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ユーザー視点を浸透させる「ワークショップ活用術」 社内のメンバーの目線はユーザーに向いていますか?

「UXリサーチを社内に浸透させたいけどうまくいかない…」

立場が違う社内のメンバーにUXリサーチを広めていくことに、高いハードルを感じている方も多いのではないでしょうか。

様々な立場に置かれているメンバーたちの目線をユーザーに合わせ、チームでユーザーを見ていく土壌を作ることは、不確実性の高まる社会の中でプロダクトを作り続けるためには欠かせません。

この記事では、その土壌作りの有効な手段の一つである「ワークショップ」について、UXリサーチ観点での活用術をご紹介します。

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※関連記事:実践型!ユーザー理解から始める UX改善ワークショップ

ユーザー視点の重要性とは

そもそも、ユーザー視点はなぜ必要なのでしょうか。それは現代の社会情勢や価値観の多様化が影響しています。

例えば、冷蔵庫。

ユーザー視点を浸透させる「ワークショップ活用術」

高度経済成長期の「三種の神器」の一つであった当時の冷蔵庫は「物を冷やす」というシンプルな機能しかありませんでした。ですが、その機能だけでも多くのユーザーに選ばれ、喜んで買ってもらえていました。

しかし、現代は個人の価値観は非常に多様化しており、その分多様なニーズを持ったユーザーが存在しています。冷蔵庫を例にとると、自動で氷をつくるといった機能から始まり、いまはスマホと連動して食材の賞味期限の管理ができたり、在庫管理ができたり…様々な機能が付随するようになってきました。

ただ、「どんどん高機能・多機能にすれば昔と同じように売れ続けるのか」というと、そうではありません。いくらたくさんの機能があったとしても、それがユーザーのニーズに応えていなければ、買ってもらえない。「作れば売れる時代」からユーザーが求める「価値」を提供できてはじめて売れる時代へと変わっているのです。

どういう価値やニーズをユーザーは抱えているのか、自分たちのプロダクトがユーザーの価値観やニーズに対してどういった存在なのかをきちんと理解すること。すなわち、「ユーザー視点に立ってプロダクトをつくること」が非常に大事になっています。

社内のメンバーの目線はユーザーに向いていますか?

「ユーザー視点が大事」だということは、言葉では理解できても、それを日々の思考や行動に反映させるのはなかなか大変なことです。

社長さんは「ビジョンにあっているのか」。営業さんは「売り上げになるのか」。エンジニアさんは「本当に実装できるのか」など、メンバーの実際の頭の中で考えていることはバラバラ…という可能性もあります。
皆の視点をきちんと「ユーザーに価値を届ける」にそろえることで、ユーザーにとって「よりよいもの」が「早く」提供できるようになります。

チームの視点をそろえるワークショップ

「チームの目線をユーザーにそろえるのは分かったけど、そのためにはどうしたらいいの?」というときの手段として使えるのが、ワークショップです。

ここからはユーザー視点を得るためのワークショップの内容をご紹介します。

みんなでユーザーの声を分析してみる

ワークショップで主にやることは、みんなで「ユーザーの声を分析してみる」ことです。
実際にユーザーにインタビューしたときの音源を素材にしてワークショップを実施すると、ユーザーの生の声に触れることができるのでおすすめです。

社内のみんなでワークショップをやることで、大きく3つのことが期待できます。

  1. メンバーが実際に手を動かして分析を行うので、UXリサーチのプロセスを体験しつつ、同時にリサーチの重要性を実感してもらえる機会となります。
  2. 誰かに調べてもらった結果を受け取るだけでなく、自分たちで分析のプロセスから関わることで、その後のアイディエーションやコンセプト設計にもスムーズに移行することができます。
  3. メンバーそれぞれの主観に基づいて分析を行うことで「こういう解釈の仕方もあるんだ」と一つの声について多面的に触れることができます。

こうした経験によって、「UXリサーチっておもしろい」と思ってもらえる人が1人でも増えたり、UXリサーチを取り入れた開発フローの構築や組織作りにつながるとベストです。

ワークショップのスケジュール例を掲載しています。
1名分のインタビュー結果をお試しで分析してみるというボリューム感の場合、大体2時間×2日くらいで実施するのが良いかと思います。

