ポップインサイトのUXリサーチャーに聞いた、調査目的を把握する秘訣は?インハウスでないUXリサーチャーの工夫
ポップインサイトでUXリサーチャーとして働き始め、約半年が経ちます。野上と申します。
友人は一つの企業内でUXリサーチをしており、会社全体の方針や目標、プロジェクトの目的や状況が比較的見えやすく、それを背景とした上で調査目的(何のために調査を行うのか)を設定しています。
ポップインサイトのUXリサーチャーのように、「クライアント企業様に対して外部から関わる場合、インハウスのUXリサーチャーのように調査目的や背景を把握するのは、難しいのでは?」という疑問が浮かびました。
調査を成功させる上で、調査目的の設定はとても重要ですが、ポップインサイトの先輩リサーチャーたちは、調査目的や背景を把握する上で難しさに直面しながらも、何かしらの方法で対応をしているはずです。
そこで、
・外部UXリサーチャーが調査目的や背景を把握する上で直面する難しさ
・難しさに直面した際の対応策や工夫
の2点について、実際はどうなのか、5名の先輩リサーチャーの方々に話を聞いてみました。このブログでは、話を聞いてみた結果と、そこから得た私個人の学び・気づきをご紹介します。
目次
外部から調査目的を把握する上での難しさ一覧
話を聞いてみた結果、大きく8つの「難しさ」が挙げられました。
- 「初めまして」時の〝最善〟の調査設計が難しい
- 情報を(すぐに)いただけない場合がある
- 言葉の定義が異なる場合がある
- 依頼方法が統一されていない場合がある
- ご担当者様の理解度がわからないことがある
- 経験のない事業(フェーズ)が難しい
- UXリサーチャーの〝役割〟の認識合わせが難しい
- リサーチ結果がどう活きたのかわからない場合がある
どれも非常に興味深いポイントなのですが、個人的に最も印象的だった「初回の”最善”の調査設計が難しい」「ご担当者様の理解度がわからない」「UXリサーチャーの”役割”の認識合わせ」について、詳しくお伝えします。
初回の”最善”の調査設計が難しい
クライアント企業様の社内状況がわからないので、一番最初が一番難しいですね。「調査したい」という依頼があっても、社内でどのような状況にあるのかわからない点が難しいです。
外部のUXリサーチャーは、新しいクライアント企業様やご担当者様に対して、調査を提供する機会が多くあります。基本的には、初回の顔合わせとなる「キックオフMTG」にて、クライアントに対し調査依頼の背景や目的をヒアリングします。
しかし、お互いに「初めまして」なので、この時点ではご担当者様、部署、案件、会社の状況はまだ全く見えていません。リサーチャーAさんの話では、そのような状態で「調査の目的はなんですか?」と質問をしても、クライアントの返答が調査設計をする上でベストな答えかどうかを判断するのが非常に難しいとのことでした。
そこで、Aさんは、初回調査では調査目的・背景について根掘り葉掘り質問をするのではなく、最低限必要な情報を得られた段階で、「相互理解のためのコミュニケーションをとる機会」として、「ひとまず調査をやってみる」ようにしているそうです。そして、調査を進める中で相手の状況や背景に対し理解を深め、次の調査でより理想的な調査設計に繋げられるよう意識しているとのことでした。
UXリサーチについての参考書やセミナーでは「調査目的」設定の重要性についてよく触れられる印象があり、私は、リサーチャーの方は調査目的をがっちり固めた上で調査を行うイメージを持っていました。が、実際の現場では、それは現実的でない場合もあること、そして調査を行いながら目的も設計していくという手段があるということを発見しました。
ご担当者様の理解度がわからない
どんな調査をしたらどんな結果が出て、自分の普段の業務にどう紐づいていくのか、ご担当者様にイメージできていることが少ない場合に難しさを感じます。
リサーチャーBさんのお話では、調査方針に対し同意が取れていたにもかかわらず、調査結果が出始めると、クライアント企業様から「これは自分が期待していた結果ではない」との声が出てきてしまったというエピソードがありました。
