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MaaS(Mobility as a Service:マース) UXデザインの誤った通念 MaaSにまつわるエトセトラ

2017年に世界に先駆けてフィンランドでスタートしたMaaS(Mobility as a Service)をご存じでしょうか。MaaSとは、すべての公共交通機関をICTの活用でシームレスにつなぎ、効率的かつ便利な「移動」を支えるサービスを指します。日本でもMaaSアプリのサービス開始に向けた動きが見られはじめ、今非常に注目を浴びている分野です。

2020年2月17日(月)のオンラインセミナーでは、株式会社ドッツのスマートモビリティ事業推進室室長、坂本貴史さんにご登壇いただきました。坂本さんには、MaaSにおけるUXデザインの誤った通念と正しい理解についてお話いただきました。同推進室をご自身で開設し、鉄道や公共交通機関のMaaS事業を推進してこられたご経験も満載でした。本稿ではそのダイジェストをお伝えします!是非ご覧ください。

UXデザインの誤った通念~MaaSにまつわるエトセトラ

株式会社ドッツのスマートモビリティ事業推進室の室長、坂本です。ドッツは、主に鉄道系のクライアントのMaaS事業を支援しています。

私の主な仕事は、デジタルプロダクトの制作というより、プロダクトを使うためのサービス体系や戦略の構築です。また、2011年には「IAシンキング」というIA(情報アーキテクチャ)分野の書籍を執筆しております。

本日は、私が最近取り組んでいるモビリティという分野について、またデジタル文脈における一般的なデザインと「UXデザイン」の違いについてお話します。

自動車(コックピット)におけるHMIデザイン

新技術を取り入れる際に考えたい3つの着眼点

始めに、自動車の運転席周りのHMI*(Human Machine Interface)デザインについてお話します。
*HMI:人間が機械・装置を操作したり、人と機械との間で情報をやり取りするためのインターフェイス。自動車の場合、ペダル、ハンドルやスイッチ・パネルなどが入力装置、スピードメーターやタッチパネルのディスプレイなどが出力装置となります。

米国海軍の駆逐艦の操作パネルをハードスイッチ(編註:物理的に押すスイッチ)からタッチパネルに変更したところ誤操作が増え、再度ハードスイッチに戻した、というニュースが2018年に話題になりました。このニュースは、スマートフォンの普及によってあらゆる操作に「タッチ操作」の導入が増えている、という現状に逆行したものです。

我々が新技術を取り入れる際の教訓として、「タッチパネル操作は使いにくい」という一方的な解釈ではなく、以下の3つの視点が重要だと考えています。

新しい技術と古い(慣れた)技術を比較するのは間違いです。パネル操作に不慣れなのでハードスイッチより使いにくい、というのは当たり前です。熟練度が足りていない時点で「使えるか」を検討すると、新技術の勝ち目はありません。

新技術を取り入れる際の起点にすべきは、「使えるか」ではなく「(ユーザが)どういった体験にしたいか」というコンセプト、ビジョンです。操作体験自体を見直す、といった取り組みの中で採用されやすい着眼点であると言えます。

HMIの変革のトレンドから読む3つの気づき

近年、HMIのトレンドにはいくつかの変革が起きています。このトレンドの変化を踏まえながら取り組んできた中での気づきは以下の3つです。

一般的に「デザイン」と言うと、「絵が描けるかどうか」「装飾・造形」を指すため、「UX デザイン」も「装飾・造形」の一部として見られてしまいがちです。しかし、「UXデザイン」に求められるペルソナやカスタマージャーニーといったリサーチの部分は、一般的な「デザイン」の仕事ではなく「企画」を含んでいると私は解釈しています。

「デザイン部署は絵を描いて、企画部署は企画を作る」という分業ではうまくいきません。その解決方法の1つが「UXリサーチ」です。そして、ポイントは「いつするのか」ということ。UXリサーチをデザインのフェーズで実施しても「デザインの検証」になってしまい、あまり意味がありません。

理想的なのは、「デザインと企画が協業すること」そして「前倒しして行う」ということです。具体的には企画のフェーズで行うべきです。デザイン部署が前倒しで企画のアウトプットを持ち込む。デザイン部署が企画部署に寄り添う形で実施するとスムーズにいくかもしれません。ぜひ参考にしてみてください。

MaaS時代におけるモビリティの価値

次に、MaaS(Mobility as a Service)についてお話します。MaaSとは、個人使用のクルマ(いわゆる「マイカー」)だけでなく、自転車や公共交通機関などが自由に使える世の中を目指す仕組みです。移動体として最近は電動キックボード・車いす・キャンピングカー・バンなど、様々な形が増えてきています。

