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Googleブランド戦略~フレームワークの立て方と事例~。セミナーダイジェスト

2022年3月10日のウェビナーでは、GoogleのUXリサーチマネージャーであるチュアン・シーさんにご登壇いただきました。

本セミナーでは、チュアンさんに、Googleにおける「セキュリティ」「プライバシー」施策の事例を通して、ミックスメソッドリサーチのフレームワークと、どのようにリサーチを戦略構築に活用しているかをご紹介いただきました。

今回はそのダイジェストをご紹介します。

リサーチクエスチョンと解決手法

リサーチャーとしてのキャリアにおいては、様々なレベルのステークホルダーと仕事をする機会があります。ステークホルダーのリサーチクエスチョン(リサーチのテーマ)は、長期的な将来を戦略的に見据えたものから、来月どんな機能を構築するかといった近い将来の戦術に対するものまで幅広いものです。

様々なレベルにおけるリサーチクエスチョンの一般的な例をあげてみましょう。

  • 企業のリーダーレベル
    ユーザーにとって何が重要か、長期的かつ持続可能な価値をどのように構築するか?
  • マーケティング担当者
    会社のブランドポジショニングがどうあるべきか?
  • 組織のディレクター
    チームの戦略の方向性はあっているか?
  • プロダクトマネージャー(以下PM)やデザインリーダー
    機能の優先順位付けは正しいか、自分達のプロダクトが会社の目標にどのように結びついているのか?

本日ご紹介する「セキュリティ」と「プライバシー」に関するプロジェクトについて、上記と同様にステークホルダーごとにリサーチクエスチョンを整理すると以下のようになります。

  • 企業レベル
    Googleはユーザーからの信頼を重要視しています。何年にもわたって、どのような要因が信頼にとって最も重要であるかを調べるために調査を行った結果「データセキュリティ(以下セキュリティ)」と「プライバシー」の2つが、信頼に大きく影響することが分かりました。
  • マーケティングチーム
    セキュリティとプライバシーを軸にした自社のブランド価値はどうあるべきか?
  • 製品部門のリード
    セキュリティとプライバシーの認識に影響を与える重要な領域に焦点を当てているか?
  • PM
    取り組んでいる機能がセキュリティやプライバシーの認識に役立っているかどうか?

どうすればこれら全てのリサーチクエスチョンを解決することができるでしょうか?今回のケーススタディでは、企業レベル、製品部門リード、PMのリサーチクエスチョンに対してはキードライバー分析を、マーケティングチームに対してはブランドアソシエーション調査という解決手法を採用しました(図1)。

次に、そのリサーチプロセスと得た学びをご紹介していきます。

図1:様々なステークホルダーにおけるリサーチクエスチョンと解決手法
▲図1:様々なステークホルダーにおけるリサーチクエスチョンと解決手法

リサーチフレームワークの紹介

ドライバー分析とは

まず、ドライバー分析から説明します。ドライバー分析とは、成果変数(例えば、満足度やロイヤルティなどのKPI)に影響を与える要素(ドライバー)の影響を定量化するためのプロセスです。

今回のプロジェクトにおけるリサーチクエスチョンの場合、セキュリティとプライバシーの認識(=成果変数)に影響を与える重要な要素(=ドライバー)を理解することが目的といえます。

ドライバー分析のフレームワーク(多階層ドライバーモデル)

ドライバー分析のフレームワークについて図2に示しました。

Tier0(第0層)には、企業レベルの成果指標である「信頼」を、その下のTier1(第1層)として「信頼」の重要な構成要素であることがわかっている「セキュリティ」と「プライバシー」を配置します。

そして、今回のリサーチでは、さらに掘り下げて、「セキュリティ」と「プライバシー」のより具体的なドライバーを探すことに焦点を当てます。このドライバーがTier2(第2層)となります。定性調査ではこのドライバーが何かを把握していきます。

図2:ドライバー分析のフレームワーク
▲図2:ドライバー分析のフレームワーク

ドライバー分析のプロセス①定性調査

ドライバー分析は、通常、複数のステップから構成されます。理想的には、インタビューやフィールド調査など、定性的な調査から始めたほうがよいでしょう。最終目的はドライバーの効果を定量化することですので、まずドライバーを特定する必要があります。ドライバーの効果は相対的なものなので、ドライバーとして考えられる要素をすべて含めることが非常に重要です。

セキュリティに関するユーザーの体験を探る

ドライバーの特定は、プロジェクトによっては簡単な場合もあります。しかし、一般的なユーザーにとってセキュリティは「潜在的」な要素であるため、セキュリティに関するドライバーを特定することは容易ではありませんでした。セキュリティは専門知識を必要とする分野であるため、多くの人は、良い顧客サービスとは何かについて説明することはできても企業のセキュリティを評価する方法を知りません。また、セキュリティといってもユーザーが思い描く要素は様々です。ある人にとってセキュリティとは「最も安全なシステムを持っていること」であり、またある人にとっては「強力なパスワードを求められること」かもしれません。

