そのビジネス/アイデアは試さないと価値がない 新規事業の価値検証
新しいビジネスを思いついたがどう作っていいのかわからない、新しいアイデアを提案したけれど「誰が使うんだ?」と否認される…世の中にはそんな理由で埋もれてしまうビジネス/アイデアがたくさんあります。
アイデアは頭の中にあるだけでは価値がなく、試して初めて価値がわかるものです。そして試した結果の学びこそが最大の学びとなります。
本記事は、ビジネスアイデアをどのように検証していくのか?を具体的な事例や関連書籍からの引用を交えてお伝えします。
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そのアイデアは試さないと価値がない
株式会社ポップインサイトでCX/UXストラテジストとして活動している岡と申します。
本日は皆様に、サービスを作る・アイデアを実行する・アイデアを検証するためのヒントをお伝えできればと思います。
事業の打率と失敗パターン
新規事業の成功率
こちらは「中小企業白書2017」の資料で、「新規事業に対して成功した・成功していない」というアンケートに対して、約3割が「成功した」と回答されています。もう少し細かく分けていくと、「完全に成功した」という回答が約13%、「どちらかといえば成功した」が約38%となっています。
このデータを見ると、ユニクロの柳井さんの本にもある「新規事業は1勝9敗」というのは頷ける部分があり、個人的には「打席に立たないと成功する事業は生まれない」と思っています。
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そもそも事業の失敗パターン
事業が失敗するパターンは何かというと、「Google×スタンフォード NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術」という本にまとめられています。
事業の失敗には「市場参入の失敗」「機能の失敗」「コンセプトの失敗」の3つがあり、そのほとんどが「コンセプトの失敗」であると書かれています。つまり「買いたい・使いたい」と思われていない、本当に欲しがられるアイデアになっていないのです。
顧客の時代
こちらは「サービスデザインの時代:顧客価値に基づくこれからの事業開発アプローチ」からの引用ですが、1900年以降「製造」「流通」「情報」「顧客」と時代は移り変わってきました。
特に現在の「顧客の時代」では「モノからコト」になったことで、私たちのニーズは非常に多様化しています。さらにコロナウイルスの影響で、ユーザがどのようなシチュエーションにいるのか・どのような状態にあるのかが本当に分からなくなった中でサービスを作らなければならない、大変複雑な時代にいます。
ガラケーvsスマートフォン
このようにニーズが多様化している中で、さらに「人は体験していないことを評価するのは難しい」という問題があります。その典型的な例が「ガラケーvsスマートフォン」です。
2008年にiPhoneが登場した当時は皆、「ガラケーで大丈夫。スマートフォンはPCでもできることをこんなに小さい画面でやっている。それならPCでやったほうがいい。」と言っていたのです。しかし蓋を開けてみると、現在はほとんどの方がスマートフォンを持っていて、ガラケーはほぼ市場からなくなってきている。
やはりよく分からないもの・体験していないものは過小評価してしまうし、「自分が今まで使ってきたもので大丈夫」という現状維持の考えがあるのです。したがって、これから新規事業のアイデアやビジネスを検証する上では、「体験」が非常に重要になると思っています。
想像の世界の4つの落とし穴
私たちは「こんなものがあったら使いますか?」と想像の世界で検証しがちなのですが、それに対する「使うと思います」という答えは真実なのでしょうか?
ここでは先ほどの「Google×スタンフォード NO FLOP! 失敗できない人の失敗しない技術」に書かれている、「想像の世界の4つの落とし穴」をご紹介します。
①翻訳の罠
アイデアは受け取る人の頭で勝手な解釈に切り替わります。例えば配車サービスのUberを「車を持っている人たちがすぐに来てくれて、あなたの目的地まで届けてくれるサービス」と説明されても、「知らない人の車に乗るのは怖い」と感じる人も多いはずです。
②予想の難しさ
やはり体験していないことを評価するのは難しく、体験していないからこそ過小評価してしまうし、「パソコンがあるからiPhoneはいらない」と答えてしまうわけです。
③身銭を切るか
これは本日の主題でもあります。新しいアイデアを説明している時には、「良いですね。使うと思います。」という言葉をよくもらいます。しかし「実際に身銭を切ってくれるか?」「お金を払ってくれるか?」「時間を使ってくれるか?」と聞くと、「ちょっとそれは…」と躊躇されてしまうのです。
④確証バイアス・サンクコスト
人は自分の欲しい情報のみを集めてしまいます。そして自分が良いと思うアイデアや時間をかけたアイデアがあると、それに囚われて好意的な意見に惑わされてしまうのです。
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ビジネス アイデアをどう試すのか?
