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UXリサーチの“民主化” 顧客起点で学び続ける組織づくり Amazon UXヘッドが解説【セミナーダイジェスト】

2022年10月27日のウェビナーでは、SAP Sr. User Researcher、JPモルガンチェース UXディレクターの経験を経て、現在AmazonでUXストラテジストとUXリサーチャーのチームを率いており、UXの専門家として20年近いキャリアを持っている、パラヴィ・クティさんにご登壇いただきました。

今回は、そのダイジェストをご紹介します。

学びの文化を創造し、UXリサーチの“民主化” をする

ここ数年、UXリサーチというのは新しい形での学びとして注目を集めています。しかし、UXリサーチを”継続した学び”として、組織全体に浸透させること、つまり「リサーチの民主化」はなぜ必要なのでしょうか?そして、どのようなメリットがあるのでしょうか?

パラヴィさんは、組織全体がユーザーを理解することで、ビジョンとビジネス戦略の課題解決をするためだと明言します。

UXリサーチは近年注目を集めており、組織の中に小さい形でのUXリサーチチームができています。しかし、UXリサーチのことを知らない人たちに広めることは難しく、なかなか会社全体に浸透しない現状があります。小さなUXリサーチチームができることは、特定のプロダクトや機能などのプロダクト起点での課題解決にとどまり、根幹であるビジョンとビジネス戦略の課題解決をすることができません。

つまり、リサーチの民主化(組織全体がユーザーのことを理解し、誰のためにプロダクトを作っているのか理解すること)は、包括的な課題解決を可能にします。また、リサーチの民主化によって、これまで力を発揮しきれていなかったリサーチチームが、より戦略的な観点からビジネスをしっかりと支えることができるのです。

UXリサーチの民主化の進め方

では、具体的にどうやってUXリサーチの民主化をしていけばよいでしょうか。

パラヴィさんは、下記の3つを実践することが重要だと考えています。

  1. リサーチおよびリサーチャーの役割を“再”定義する
  2. 組織全体での学びを可能とする運用方法を確立する
  3. 学びを誰にとっても見えるもの、理解できるもの、実行できるものにする

具体的な進め方を説明します。

1. リサーチおよびリサーチャーの役割を“再”定義する

UXリサーチの民主化をする中でまず、リサーチ及びリサーチャーがどういった役割の中で、どのようなことを果たすかを再定義する必要があります。そして、10年後までにどうあるべきか、ステークホルダーやユーザー全体とどう関わっていくのか、なぜそれをするのか、具体的に狙いを定めます。

なぜ、再定義する必要があるか説明します。UXリサーチが与える影響範囲はデザイン、ビジネス、エンジニアリングと非常に多岐にわたります。しかし、残念ながら現状はリサーチおよびリサーチャーの役割というのはなかなかチームの他の人には理解されていません。それにも関わらず、リサーチおよびそのリサーチャーに対しての期待は高く、非常に短い締め切りでの作業を余儀なくされています。これをアメリカでは、「peanut buttering 」と呼んでいます。ピーナッツバターを塗るように、広範囲にわたってリソースを均等に分配し、個々を短時間で作業することを指します。この現状を変えるために、UXリサーチおよびUXリサーチャーの役割を明確に定義して、包括的に携われるようにする必要があります。

では、UXリサーチおよびUXリサーチャーの本当の役割は何でしょうか?

リサーチおよびリサーチャーはまず、行動パターンや動機、目標、満たされていないニーズを発見する作業を行います。次に仮説・コンセプトを立て、検証することを通じて、人々の生活をより良くする方法を学びます。最後にプロダクト・サービスを評価し、最も役に立ち、使い勝手がよく、 喜ばれるものにします。このような流れで、初期のインサイドアイディア出しからデザインを実行するところまでに携われることがリサーチャーの役割です。

この役割の中で、どのように民主化をするのでしょうか?

