UXリサーチ実践で重視すべき状況理解と問いの立て方

【作成】2020/08/05   【更新】2020/09/17 

サービスデザインのプロセスでUXリサーチを実施することの重要性について、国内でも認知度が上がっています。しかし、「どのようにリサーチをするか」の議論だけにフォーカスを置いてはいないでしょうか。

2020年7月9日開催のオンラインセミナーでは、株式会社メルペイのUXリサーチャー、草野孔希さんがご登壇。大学院の特任講師として教鞭をとられ、さらにリサーチコンサルタントとしてもご活躍中の草野さん。

課題を解決するために大切なことは、リサーチの方法論を議論すること、そして、目的達成のために「何が必要か」を見極めて「どんな問いを立てるか」を考えることだとお話しくださいました。

本記事では、草野さんのセミナーより、「状況理解」と「問い立案」からユーザビリティテストという「手法」に到達するまでの思考例をご紹介します。

「何に困っているのか」「何が必要なのか」に立ち戻ることこそ、プロダクト改善の成功への近道です。「ユーザビリティテストやりましょう!被験者は何人集める?」…の前に少し立ち止まって、ぜひご一読ください。

リサーチの「5つのプロセス」と手段を決める前の「3つの質問」

リサーチの5つのプロセス

セミナー冒頭、草野さんはリサーチの5つのプロセス、「状況理解」「問い立案」「手順設計」「調査分析」「共有&活用」を紹介します。

リサーチの相談を受ける際、特に、リサーチに慣れていない人からの相談は、「調査をどうやって実施するか」や「こんな手法で調べたい」という「手順設計」「調査分析」プロセスの話から始まることも多いそう。

しかし、ここでいったん立ち止まり「もともと何に困っているんでしたっけ?」「リサーチにどのくらい時間をかけられるんでしたっけ?」という「状況理解」「問い立案」のプロセスに立ち戻ることが大切だと草野さんは提案します。

「問い」はUI、サービスのコンセプトや戦略など、いろいろな視点で立てることができます。求められている状況や「何がわかっていないのか」を把握することで、「どこに問いを立てるべきか」が見えてきます。

リサーチの手段を決める前の3つの質問

リサーチを組み立てるとき、草野さんは「状況理解」「問い立案」「手段設計」の順に、以下の3つを自問しています。

まずは、自分たちが「困っていること」と、その解決のために使える時間、予算、人員や機材などを把握します。そのうえで「何を明らかにしたいか」を確認します。何を明らかにすれば前進できるのかがわかると、「主に用いるとよい手段と手順」が見つかるのです。用いるとよい手段・手順がわかれば、社内の合意形成や、かかるコストの把握もスムーズに進みます。

また、このプロセスでは、「どんな手段・手順を用いらたらよいか」を合意することと同じくらい、「何はできないのか」を理解することも重要です。「何を明らかにしたいか」という問いがあるからこそ、「できないこと」を決めることもできるのです。

「状況理解」から始まる調査設計:メルペイ事例

では、「状況理解」から始まる調査設計は具体的にどう進めればよいのでしょうか。

草野さんは、メルペイの「アプリでかんたん本人確認」機能のリサーチを題材に、「状況理解」「問い立案」「手段設計」を進める際の思考例を解説してくださいました。

1.状況理解:現状の3つのポイントをチームで共有

「アプリでかんたん本人確認」機能は、以下の状況にあることを確認します。

①リリース前で操作データが取りにくい

  • リリース前の「アプリでかんたん本人確認」機能は、操作データが取りづらい状況
  • 機能の開発には工数がかかるため、気軽にリリースしてABテスト、ということも難しい

②参考にできる情報が少ない

  • 2018年11月の法改正で、オンラインで完結する本人確認の方法が、日本で認可された
  • 法改正直後のタイミングで、使いやすいデザインに関するガイドラインも前例も少ない状況からのスタート。試行錯誤しながらデザインを洗練するために利用者の反応を見る必要がある

③まずは当たり前品質を満たすことが先決である

  • 本人確認機能は、お客さまに魅力を感じてもらうための「魅力的品質」である以前に「当たり前品質」を満たすことが先決
  • ユーザビリティ観点が非常に重要である

2.問い立案:「機能のユーザビリティ課題を広く洗い出したい」

次のプロセスは、「何を明らかにしたいのか」の確認です。

ここで「明らかに」したいのは、機能に対して起こりうるユーザビリティ課題を広く洗い出すことです。

状況を鑑みて、ここで明らかにしたいことは、機能に対して起こりうるユーザビリティ課題を広く洗い出すこと、と定めます。

本人確認機能は今までにはない新しい機能なので、そもそも何が課題になるのかさえわからない状況です。そのため、複数のデザインを試して、「デザインAでは課題xが出るが、デザインBでは出ない」といったような変化の観察を重視する調査が必要と判断します。

