freeeの「成果を生み出すデザインリサーチチーム」の秘密
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全国100万の事業所で利用されているクラウド会計ソフト「freee」がシェアNo.1に上り詰めた過程には「デザインリサーチチーム」の活躍がありました。
2020年6月9日開催のオンラインセミナーでは、クラウド会計・人事労務ソフトを提供するfreee株式会社 UXデザイナー伊原 力也さんにリサーチチームの発足から定着、ユーザーリサーチ仕組み化までのプロセスをお話しいただきました。
目次
freeeの「成果を生み出すデザインリサーチチーム」の秘密
freee株式会社の伊原と申します。今回は「デザインリサーチチームとは何なのか、どういった成果をあげているのか」というお話をさせていただきます。
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社内文化・システム化
こちらはポップインサイトさんが国内のリサーチをしている企業115社にアンケート調査を行った「UXリサーチ実態調査2020レポート」の中のアンケート、「UXリサーチ体制への不満」の結果です。
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こちらより過半数がリソース不足に課題を持っていることが分かります。「やりたいのにリソースが足りない」「組織構造や体制が組めない」「予算が足りない」という状態にあるのです。
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続いて「UXリサーチャーの人数」に関しては、「専任担当が1人以上いる企業はわずか25%」という結果が出ています。どうしたらもっとリサーチをやれる環境にできるのかが課題となっています。
freeeにおいても私の入社時からユーザー調査・評価が盛んだったかというとそうではありませんでした。ユーザビリティテスト(UT)は実施されておらず、調査の数も年に数本程度で、もちろんリサーチチームもありませんでした。
そこから2年強経った現在、ユーザビリティテストはほぼ必須で実施されるようになりました。ユーザーリサーチも重要度に応じて計画的に実施されるようになり、リサーチチームも専任3人+オペレーション周りを行う1人、という体制になっています。
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ポップインサイトさんの調査によると、UXリサーチの社内啓蒙は「関心醸成期」「個別案件期」「拡大期」「仕組み期」の4つのプロセスに分かれるとされています。この流れに沿って、freeeのリサーチ環境がどのように変わっていったのかをご説明します。
無料DL|サービス紹介資料
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株式会社メンバーズ ポップインサイトカンパニーのサービス資料です。UXリサーチチームが組織に伴走しサービス開発・改善のプロセスにUXリサーチの内製化をご支援します。
関心醸成期
ここで、freeeでよく使われる「マジ価値」という言葉をご紹介します。これは「ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをする」と定義されています。このようにfreeeはもともとユーザーサイドに立つ意識が強く、それをどういう方法で実践しようか、という状況でした。
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関心醸成期には以下の3つのことを行いました。
1.Bizと協働での顧客マッチングサービス
企画や開発のメンバーに「こういうものを作りたいから~な人に会いたい」とGoogleフォームに書いてもらい、それを見た私とビジネス職の人が相談して、要件に当てはまる人とのインタビューをセッティングする、というものです。
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2.社内でのリサーチ講習会/ワークショップ
前職がリサーチ会社のデザイナーに「ユーザーリサーチで覚えておきたい7つのこと」というテーマで話してもらったり、ユーザビリティテストのワークショップを行ったりしました。
3.社外から講師を呼び講習会/ワークショップ
「UXリサーチの道具箱」で有名な樽本さんをお呼びするなど、外部の著名な方に進め方を講義していただき、イメージを掴んでもらいました。
ここでわかったことは次の3つです。
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こうした気付きから、まずはわかりやすく効果もあがりやすいユーザビリティテストに絞り、それを実現できる状況を作るというアプローチを取りました。
個別案件期:UT編
個別案件期にfreeeでは以下の3つのことを行いました。
1.リサーチャーがUTを実施、様子を社内SNSで配信
まず、実際のプロダクトにおいてユーザビリティテストを行うとどうなるのかを見てもらいました。担当者が「これでいける」と思っていても、ユーザビリティテストを行うと「ここのボタンを押してくれない」ということが往々にして起こります。こうしたことを実際に見せると非常にインパクトがあります。
社員からもこのような反応をもらっています。
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2.やりかた共有doc「UTkit」の取りまとめ
ユーザビリティテストの必要性に気づいてもらえたので、今度はやり方を共有ドキュメントに取りまとめました。これを読んで試して、そして相談してもらうことで社内のユーザビリティテスト経験者を増やしていきました。
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3.計画への織り込み依頼→伴走スタイルへ
そして、リサーチャーではなく各プロジェクトの担当者がメインでユーザビリティテストを実施する、伴走スタイルに移行していきました。これによりリサーチャーのキャッチアップコストを削減できました。
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この個別案件期では以下の3つのことが分かりました。