そこで、まずはじめにセキュリティに関してユーザーが経験した記憶に残る瞬間について尋ねることにしました。参加者に自分のデータが十分に保護されていると感じた最もポジティブな経験と、自分のデータが危険にさらされたり漏えいしているかもしれないと感じた最もネガティブな経験を尋ねました。

例えば、ポジティブな体験としては、会社概要のページでデータがどのように使用されるかについて明確に伝えられていること、会社の創設者の署名が掲載されていることで安心感を得たというユーザーがいました。

また、さらに重要なこととして多くの時間を割いて「なぜ(Why)そう感じるのか」について調査を行いました。そして「なぜ」の理由からドライバーとなる要素を導き出しました。

テーマの抽出

次に、ブレインストーミングを行い、定性調査でユーザーから得られた体験をテーマやサブテーマに分類していきました。ここで得たアイデアとユーザーの声から、次のプロセスである定量調査のアンケートの質問を作成しました。

ドライバーモデル要素の具体化とリサーチフレームワークの完成

定性調査によって具体化できたセキュリティのTier2(第2層)のドライバー(要素)は次の8つでした(図3)。

図3:ドライバーの具体化
▲図3:ドライバーの具体化
  1. Competence:能力=企業がデータを保護する上でどれほど能力があるか
  2. Benevolence:善意=企業がどれほどデータの扱いを気にかけているか
  3. Transparency:透明性=企業が正しいことを行っていることがユーザーに伝わっているか
  4. User Controls:ユーザー制御
  5. Incident Handling:インシデント対応
  6. Aligned Interest:利害の一致
  7. Value:価値感
  8. Environmental Factors:環境的な要因

これらの要素のいくつかは探索的な定性調査を行わなければ、思いつかなかったものでした。しかし、この段階ではTier2(第2層)のドライバーはまだ抽象的です。そこで、ユーザーがセキュリティ技術をどのように評価しているかについて掘り下げました。

例えば、あるユーザーはSlackに掲載してあった認証(小さなアイコン)について何も知らなかったにも関わらず、認証を見ただけでセキュリティに関してポジティブな評価をしていました。このようにユーザーが見る「シグナル」は様々であるため、より具体的にTier2(第2層)のドライバーを測定する「シグナル」を設定し、Tier2.5(第2.5層)と名付けました(図4)。

図4:Tier2.5(第2.5層)シグナルの設定
▲図4:Tier2.5(第2.5層)シグナルの設定

例えば、「Competence:能力」については、シグナルは以下のとおりです。

  • 企業が最高のセキュリティ技術を持っている
  • データ保護に関する業界標準を維持している
  • 高い能力を持つデータセキュリティチームがある 

これからわかるように、Tier2.5(第2.5層)を設定したことでチームは容易にリサーチ結果をもとに行動できるようになりました。

また、前述したように、機能がユーザーにどのような影響を与えているかはPMにとって重要な問題です。GooogleのPMは、日々、セキュリティとプライバシーに関する多くの機能に取り組んでいます。では、PMの仕事は、セキュリティの認識、ひいてはユーザーの信頼に貢献しているのでしょうか?この問いに答えるために、一番下にTier 3(第3層)として「機能」を追加します(図5)。

図5:Tier3(第3層)の追加とリサーチフレームワークの完成
▲図5:Tier3(第3層)の追加とリサーチフレームワークの完成

これで、多層構造のリサーチフレームワークの構築は終了です(プライバシーについても同様のプロセスを実施しています)。チームでは、ドライバーを具体化していく上述のプロセスが重要だと考え、このフレームワークの開発に時間をかけました。

ドライバー分析のプロセス②定量調査とモデル化

次に、定量調査により各ドライバーの重要度を比較し、どのドライバーがセキュリティとプライバシーの認識、ひいては信頼に最も大きな影響を与えているかを確認します。

ここでは、ブランド名を伏せた下記のような大規模な調査を実施しました。そして、得られたデータをもとにSEM(構造方程式モデリング/共分散構造分析)やPLS(偏最小二乗回帰)などのモデリング手法を組み合わせてモデリング分析を行いました。

  • 外部パネルプロバイダーから入手した一般的な人々を代表するサンプル
  • サンプル数 n=6,000 (1,200/1ヵ国を実施)
  • 米国および他4ヵ国において実施