このプロセスで「何を明らかにしたいか」の問いと同様に重要なのは、「何を対象外とするか」についての合意です。この合意が得られないまま進めると、色々調べたくなってしまってコストが膨らんだり、手順の設計が難しくなったりします。

今回の調査では、以下の2点は対象外とします。

  • 課題の深刻度を量的データとして評価すること
  • 試した複数のデザインを比較評価すること

3.手段設計:ユーザビリティテストを選択

以上、2つのプロセスを経た上で、ユーザビリティテストの実施が妥当と判断し、デジタルペーパープロトタイプを使った調査を設計します。

ユーザビリティテストという手段の妥当性の根拠は、「5人のUTで85%のユーザビリティ課題発見が可能」というニールセンの論文です。 またニールセンは、使いやすいデザインを実現するために反復デザイン(Iterative Design)の重要性についても述べています。たとえば、15人に1回テストをするのではなく、5人を対象にしたテストと改善を3回繰り返す、という考え方です。

この点は「問い立案」プロセスで確認した「試行錯誤しながらデザインを洗練したい」というニーズとマッチしており、ユーザビリティテストが妥当であると最終的に判断できます。

もちろん、ユーザビリティテストという手法ではできないこともあります。

例えば、「〇人中△人ができたからOK」という量的データとして判断することは困難です。しかし、「対象外とすること」「やらないこと」を決めるプロセスを踏んでいるため、この手法では「できない」を許容範囲とするとチームで共有したり、「できない」を前提とした対応策を事前に取り決めて準備することもできるのです。

このような「状況理解」「問い立案」のプロセスを踏んだうえで設計できる手順は以下の通りです。

  1. お客さま理解のためのインタビュー&ユーザビリティテスト:いくつかのデザインを試しながら課題を洗い出すため5名×3回実施
  2. インパクト軸×コスト軸を主とした調査結果の整理ワーク
  3. 整理ワークの結果をもとに改善案を導出

UXリサーチをサービスとしてとらえる

セミナー後半では、「状況を理解し問いを立てること」を忘れないために、意識していることをご紹介された草野さん。「UXリサーチやUXリサーチャーをサービスとしてとらえる」として、「誰がUXリサーチのお客さまか?」「お客さまにどのような価値を提供する?」など6つの問いが挙げられました。

最後に草野さんはあらためて、「手段」を決める前に「自分たちはどういう状況にいる?」「何を明らかにしたい?」「主に用いたらよい手段手順は?」という3つの質問に立ち戻ることを改めて提案し、トークを締めくくりました。

▼当日のスライドはこちら

現在草野さんは、「リサーチャーがリサーチしながらリサーチ本を書きたい」との思いで書籍を執筆中です。執筆のプロセスは、音声配信アプリ「stand.fm」にて配信中です。

ご興味ある方はぜひ「Meta UXR channel」の放送をチェックしてみてください。

▶当日のQ&Aセッションはこちら

「状況理解」「問い立案」「手順設計」に悩んだら

UXに取り組みたい、促進したいと考え始めた際、「とにかくまずはユーザに聞いてみたい!」という気持ちにかられることは多いはず。ユーザ視点に目を向けることはもちろん、UX向上の素晴らしい第一歩です。

しかしながら、草野さんがご提案されたように、手順の設計や調査そのものに加え、自社のリソースや時間の制限を含めた「状況理解」と、「何が明らかになったらプロダクト改善が進むのか」を明確にしたうえでの「問い立案」のプロセスは非常に重要です。

弊社セミナー「UXリサーチ初学者の壁とは」でも話題にあがったように、「何を」「どう」問うかを話し合うプロセスをおろそかにすると、「ユーザーの話をいろいろ聞けたけど、この結果をどうすればいいんだっけ?」という壁にぶつかり、プロダクト改善が遠回りになることさえ起こりえます。

リサーチ手法だけでなく、「何を明らかにすべきか」「どう問いをたてるか」を集中的にトレーニングしたい場合には、専門家によるOJTでUXリサーチを軌道に乗せてみませんか。弊社が提供するOJTプランでは、貴社の実案件を題材にしたプログラムのご要望にも対応しています。

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