チームの共感・行動を喚起するUXリサーチ活用~トライアド型チーム構築と組織力の引き出し方~|セミナーダイジェスト
2021年12月14日のウェビナーでは、金融業界でUXのキャリアを積み、インサイダー取引を監視するダッシュボードから暗号通貨のアグリゲーターまで、あらゆるデザインに携わっている、JPモルガン・チェース銀行 デザインプロダクトマネージャーのクリス・スターさんにご登壇いただきました。
今回はそのダイジェストをご紹介します。
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目次
重要なのは、UXリサーチに基づいた「ストーリーテリング」
リーダーとして目標を達成するには、ユーザーをしっかり理解した上で、ストーリーを構築することが必要です。例えば、エンジニアに機能を追加する理由を伝えるとき、上司にプロジェクトを整理して伝えるとき、クライアントにプロダクトを提案するとき、ストーリーを構築するスキルはとても重要です。
図1のストーリーテリングのフレームワークにあるように、ビジネスのステークホルダーに行動喚起を促すためには、直線的な流れではなく、反復的なプロセスの中で、ビジネスのステークホルダーと一緒にテンションを作り上げていくことが大切です。
そして、ナラティブデザイン、つまり、プロダクトにユニークなストーリーを作るだけでなく、それをペルソナとして設定したターゲットユーザーに魅力的に届ける戦略を構築することも大切です。
また、優れたストーリーは、UXリサーチから判明した事実に基づいていなければいけません。インタビュー、アンケート、競合分析、ユーザビリティテストなど、あらゆるUXリサーチは、すべてストーリー構築において重要な役割を果たしています。組織の様々なレベルの人たちを説得する場合は、UXリサーチのプロセスに実際に参加してもらうことで、ストーリーに納得感を与えることができます。
ただし、UXリサーチを実施する上では、「科学」と「科学主義」の違いを理解しておいた方がよいでしょう。「科学」とは300人をテストしてp値を確認するようなことです。一方、「科学主義」とは、6~9人にインタビューして同じような結果が得られるかを確認するようなことです。UXリサーチは、後者の視点で、得た結果をプロジェクトの意思決定に役立て、効率的にプロダクト開発を進めることが必要です。
リスク概念から考える「プロジェクトの進め方」
ここで、2つの異なるリスクプロファイルを考えてみます。
1人目:ボブ(60歳)男性。老後のために十分な蓄えがあり、リスク回避的で慎重な性格。
2人目:ジェフ(21歳)男性。貯金が少なく、失うものが少ないため、リスクに対する許容が高い性格。
2人のリターンとリスクを組み合わせた効率的フロンティア(※)は、図2のようになります。ボブの効率的フロンティアは低く、リターンもリスクも少ないです。反対に、ジェフはリターンもリスクも大きくなっていることがわかります。
※効率的フロンティア:複数の資産について、同じリターンならリスクの最も小さいもの、同じリスクならリターンの最も高いものとなるように、効率的に組み合わせたものを、X軸(横軸)にリスク、Y軸(縦軸)にリターンをとり、グラフ上に描いた曲線(企業年金連合会HPより抜粋)
このようなリスクの概念はプロジェクトを進める上で、重要なヒントを与えてくれます。プロジェクトを進めること、プロダクト開発をすることは、「リスクを管理すること」に他ならないからです。
プロジェクトでは、会社がどのくらいのリスクを負うことができるのかを考えて、プロジェクトに適切な量の労働力を決定することが大切です。大規模なプロジェクトは、慎重なボブのようなものであり、失敗が許されません。方向性をチームに伝えるには、リサーチに大きな労力を払い、問題を深く理解し、プロセスを計画的に進めなければいけません。
一方で、小規模なプロジェクトは、リスクテイカーのジェフのようなものであり、大規模なリサーチに労力を払うよりも、まず暫定でも方向性を決定し、プロジェクトを前進させることが正解かもしれません。そして、いずれのプロジェクトであっても、リスクをできる限り少なくするよう、ポートフォリオのように、UXリサーチを適切に組み合わせることが大切です。
例えば、UXリサーチも、1つの投資のようなものと考えることができます。競合分析は、コンピューターで1~2時間実施するだけで、プロジェクトの方向性について膨大な情報を得ることができて、低コスト・高リターンと言えます。そして、ユーザビリティテストは、構築からテスト・分析の実施で1週間はかかるかもしれませんが、成功の要因が明らかになる可能性が高く、高コスト・高リターンと言えるでしょう。
このように、トレードオフするものは何なのか、なぜそのアプローチがベストなのか、リスクの概念から説明することで、チームやステークホルダーの理解を得て、プロジェクトを進めることができます。
チームとの共創に必要なのは「ユーザー視点」
Christina Wadtke(現・スタンフォード大学講師)氏 は次のように話しています。
「エンドユーザーに共感するデザイナーはいるが、現場で一緒に働くメンバーに共感するデザイナーはほとんどいない」
ーChristina Wadtke on The Aurelius Podcast
デザイン・エンジニアリング・プロダクトマネジメントという「トライアド型チーム」を有効に活用するには、自分たちのチームは、他チームである「ユーザー」へサービス提供していることを理解することが、まず重要です。具体的には、定期的にパートナーであるチームにインタビューを行い、プロダクト開発のプロセスにおいて、ペインポイント(悩みや不安)がないかを確認するのも一案です。
例えば、プロジェクトが始まったばかりの頃は、全体像が把握できないことがペインポイントだったが、時間が経つにつれ、スプリントレベルで情報が把握できないことが、新たなペインポイントになることがあります。こうした変化は、インタビューなどを実施しなければ、把握することが難しいでしょう。
最後に、プロジェクト、ひいてはプロダクト開発の成功とは、時間通りに納品し、ユーザーがプロダクトに満足していることだけを表すものではありません。一緒に仕事をしたチームが、また一緒に仕事をしたいと思うことです。そのためには、「ユーザー視点」をプロジェクトに取り入れ、チームと共感し協力関係を築くことが重要なのです。
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株式会社メンバーズ ポップインサイトカンパニーのサービス資料です。UXリサーチチームが組織に伴走しサービス開発・改善のプロセスにUXリサーチの内製化をご支援します。
Q&Aセッション
---デザイナーは何人くらいですか?プロダクトデザインマネージャーとしてどのくらいの人数のチームをまとめていますか?