趣旨説明やインタビューの概要説明、実際に1人分のインタビュー音源の一部を聞いて分析の途中まで行うところが1日目。分析の続きをしてまとめて、グループごとにまとめた内容をシェアするというところが2日目といったスケジュール感です。

ユーザーの声を「分析」するって具体的にどんなことをするのか?という点について気になっている方も多いと思います。

UXリサーチの文脈でのワークショップや勉強会でよく用いられる分析手法としては

・上位下位関係分析
・KA法
・KJ法
などがあげられます。

ここではその中の一つである「上位下位関係分析」について簡単にご説明します。

上位下位関係分析では、インタビューから抽出されたユーザーのニーズを

・Beニーズ
・Doニーズ
・Haveニーズ
の3段階に分類していきます。

おおまかな順序としては以下の3ステップです。

  1. ユーザー自身が「~したい」と言っているニーズを図の一番下にあたるHaveニーズとして付箋に書き出す
  2. Haveニーズを持っているのはどんなことをしたいからなのかというDoニーズを書き出す
  3. Doニーズを満たしたいのはどういう状態でありたいからなのかというBeニーズを書き出す

このステップを経ることで、ユーザーが持っている本質的なニーズに近づくことができます。

▶関連記事: 上位下位関係分析を使った新規事業事例「チームで共通認識を持てた|日本特殊陶業

こうした分析を実際に体験いただくことで、ユーザーがすでに意識している顕在ニーズだけを満たしても、ユーザーの期待値を超えるプロダクトを作るのはなかなか難しいというところに気づいていただけると思います。

「実際にユーザーの声に触れて、そこからユーザーの本質的なニーズは何なのかというところを明らかにしていくこと」この重要性をワークショップを通じて体感していただくことで、チームの皆さんの視点がユーザーにそろっていくきっかけになればと思っています。

実際にワークショップにご参加いただいた方からは

・その視点はなかった!という気づきを得られた
・プロダクト制作の方向性を考える軸になると感じた
・チームや横断組織の効率的な意識共有に役立ちそう
といったコメントをいただきました。

一方で

・n=1だったので活かしにくい
といったコメントも出てきていました。

これは「分析をしたのが一人分のインタビューだったので現場では活用しづらい」という内容です。こちらについてはどのように捉えるのが良いのでしょうか。

「一人だけの声を鵜呑みにしていいの?」という声は、ワークショップに限らず定性調査をやる場面ではたびたび出てきます。

その言葉の裏には

・ 一人分の意見じゃ参考にならない
・せっかくやるんだったらしっかりやりたい
・アジャイルに進めたい思いはあるけどどうも不安…
など、様々な思いがあってのものだと感じています。

ただ、UXリサーチは人々を集団で捉えることよりも、異なる生活様式や考え方を持っている一人ひとりの人間に注目します。

一人ひとりにしっかりとインタビューし、その人が普段何を考え、どのように行動しているのか、何に困っているのかを知ることで、定量調査ではわからないニーズを得ることができますし、新たなインサイトを見つける契機にもなります。

困っているユーザーがいるのであれば、たとえそれが一人であったとしても、きちんと共感し、学ぶ。この姿勢がとても大切なのです。

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まとめ:まずは一人からインタビューしてみませんか?

いかがでしたか。

UXリサーチと聞くと実施までにたくさんのハードルがあると思われる方も多いかもしれませんが、ご家族やご友人にサービスを使った感想を聞いてみたり、となりの部署の方にプロトタイプを触ってもらったりするのも立派なUXリサーチです。

まずは一人にさくっと話を聞いてみて、ユーザーの視点がどんなものなのかを感じてみていただければと思います。

こうした小さなところからユーザ視点に触れていき、その結果をワークショップなどの場でみんなで共有して、眺めて、話す。

こういったプロセスを経ることで、メンバー皆さんの目線がユーザーに向かっていくことを願っています。

執筆者について

2017年にポップインサイトに入社。UXリサーチャーとして、通信会社アプリ、セキュリティソフト、教育などさまざまな業界のUXリサーチに携わる。UX体制構築のご支援ではデジタルマーケティング企業様、レシピサイト運営企業様などを担当し、ユーザーテスト、インタビューの設計・実査から、アンケート作成・分析などUXリサーチに関する業務全般を担当。

※ページ内で利用している冷蔵庫のイラストはいらすとやより引用

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