ここからは「ビジネスやアイデアを試していこう」という話に移ります。
新規事業の損失
やはり時間やコストをかけてしまうとそのビジネスやアイデアを正当化したくなってしまいます。そこで私が重要だと考えているのは、早く、コストを抑えて検証するということです。そのためには、検証するためのサービスを作らないことが重要になってきます。
中小企業白書2017のデータに戻りますが、こちらは「新規事業に対して損失があったか否か」を尋ねたアンケートです。
ここでは「うまくいかなかった新規事業がある」と回答したのは約50%で、そのうち約20%の人が「ほとんど損失がなかった」と回答しています。さらに内訳を見ると右側のグラフのようになっており、多くのケースにおいて損失を避けることができれば新規事業は試しやすいと思います。
したがって、新規事業を検証する際にはできるだけ小さく検証する、大きい機能を作ろうとするのではなく小さくやっていくことが重要です。
LEAN STARTUP
そこで参考になるのが「LEAN STARTUP」という方法論です。こちらは無駄を抑えて学習していく方法で、右図のようにアイデアが生まれたら小さくビルドを作る。それをプロダクトとしてリリースし、計測して学びを得る。このサイクルを小さく回すことで、無駄を省きながら事業を作る方法です。
この方法論を実践する中でイノベーションだと感じたのは、「売れたものを作る」という考え方です。実際にサービスを作ってから売るのではなく、まずは目の前にある課題をもとにサービスを売ってみて、それを検証して価値があれば作る。一般的には「売れるものを作れ」と言われますが、そうではなくこのような考え方をしてみてください。
可能な限り作らないサービス設計
「小さく早く学習する」ことを実現するために参考になるのがMVP(Minimum Viable Product)という考え方です。
MVP(Minimum Viable Product)とは
簡単に定義すると、MVPとは「製品を提供する上で必要最小限の機能のみを持つ、最もシンプルな製品」です。しかし一般的には、「顧客価値があり利益を生み出せる最小限のもの」と考えられています。
例えば「移動する」という目的に対してファンクション(タイヤ)を作ってしまうのはよくある失敗例です。タイヤでは移動することができません。一方でMVPの最初のフェーズでは、移動したいというニーズに対して「移動ができるもの」(スケートボード)を作るのです。
スケートボードは移動ができるものの疲れるしバランス感覚も必要なため、ハンドルをつけて自転車やバイクにしていきます。そうした1つのユーザニーズを叶える一番最小限のものをMVPといいます。
色々なMVPのパターンを紹介していきます。
①Zappos(オズの魔法使い)
こちらは「ネットショッピングで靴が売れるか」を検証した例です。まずは地元の靴屋で写真を撮らせてもらい、それをLP(ランディングページ)に載せました。そして実際に靴が売れた時に何をしたかというと、その靴屋まで走って買いに行ったのです。0.5センチ単位の靴でさえeコマースで売れることが検証でき、その後サイトを立ち上げました。
これは検証方法の1つで「オズの魔法使い」という言い方をします。ユーザに価値提供するためのシステムは作らずに裏側の仕組みを全て人力で行うことで、作らずに売れるかどうか・それに価値があるかどうかを検証することができます。
②Dropbox(スモークテスト)
続いてがDropbox(ファイルをクラウド上に送るストレージサービス)の事例です。彼らはこのサービスを作る際、プロダクトの開発をせずにまずデモ動画をYouTubeに公開しました。
「ファイルがクラウドに置かれてそれが安全に保たれる」というコンセプトを動画で説明し、事前登録をお願いしたのです。その結果、ユーザ数は5000人から75,000人へと大幅に増加し、ニーズがあると確信できたわけです。
最近だと、LPだけを作って事前に登録を募り、その人たちにインタビューしながらアイデアをブラッシュアップしていく、というスモークテストのような方法もあります。
③Food on the table(コンシェルジュ)
最後に紹介するのが、Food on the table(近くのスーパーの特売データとAIを使って自動的に1週間分のレシピ提案するサービス)のコンシェルジュ型検証方法です。
このサービスに価値があるかを検証する際に何をしたかというと、実際にコンシェルジュとして人を派遣し1週間分のレシピを提案したのです。そして、サービス使用料を払った上で満足しているかどうかを検証し、直接フィードバックを得ながら学習していきました。
多くのケースにおいて、サンプル数が少なければAIを使うより人間が行った方が良いものを提供できます。まずは自分自身が裏のシステムとなって価値を検証し、それからAIに投資したりレコメンデーションのシステムを作ったりした、という事例です。
良いMVPって?