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このようにユーザビリティテストができる人を増やしたり計画時点で織り込むことで、リソース問題の活路を見い出すことができました。
無料DL|ユーザビリティテストの基本
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数あるUXリサーチ手法の中でも最初に始めやすい「ユーザビリティテスト」の「基本的な設計・実査・分析の流れ」と「実施の進め方や注意点」を解説します。
拡大期:UT編
続いて拡大期に移りますが、このタイミングでfreee社として大きな意思決定をしました。それは「デザイナーがユーザビリティテストを実施する」ということです。そして2つのことを行いました。
1.プロジェクトごとのUT実施状況をリスト化
基本的にはユーザビリティテストを実施する方針にし、プロジェクトごとに工程を並べて「どこにUTを入れられるか」「入れる前提で組むとどうなるか」といった相談をしながら、デザイナーが実施状況をリスト化しました。
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2.UTのやり方をOJT+各種フォロー
また、ユーザビリティテストをリードして欲しい社員を対象に、実際のプロジェクトでユーザビリティテストを主体的に行えるようになるまでジョブトレーニングを行いました。
拡大期では以下の3つのことがわかりました。
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このような結果が得られ、非常に良いアプローチだったと思ってます。
【補足】UXリサーチャーの人数 × ビジネス効果
先ほどのポップインサイトさんの「UXリサーチ実態調査2020レポート」に、「UXリサーチャーの人数 × ビジネス効果」というものがあります。専任リサーチャーが多いと「ビジネス効果が小さい」と回答し、兼任リサーチャーが多いと「ビジネス効果が大きい」と回答する相関がありました。
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もちろん専任リサーチャーがかかりきりにならないと分からないリサーチもありますが、兼任で他のプロダクトマネジメントやデザインと組み合わせてリサーチを行う方がリサーチによるビジネス効果が大きくなるということは納得です。
個別案件期:調査編
ユーザビリティテストはある程度定着しましたが、「~なユーザーにこのように使ってもらおう」と企画する際の調査はどうだったのかをお話しします。ここでは以下のことを行いました。
1.個別案件でのリサーチ成果の創出
まずはリサーチをしてデザインすることで効果が出た、意思決定がうまくできたという事例を作ることをしました。
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(参考動画:事例「年末調整の情報設計」)
2.デザインリサーチチームの設立
そして、もっとリサーチできる体制を作るためにチームができました。
もともとUX部はあったのものの、人によって得意・不得意な分野があり、どのプロダクトに誰がアサインされるかによって厚いところと薄いところができてしまいました。特にfreeeの場合は会計・人事労務・プロジェクト管理と幅広く、その全てを理解するのは困難です。
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そこで、「デザインリサーチチーム」が調査分析や要求・要件定義・設計を担って、「プロダクトデザインチーム」がそこからの設計・評価・開発・品質保証を担うようにしました。そして、そのベースとしてのデザインガイドラインやコンポーネントを準備しデザインに一貫性持たせる「デザインシステムチーム」があります。この3チーム体制へとなりました。
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(参考動画:セミナー「Cybozu UX Cafe 理想のデザイン組織について語ろう」 50:35~)
3.重要案件に、新しい試みを交えたリサーチ手法で対応
こうした中で重要な案件にさらに新しい取り組みをして、調査の効果を上げました。コロナの影響でリモートでの調査を余儀なくされていますが、そこにもいち早く対応しました。
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リモート下の画面共有ならではのリサーチ方法として、以下のような方法を試しながら成果を上げています。
- デザイン案を先に作ってそれに対して重要性を評価する
- 業務フローを先にまとめておいて、その中でどこに課題があるかビジュアルで見てもらいながら指摘してもらう
【無料ダウンロード】ユーザビリティテストの基本
数あるUXリサーチ手法の中でも最初に始めやすい「ユーザビリティテスト」の「基本的な設計・実査・分析の流れ」と「実施の進め方や注意点」を解説します。
【補足】デザインシステムの活用
デザイン案を先に作ってリサーチをする場合、デザインシステムは非常に有効です。UIや情報設計のガイドラインやUIコンポーネントがあると、こうしたプロトタイプを作るのもかなりのスピードでできるようになります。
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(参考動画:「世界を変えるためのデザインシステム」)
ここでわかったことは以下の5つです。
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このようにデザインリサーチチームができたことでリサーチが捗るようになりましたが、運用業務にかなり時間を取られる、という課題が見えてきました。
拡大期:調査編
拡大期はリサーチ環境と運用の整備として次の3つのことを行いました。
1.社内会議室をリサーチ部屋として試験運用
1つ目は優先的に利用できる会議室をもらったことで、調整コストを減らすことができました。「この部屋があるから一旦社内リサーチしてみよう」という動きも生まれました。
2.リクルーティングの課題をBizと協働で解決
そしてリクルーティングの課題もありました。私たちの場合はお客様が経営者や経理の責任者・労務の責任者にあたる方なので普通の集め方では難しく、ユーザーからインタビューできる人を探し当てるのも大変でした。
