています。

継続的なリサーチとは、常時実施され、進め方や期限などが決まっていない非常にオープンエンドな性質を持っています。そして、リサーチから得られた様々な知見はリポジトリに継続的に反映させることができます。

個人的な偏見を排除できる

インサイトは、リサーチのプロジェクトを主導している部門別に適した結論を与えてくれます。

例えば、プロダクトマネージャーは、自分たちの製品分野に関連する特定の真実を探しているかもしれません。一方、デザイナーやマーケティング担当者は、同じリサーチソースから別の真実を取り出すことができるかもしれません。

アトミックリサーチは、定性的なデータをより生に近い形に分解・保存することで、個人的なバイアスを取り除き、関係者間での理解の共有を可能にします。

アトミックリサーチは、組織にとって大きな力となります。インサイトは独立した存在として扱われ、元のリサーチのコンテキストに縛られることはありません。

つまり、大規模な組織であれば、複数のリサーチからパターンを発見することができるのです。過去のインサイトと導き出した結論は、現在のリサーチによって検証され、補強されることで、組織の知識を理想的な状態に保つことができます。

アトミックリサーチの単位をつなげる

最後に、一番重要なのは、アトミックリサーチの単位である「事実」「インサイト」「結論」の間にある「つながり」です。

アトミックリサーチというプロセスを採用し、事実とインサイトを自由に組み合わせることで、意思決定を強化したり、検証することができるようになります。

このようなユーザーリサーチのアプローチは、チームの作業量に優先順位をつけたり、知識のギャップに焦点を当てるだけでなく、個々の戦略の価値を高めるのに役立ちます。


本稿では、リサーチから得たインサイトを継続的に組織で活用していく「アトミックリサーチ」をご紹介しました。

これまでのリサーチからレポートという直線的な流れではなく、インサイトを独立したものとしてUXレポジトリで保持することで、組織全体でインサイトを共有でき、別のプロジェクトの仮説検証や意思決定にも利用することができます。

一回きりのリサーチで終わらせないための「アトミックリサーチ」、そしてUXレポジトリの活用は、海外では広く議論されています。より詳しくお知りになりたい方は、下記もご参照ください。

参照:

Nielsen Norman Group,”Research Repositories for Tracking UX Research and Growing Your ResearchOps

Tomer Sharon, “Foundations of atomic research


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