まず、リサーチの流れを「定義」と「デリバリー」の2つの段階に分けます。

この2つの中で、リサーチャーが専門的にやる必要のあることと、民主化して組織内に共有することでリサーチャーが関わらなくてもデザイナーやエンジニアができることを識別します。「人間の行動がどういったとこから来てるのか」、「どういう動機やモチベーションがあるのか」、「そのプロダクトを使おうと思ってもらうためにはどのようにしたらいいのか」といった戦略的な要素はUXリサーチャーの専門分野です。

一方で、「デザインプロセスの中で学びをどう活かすか」、「必要であるならば組織の変化、デザインの変更をおこなう」といったことはデザイナーでもできることです。このように、リサーチャーがすべきことと他の人が代わりにできることを明確にすることが重要です。

また、定義付けに役立つものとして、図のようなロードマップがあります。これを活用して、民主化できることと、リサーチャーが専門的にプロダクト開発をサポートするかの定義を可視化します。

例えば、デザインアーキタイプやカスタマージャーニーマップの中には民主化できるものがあります。一方で、ワークストリームの後に、UXを測定するためのフレームワークを定義することは、民主化できないことになります。このように可視化し、プロダクトマネージャーやデザイナーと話し合いながら、それぞれ自分たちでできる枠組みの定義を探していきます。

2. 組織全体での学びを可能とする運用方法を確立する

次に、定義したリサーチャーの役割を元にオペレーションモデルに落とし込みます。

上記の図の中で、プロジェクトを成功させるために重要な所は何かということを意識します。そして、リサーチャーが全部行っていることを、リサーチャーが介入する形にオペレーションモデルを変えていきます。

例えば、定義の部分をリサーチャーが行い、実際にユーザビリティーのテストを測定するところをデザイナーが担当するというように、リサーチャーが介入するモデルに変更します。

パラヴィさんの運用方法をご紹介します。

まず、「play book」という詳細ドキュメントをベースに、柔軟性を持たせたガイドラインを作り、リサーチを実施するべき適切なプロジェクトを特定します。

次に実践的な質問などの知見を共有化するための指標やツールを作ります。

そして、ガイドラインに沿って、学びを蓄積しやすいワークフローを作り、デザイナーやリサーチャーがトレーニングします。このようにして、デザイナーたちがUXリサーチを学べるプログラムを構築していきます。

全ての人がUXリサーチを学べるプログラムの例として、最近行ったプログラムを紹介します。

プロダクトマネージャやデベロッパー、人事といったUXリサーチチーム外の人を顧客と一緒に招待して、組織全体で顧客理解をするための機会を設けました。このプログラムでは、300人の社員が顧客と関わることができました。

これまで顧客から離れていた人たちに、アクティブラーニングプロセスで活発な学びの場を提供することで、組織の中にしっかりとUXリサーチを浸透させることができます。

3. 学びを誰にとっても見えるもの、理解できるもの、実行できるものにする

最後に、リサーチャーやデザイナーが活用できるレポートやプレゼンを作成し、欲しい情報をいつでも流用できるように、誰もが情報を取得・理解・実行できることが重要です。

そのためにはまず、組織のあらゆる構成員がしっかりとその意思決定の方法を理解しなければいけません。具体的には、組織の中で誰がどのような意思決定をしているのか、どのような処理の意思決定なのか、そういった意思決定にはどういったデータが必要なのか、またどのぐらいのスケジュールで意思決定をされなければいけないのかを把握する必要があります。

意思決定の方法を理解した上で、次のようなフレームワークを使って学びを共有します。

チームレベルで学びを共有する方法としては下記があります。

・オンラインの文章ツールを活使い、すぐに連絡が取れるような形でリサーチチームからフィードバックや質問をする機会をつくる

・ディベートのようなディスカッションでやりとりをする

エグゼクティブチームでは、エグゼクティブサマリーがあるので、動画のクリップなどを添えてインサイトを共有すると良いでしょう。組織全体としては、週ごとにインサイトを参考資料と一緒に共有していき、その組織の中でリサーチチームから情報を発信、リサーチチームから何が聞きたいかを収集します。

最後に

UXリサーチの民主化をするために、誰が何をしたらいいのかというのは、組織ごとの考え方やUXリサーチの文化がどのレベルで行われているかによって異なります。

UXリサーチチームと組織の中の人たちが足並みを揃え、リサーチやリサーチャーの役割を再定義して運用方法を確立し、UXリサーチの学びを誰にとっても組織の中に見えるもの・理解できるもの・実行できるものにすることが必要です。

Q&Aセッション

①私はUXリサーチャーです。社内のPMやデザイナー、エンジニアはプロダクトアウトの視点のため、カスタマージャーニーやコンテキストといった視点での改善に理解を得ることが難しい状況です。良い方法を教えてください。