A:全社では数千人レベルのデザイナーがおり、多くは米国で働いています。私がまとめているデザイナーは3人です。
---プロダクトデザイナーになったきっかけは何ですか?
A:私のキャリアは、コンサルタントから始まりました。ただ、その時は、携わっていたプロジェクトを完遂するという経験ができず、ソフトウェアを実際に作成したいという思いから、コーディングのブートキャンプに参加しました。その後、ソフトウェアのデザインにも興味を持ったため、ソフトウェアを多く作成していて、デザインの仕事もできるチェース銀行に入社、内部異動でJPモルガンに移り、現在に至ります。
---インタビュー、ユーザビリティテストなど様々なタイプのUXリサーチがありますが、プロダクト開発の中でリサーチを使い分けているということはありますか?
A:初期の段階では、生成的調査、主に定性的なインタビューに重きを置いています。定量的なデータ分析は、何が起きているかを把握できますが、なぜそれが起きたのかはわかりません。しかし、インタビューでは、こうした「なぜ」に関する重要な情報を得ることができます。ファイナンス業界は、そこまでユーザーの数が膨大ではないのですが、内容が複雑なことが多いため、インタビューがとても役に立ちます。
そして、競合分析やデザイン思考のワークショップをチームで実施するなどして、情報を再び統合してデザインに落とし込んだ後、ユーザーの課題が解決しているか、機能がきちんと作動するかをユーザビリティテストで検証します。このユーザビリティテストを組織内のステークホルダーに見せることが、一番説得力のある伝え方だと思います。
---デザイナーが1人もいない企業で、デザインの大切さを浸透させたり、デザイン人材を増やしたいと思ったら、どうすればよいでしょうか?
A:考えられる方法としては、もしソフトウェアなどを作成されているのであれば、自社のプロダクトに課題がないか、ユーザビリティテストを実施して、結果を見せるというのが一番よいと思います。コンセプトを話すだけではなく、UXリサーチの結果を共有するアプローチをとれば周囲の理解が得られやすいです。
または、小さな課題を見つけてプロジェクトを立ち上げ、デザイン思考プロセス、つまり「問題領域の理解・定義→解決策の作成→解決策の検証」というプロセスを実際に進めてみることもおすすめです。
---プロジェクトを成功させるための重要な指標の1つが、「チームが仕事にどのくらい満足しているか」ということですが、どのようにチームの満足度を計測していますか?
A:定量的な形で満足度を測定はしていません。基本的にはいろいろな人と話をしたり、インタビューをして、感想を聞いてみます。ただし、ジョブ理論のフレームワークが気に入っているので、「この仕事に満足しているか」という聞き方ではなく、「この仕事をどのくらい重要と考えているか」という形で質問するように心がけています。
登壇者プロフィール
クリス・スター (Chris Stair)
JP モルガン・チェース銀行/プロダクトデザインマネージャー
金融業界でUXのキャリアを積み、インサイダー取引を監視するダッシュボードから、信用リスクモデル、暗号通貨のアグリゲーターまで、あらゆるデザインに携わる。優れたデザインプロセス構築には避けて通れない逆境や困難も楽しみ、ステークホルダーとUXリサーチを共有することに喜びを感じる。
無料DL|銀行のUX改善ポイント
「利用銀行の切り替え理由」「給与振込口座を変更した理由」などの調査結果から得た改善ノウハウと、銀行利用のデジタルとリアル双方のユーザー体験改善ポイントを解説します。