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そこで、まずはユーザーアンケート等で「インタビューを受けて良い」という母集団を形成し、利用ログを見てインタビューしたい人を抽出しました。そして、コンタクトが可能かを顧客リストで確認しつつ、セールス担当にもアポを取っていいか確認しました。そしてリサーチ後には結果を共有し、訪問済みリストを更新する。
こうしたプロセスをビジネス側と協働で作り、「お客様に会いに行きたい」と思った時に、最短のプロセスでできるように整理していきました。
3.Opsメンバーが参加し運用を分担
あとは、日程調整・謝礼送付・インタビューの予定調整などを引き受けてくれる方に入ってもらいました。これによるリサーチャーの業務削減効果は大きいと感じています。リサーチチームでない人もリサーチしようと思ったらその人に頼めるため、気軽にリサーチできる状況になりました。
ここでわかったことは以下の4つです。
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このように運用業務の課題の多くは解決しましたが、リクルーティングに関してはリクルーターが必要だと感じています。
【無料ダウンロード】サービス紹介資料
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拡大期:リサーチ人口増加施策
また、リサーチをする人を増やすために、次の4つのことに取り組んでいます。
1.リサーチ成果や手法の社内共有
調査や分析をしている時に、ある程度成果が見えてきたらそれを社内SNSに載せています。それを元に何が考えられるのかも伝えるようにしています。
また、他のプロジェクトのドキュメントを読んだり雑談をしたりする中で、それに関わる参考資料があったらすぐにシェアします。どんなリサーチがあったかを伝え合う共有会なども細かく実施しています。
2.Design Research kit の取りまとめ
先ほど紹介した「UT kit」のように、「Design Research kit」を取りまとめました。今ではHCDの各サイクルに対応できる状態までドキュメントを増やしています。
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3.リサーチ相談サロンの定期開催
リサーチ相談サロンという、曜日を固定して相談できる場を定期的に作っています。最近は、データ分析をするアナリティクスチームと一緒に行っているので、定量でも定性でも調査分析したいことがあったら気軽に相談することができます。
4.新卒研修やインターンでの「前提化」
デザイナー向けの新卒研修やインターンの中で、リサーチ・情報設計・デザインまでを一気通貫で行うプログラムを実施しています。「リサーチをしてから作るのは当たり前」となるため非常に有効なアプローチだと感じています。
ここでわかったことは次の3つです。
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仕組み期
先ほどお伝えしたように兼任の方がビジネス効果は大きいので、現在はリサーチャーを増やすのではなく、プロダクトマネージャーやデザイナーがより積極的かつ合理的にリサーチできるよう取り組んでいます。
組織としての成果を最大化するには:仮説
成果を最大化するには効果の定量化と改善が必要です。計画や見積もりができるようにし、その見積もりの結果と着地がどうだったのか効果測定できるようにする。そして、それをもとにスキルアップ、リクルーティング改善等のリソースの強化・増加をしていかなければいけません。
また、リサーチ自体の効果をより大きくするために、「デザインリサーチを定着させ、リサーチ結果をモデル化して再利用し、そこから企画を出せるようになる」ことが中長期に目指しているところです。
調査パターン・効果・測定指標の定義
社内で行ってきたリサーチのパターンが下のスライドの左側に書かれています。そのパターンに対しての抽象度に数字をつけ、さらにプロダクト・モジュール・機能などの影響範囲を数値化しています。それを掛け算したものがそのリサーチで得られる効果で、それに対して必要なリソースがどれぐらいなのかをマッピングしています。
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これにより、今後行いたいリサーチを棚卸しして、どのぐらいのリソースが必要でどの程度の難易度なのか、が見えるようになるわけです。
そして効果測定を行います。こちらは次の「効果」「効率」「満足度」によって定量化できるのではないかと考えています。
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デスクリサーチのやり方を定義し共有
また、リサーチをする前に社内で有識者の意見を聞いたり、資料を集めて推定したりしないでユーザーリサーチをすると、机上で調べればわかったことをリサーチしかねません。今使える手札である程度まで推論する「デスクリサーチ」のやり方を共有しました。
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もうひとつの取り組み:インクルーシブデザイン
もう一つの取り組みの方向性として、インクルーシブデザイン(「リードユーザー」と呼ばれる、障害当事者や高齢者など現在不便益を感じている人からのインサイトによって、「新しい・誰にとっても良い製品」を考えるリサーチデザイン)も実施していきたいと考えています。
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(参考動画:「freeeが挑戦するインクルーシブデザイン UXリサーチとアクセシビリティの交点とは」)
以上、デザインリサーチチームの歩みを詳しくご教示くださった伊原さん、どうもありがとうございました♪
「リサーチを試したいけど、人材も時間も足りない…」そんな場合は、ポップインサイトの実績豊富なリサーチャーが伴走するUXリサーチャーオンデマンドにおまかせください!サービスについてのお問い合わせお待ちしております
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