次はMVPの設計や提供の話をします。下の図をご覧ください。先ほどお話したように機能のみを揃えていくのはあまり良くないMVPで、たった1つの例・ストーリーだけを提供してくれるのが良いMVPだと言われています。
例えばCASH(自分が持っているモノの写真を撮るとすぐに査定されて現金化できるサービス)はメルカリやヤフオクなどの競合がいる中、「早く売れる」というたった1つのストーリーでニーズがあると判明し、グロースしました。
まずは1つのストーリーに対してMVPを作っていくことが重要です。
実際のMVPの構成
実際のMVPの構成について、私が「IT職会社員向けメンタリングサービス」を事業検証した例をもとにご説明します。この時はスモークテストを利用し、1枚のLPを作って検証しました。
まずLPを作るためにSTUDIO(コーディングなしでLPを作れるサービス)を使い、ユーザとのコミュニケーションはLINEの公式アカウントを介して行いました。決済はPayPalを使い、実際のメンタリングやサポートはZoomを使用しました。
基本的にはコードを1つも書いていませんが、事業やアイデアを検証する上では十分な構成になっています。
MVP作りに役立つサービス
実際にMVPを作る際に役立つサービスをこちらにまとめてみました。こういったサービスがあるためMVPは簡単に作ることができます。
しかし「本当に作るべきは何なのか」をしっかり考えましょう。MVPを意識し、「どうやって作るのか」「最小構成は何なのか」「ユーザに価値を伝える上で本当に必要なものは何なのか」を問うて作ってください。
アイデアを評価しよう
最後にMVP、そしてビジネス・アイデアを検証するというフェーズに入ります。
どう検証するか?
このフェーズでは、「顧客・課題・ソリューション」の3つの軸がとても重要になります。最初のフェーズは「顧客がしっかり課題を持っているか」が大事でした。
そして次が、「課題に対してソリューションが適切であるか」ということです。
サービスのアイデアを事前検証できる形まで作った後、重要なことが1つだけあります。それが「最初に熱狂するユーザを探す」ということです。
はじめにお伝えしたように、人は体験していないものに対して使うか・使わないかの判断ができず、それに対していくら払っていいのかもよく分かりません。したがって、まずはそのソリューションビジネスに対して熱狂するユーザを、たった1人でも2人でもいいので探してきて、実際に検証することが重要です。
意見ではなく意思決定を促そう
ソリューションを提供して検証する際、「いくらなら使いますか?」と聞いてはいけません。なぜならばユーザは体験したことのないものに価格をつけることができないからです。
そこで重要になるのが「実際に身銭を切ってもらう」ということで、「◯円なのですが利用しませんか?」と実際に利用することを想起してもらいます。つまり、意見ではなくて意思決定を促すのです。
「使いませんか?」「登録しませんか?」と提案をされた結果、「時間・お金・情報」を払ってくれる人がどれくらいいるのか、払ってくれるのはどんな人なのかを検証することがポイントです。
身銭のレベル
そのレベル感を表すと下のようになります。
Lv.-1 〇〇になったら使うと思います
これは実際よく言われ、作っている側も納得しまうのですが全く信用なりません。
Lv.0 無料なら使うと思います
これもよくあります。しかし、このように言う人は「大して課題がない」ことが多く、基本的にはあまり使ってくれません。
Lv.1 メアドや電話番号で事前登録、コミュニティーへの本名での参加
この場合は少しだけニーズがあります。特に本名を晒すのは嫌なものです。
Lv.2 サービスの30分程度のカウンセリングに申し込む
これは明確に時間を費やしてくれています。課題があるからこそ30分という時間を割いてでも詳しく知りたいと思う。このあたりが良いレベルになります。
Lv.3 有料モニターになる/有料で事前登録をする
ソリューションを実際に触ってみたい・試してみたい・検証してみたいという思いが現れてきます。このあたりのレベルが出てくるとかなり良い指標になります。
Lv.4 注文する
そして最後のLv.4が実際に売る段階です。セールスマンになった気持ちで自分のプロダクトを触ってもらい売る。そしてそこからのフィードバックが学びになるのです。
この身銭のレベルを押さえて事業の検証をすると良いと思います。
大事な発見
最初の熱狂的な顧客を見つけたら、それがどんな人なのかを検証していきましょう。「最初の熱狂的な顧客はどんな課題を抱えているのか」「どんな解決策に対してお金を払ってくれるのか」、その背景にある情報をインタビューやそれ以外の方法でしっかりと明らかにしていきます。
そうすることで同じような課題を持っている人をアンケート調査で定量的に知ることができます。まずは「絶対この人だったら売れる、売れた」という状況を作って、そこから同じ課題を抱えている人を探す。それをマーケティングの施策に落としこんだり、エビデンスとして会社に事業の正当性を説明したりできます。
デスクの上に答えはない 現場に出て熱狂しよう
大事なのは「デスク上ではなく、現場に出て熱狂する」ということです。外に出てユーザにセールスをし、それを間近に感じながら今までの自分のバイアス・思い込みを打ち砕くことが重要だと思います。
まとめ
最後に本日のポイントを6つにまとめました。
- アイデアは小さく速く検証する
- 課題がないところにソリューションを作るのは最も無駄
- 課題特定→ソリューション特定
- MVPは引き算。1つのユーザストーリーを実現
- 身銭を切らないものはただの意見
- 最初に見つけるのは熱狂的な顧客
ポップインサイトでは新規事業やビジネスのアイデアに対して検証するサービスを行っています!机上の空論ではなく、実際の顧客に対してMVP・ソリューションを提供しながら学んでいく方法を大事にしているアジャイルUXリサーチへのお問い合わせ、お待ちしております。
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