これには2つ解決方法があると思います。

1つ目は、ユーザビリティーの計測です。プロダクトが実際にうまくいっているのかうまくいってないのかを実証するために、デザインチームやエンジニアにプレゼンできるような形で計測します。ユーザビリティが悪いからユーザは苦労するんだ、ということを説得力のある形で説明し、 カスタマージャーニーを変えていく必要がある事を認識させます。

2つ目は、デザインやエンジニアのチームは自分がしたいことや開発したいプロダクトの方に思考が向いてしまう傾向にあるため、あるべき姿をユーザー視点で見せると非常に分かりやすいと思います。

②UXリサーチのロードマップを考える際、社内のステークホルダーとコミニケーションをどのタイミングで取り、各タイミングでどのような内容を決定していくのが良いか、ご自身のアマゾンでの具体例を教えてください。

これに関して先程のプレゼンで少し触れたところもありますが、Amazonでは、UXサーチのロードマップを3ヶ月(四半期ペース)で作っています。

例えば、10月~12月の場合、9月に10月から12月までのチームのロードマップを作成します。その際、リサーチチームだけなく、プロジェクトリーダーも交えて12月までに達成したいことについてリサーチロードマップを使いながら話します。また、前の四半期ではどういう進捗があったかについても確認しながら計画します。短いスパンで見直しをおこない、柔軟に対応できるため、3ヶ月ごとが良いと考えてます。

また意思決定のタイミングは、プロダクトのロードマップがあるかどうかによって意思決定のタイミングが変わります。プロダクトのロードマップがある場合は、プロダクトリーダーと話し合って確認していく、なければプロダクトロードマップのようにみんながあるべき姿を共有できるようなものを作る必要があると思います。

③もしかしたら日本特有の事かもしれませんが、BtoBサービスを手がける組織では、なかなかUXの重要性が理解されにくいと考えます。このような組織でUX文化を醸成するためのポイントはありますか?

これに関しては、日本だけではなく世界中でもチャレンジングな課題だと考えています。

ユーザとの接点を持っていないPMやエンジニアは、自分の作りたいものを作ってしまい、目的や、使い勝手を理解していないことがあります。こういう場合は、効果・効率・満足度の3軸でユーザビリティを可視化し、その結果をもとに必要性を訴えていくことが重要です。

また、実際に顧客のところに行くときは、必ずPMやエンジニアに同行してもらいました。彼らが、ユーザであるお客様と話すことによって、そのソフトウェアが上手くいっているのか、ニーズはどういったものなのかを実感することができます。

このように、ユーザー視点を間近にする機会をつくることが大事だと思います。

④プロダクトのUX管理(スケジュール設計、進行管理など)をどのようにおこなっていますか?また、一般的なプロジェクトの規模や各工程の工数を教えてください

リサーチに関しては、大半の案件が4~6週間で報告を出していて、規模の大きいBtoB案件では6~8週間、規模の小さい消費者向けの案件であれば2~3週間でおこなっています。

管理面においては、プログラムマネージャーに依頼しています。トラッキングツールでプロジェクトの到達率を管理し、仮に期限を過ぎてしまった場合は、課題の再検討をします。課題内容は良かったのか、変更する必要があるのかなどを共通ツールで確認しながら進めています。

プロフィール

Pallavi_Kutty

パラヴィ・クティ氏 Pallavi Kutty

Amazon UX戦略リサーチヘッド(Head of UX Strategy and Research)
Linkedin

SAP Sr. User Researcher、JPモルガンチェース UXディレクターを経て現在、AmazonでUXストラテジストとUXリサーチャーのチームを率いる。UXの専門家として20年近いキャリアをもち、この10年間はUX分野のリーダーとして活躍。世界的な企業において数々のインパクトある顧客体験を創出した等、豊富な経験を持つUXリーダー。組織やチーム体制構築に情熱をささげ、パフォーマンスの高いUXチームを指導、育成してきた実績を持つ。
専門分野は、デザイン思考、サービスデザイン、UX戦略とビジョン策定、オムニチャンネルUX、チーム文化、促進的リーダーシップ、チームエンパワーメント。

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投稿日: 2022/12/05 更新日:
カテゴリ: UXウェビナーダイジェスト