どうやら、クライアント企業様は調査方針すり合わせ時点では調査プロセス(何の調査をしたら、どんな結果が出て、次にどう繋がるのか)をイメージしきれておらず、提案された調査方針がご自身の要求に見合うのかどうかを判断ができなかった様子でした。リサーチャーの方も、クライアントの理解状況について把握していなかっため、調査を進めて初めて「ズレ」が発覚したのでした。
また、クライアント企業のご担当者様からすると、UXリサーチやデザインプロセス等、普段馴染みのないコンセプトを用いて社内関係者に説明をするのは非常にハードルが高く、社内の意思決定者全員に対し、調査方針の詳細が伝わり切らなかったことも原因でした。
同様の事態を避けるため、Bさんを含む数名のリサーチャーの方は、クライアントとの打ち合わせ時に、下記の「HCDプロセス図」を見せ、今回の調査がどのプロセスに該当し、次へどう繋がるのか、全体の流れや繋がりをイメージできるよう進めているそうです。
また、定例MTGにはクライアント企業様の関係者に可能な限り全員参加してもらい、窓口担当の方が、自社内で説明する手間を省き、関係者全員が同じ目線を持ちやすいよう工夫しているとのことです。
私たちリサーチャーからクライアント企業様の社内事情が見えづらいように、クライアント企業様にとっても、リサーチャーが何をしようとしているのか理解するのは難しいことです。スムーズに調査を行うためには、理解してもらうための工夫が必要であることを学びました。
UXリサーチャーの”役割”の認識合わせ
「自分たちが期待したデータをそのまま提供してくる」と思われている場合や、ビジネスを成功させるアドバイスをくれるコンサルタントのような役割だと思われる場合があります。
リサーチャーCさんは、クライアント企業様からUXリサーチャーができることをきちんと認識してもらえるよう、普段の会話の中で、「自分にできること・できないこと」が伝わるよう、意識しているとのことでした。
具体的には「自分たちの期待したものを、そのまま提供してくれる」、もしくは「ビジネスを成功に導くためのアドバイスをくれるコンサルタント」だと混同されないよう、「自分はファクトを提供し、一緒に分析し考えることはできますよ」というスタンスが伝わるようにしているとのことです。
この話を聞いて、UXリサーチに馴染みがない企業様にとって、「UXリサーチャーに何を期待し、依頼すれば良いのかイメージが難しい場合もある」こと、また、そうした場合にはリサーチャー側から自身に何ができるのか発信することによって、クライアントがリサーチャーの活用方法をイメージできるよう促せることを学びました。
まとめ
ここまで、外部UXリサーチャーが調査目的・背景を把握する上で直面する難しさと対応策について、「初回の”最善”の調査設計が難しい」「クライアントの理解度がわからない」「UXリサーチャーの”役割”の認識合わせ」の3点に焦点をあて、説明しました。
私にとって、調査内容以前に、リサーチャーとしてクライアントを理解すること、クライアントから理解されることの難しさがあることは意外な発見でした。
皆さんは、この記事を読んで、何か発見はありましたでしょうか?UXリサーチに社内外から携わる方、またUXリサーチを依頼する方、いろんな立場の方がいらっしゃると思いますが、この記事を通してご自身の業務を振り返り、新たな気付きや学びを得ていただけたなら嬉しいです。
【参考】UXリサーチ共有会動画
本記事のベースとなっている動画がありますのでご興味があればご覧くださいね。
【UXリサーチ共有会3月】ゲーム実況でユーザーテスト?/コンセプトモデル実現のためのUXリサーチ/外部リサーチャーが調査背景を把握するためにしていること
執筆者について
野上
広告・IT業界にて営業を経験後、半年前にポップインサイトへ入社。大手化粧品ブランド、ネット企業、飲料メーカーのサイト改善やプロトタイプ調査等、UXリサーチの業務全般を担当。趣味はラジオ視聴やイラスト。
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