近年、日本でもMaaSの実証実験が進んでおり、私もこの全国の取り組みを取材しています。現在は、自動車のニュースサイト「レスポンス」にて「MaaS体験記」という連載を持っています。現在は、全国のMaaSの取り組み、特に国交省や経産省が補助金等を援助して成り立っている自治体の取り組みについて取材し、3回目の記事を書いています(2020年2月時点)。

上の写真は福井県の永平町が取り組んでいる、自動カート運転の実証実験です。地方ではこうした自動カートが観光客の足になります。鉄道や路線バスといった既存の手段以外の方法を移動手段として提供する取り組みです。各地域でのMaaSの普及レベルを知る参考になりますので、よろしければぜひご覧ください。

車内におけるUI/UXデザイン

次に、車内のUI/UXデザイン施策をご紹介します。

HVAC(空調機能)

この画像はテスラ(アメリカの自動車メーカー。電気自動車や蓄電池などの開発に注力)です。空調を「エンタメ」としてコンテンツ化した例としてご紹介します。

少し前のモデルでは、空調の操作パネルに暖炉の動画を流すボタンが配置され、動画を流すと実際に空調が作動し車内が暖かくなる、という演出がなされていました。特に面白いのは、バイオハザードマークのついた「生物兵器防衛モード」。このボタンを押すと無菌室状態になります。こうした「空調のコンテンツ化」は、他社ではほとんど見られないテスラ独自の新しい取り組みです。

VRによるエンタメの提供

アウディからスピンアウトしたHoloride(自動車向けVRの開発を手がけるドイツのスタートアップ)は、実際の風景と重ね合わせてVRでゲームコンテンツの提供を開始しています。

「移動体験」をよりよくするための2軸:「安全・安心」と「エンタメ化」

このように、自動車業界では「移動体験をエンタメ化する/豊かにする」という取り組みがなされていますが、運転が自動化されると「車に運転手が存在しない」という状況が生まれます。

実際、ユーザ調査で「(運転中に)何が一番知りたいですか?」と尋ねると、周辺情報やエンタメではなく、「そもそも今、車がどうなっているのか」という、非常にプリミティブ(根源的)な安全・安心が求められている傾向がありました。つまり、業界の「移動体験のエンタメ化」とはほとんど正反対の発想です。

とはいえ、車内で過ごす「移動体験」をより良くするには、「安全・安心」と「エンタメ化」の2つの方向性が非常に密接に関わりますので、どういったアプローチをとるかが自動車の開発戦略に紐付いてくることが分かりました。

これからのモビリティのデザイン

では最後にこれからのモビリティのデザインについてお話します。まず、「人はなぜ移動するのか?」という問いに注目します。

こちらはAirbnbサイトの「エクスペリエンス」というコーナーです。このページでは、目的地ありきの観光だけでなく、どういったことを体験したいのか、がコンテンツ化されています。つまり「〇〇(場所)に行こう」だけではなく、「△△(体験)ができるなら行こう」というニーズですね。

自動車もしくはMaaSにおいて一番重要なのが、こういった「トリガー」です。このAirbnbサイトも、「なぜその人は移動するのか?」という問いに対して、サービスとしてどれだけコミットできるかをポイントのひとつとしている一例です。

サイモン・シネックの有名な「ゴールデンサークル」でも言われていますが、「WHATではなく、HOWでもなく、WHYからはじめる」ことは、いかなる分野でも重要なアプローチです。

最後に、先進的な取り組みを二つご紹介します。1つ目は、ポルシェが提供しているアプリです。目的地情報の取得、宿泊予約、そして目的地までのナビゲーションがこのアプリだけでできます。最近のモビリティの中では非常に先行的です。

2つ目は、エミレーツ航空のファーストクラスのデザインで、ベンツのデザイナーに影響を受けたものです。自動車が自動運転になると、目指すべき方向性が「エンタメ」と「安心・安全」という2つになる、とお話しましたが、その2つに加え、このデザインが体現するような「リラックス感」を生み出す、というのも新たな方向性かもしれません。

まとめ

最後に本日の内容を4つにまとめました。

  • どういう体験にしたいかビジョンが先
  • 数ある移動手段の中から選ばれる
  • 車内体験は、ドライバーではなくパッセンジャー本位
  • なぜ移動するかWHYから考える

以上です、ありがとうございました。

以上、Maasの具体的な事例をたくさんご教示いただき、質問にも丁寧にご回答いただいた坂本さん、どうもありがとうございました♪

坂本さんは現在、「MaaS x Card」というワークショップツールをクラウドファンディングしているそうです。こちらを使ったワークショップも開催予定とのことですので、ご関心お有りの方は是非いかがでしょうか♪

また、弊社UXリサーチャがご支援いたしますアジャイルUXリサーチにもお問い合わせお待ちしております。
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投稿日: 2020/06/05 更新日:
カテゴリ: UXウェビナーダイジェスト, UXデザイン