結果を図6に示しました。真ん中に成果変数であるセキュリティとプライバシーに対する認識、外側に潜在的なドライバーを配置しています。セキュリティとプライバシーのドライバー間には、重複しているものもあります。しかし、同じ名称であっても意味が異なっていることに留意してください。例えば、透明性は、プライバシーではユーザーのデータがどのように使用されているかを共有すること、セキュリティではすべてのデータリスクについてユーザーに知らせること、という風に意味が異なります。

また、バブルの大きさは、セキュリティとプライバシーに対するドライバーの相対的な影響度を表しています。大きい方が強い影響を与えるドライバーです。

図6:Tier2(第2層)におけるモデリング分析の結果
▲図6:Tier2(第2層)におけるモデリング分析の結果

当初、チームの多くの人々は、セキュリティに大きな影響を与えるのは技術的な能力だと信じていました。しかし、リサーチ結果から、たとえユーザーのデータを保護するために技術的に完璧な仕事をしていても、ユーザーがそれを感じなければ(=「Benevolence:善意」)あるいはユーザーに示さなければ(=「Transparency:透明性」)ユーザーから評価を得られず、ひいては信頼を損なう可能性があることに気づいたのです。

また、興味深いことに、影響度についてはセキュリティとプライバシーの両方において「Benevolence:善意」が最も重要なドライバーであることが分かりました。これは、ユーザーがGoogleの意図をどう捉えているかに大きく依存するため興味深いことでした。このように、ドライバーをモデリングし定量的に影響度を示すことができれば、より自信を持ってチームに主張することができます。

また、前述したようにTier 2.5(第2.5層)には、チームが具体的に対応できるよう「シグナル」項目を追加しました。例えば、もしPMに「Benevolenceを増やしましょう」と言っても、具体的にどうすればいいのかわからないでしょう。そこで、アンケートでは「シグナル」項目に対応した質問をして、重要なドライバーを見つけ、さらに優先順位をつけてチームにアイデアを提供しました。

例えば、「Benevolence:善意」に最も大きな影響を与えるシグナルは下記のとおりでした(図7)。Tier2(第2層)と比べどのように対応したらよいかが具体的になっていることがわかると思います。

  • Google製品を使用する際にデータを保護する方法についてユーザーに情報を提供している
  • Googleのセキュリティコントロールは見つけやすい
  • Googleはユーザーの個人情報がサービスを提供する上でどのように使用されるかを容易に理解できるようにしている
図7:Tier2.5(第2.5層)におけるモデリング分析の結果
▲図7:Tier2.5(第2.5層)におけるモデリング分析の結果

ドライバー分析のプロセス③調査結果の意思決定への反映

次に、上記で得た調査結果をどのように意思決定に反映すればよいのでしょうか?この段階での目標は、成果指標を達成するために一番問題となっている要因を見つけ、製品およびデザイン決定に必要な情報を優先順位をつけて提供することです。

ここで、意思決定の枠組みである2×2 4象限マップをご紹介します。今回はX軸にドライバーへの影響、Y軸にドライバーのパフォーマンスとして作成しました。つまり、パフォーマンスが低く(Yの値が低く)重要性の高い(Xの値が高い)ドライバー、つまり右下の象限に該当する項目群を見つけることが目的です。そして、その項目群についてさらに優先順位をつけました。

その結果、セキュリティとプライバシーの両方について、他の測定項目と比較して、「Benevolence:善意」が重要にも関わらずパフォーマンスが低いことが分かりました(図8)。

図8:2x2 4象限マップにおける項目のプロット
▲図8:2×2 4象限マップにおける項目のプロット

この学びから具体的なデザインのアイデアを検討し、さらにリサーチを重ねました。現在もいくつかのアイデアが進行中ですが、いくつか実現した一例をご紹介します。まず、ドライバー分析により特定された最も重要なシグナルのうち以下の2つに対応した例です。

  1. Googleは製品を使用中にどのようにデータを保護しているかについてユーザーに情報を提供している
  2. Googleのセキュリティコントロールは見つけやすい

1を受けてパスワードのリスク検出について次のように対応しました(図9)。この変更により、セキュリティの透明性が高まり、Googleがユーザーを大切に思っていることがさらに伝わったと考えています。

図9:データ保護についての対応例
▲図9:データ保護についての対応例
  • 変更前:Googleアカウントページで複数ステップのプロセスが必要
    Googleアカウントのページで、数段下の階層をクリック、「パスワードチェック」という機能を見つけ、危険なパスワードがあるかどうかを確認する必要
  • 変更後:プロアクティブアラート
    Googleの自社製品以外からでもポップアップの警告が出る、Chromeでパスワードを保存している場合、Chromeが危険を察知したら積極的に教えてくれるのですぐに対策が可能

また、2の例もご紹介します(図10)。

図10:セキュリティコントロールについての対応例
▲図10:セキュリティコントロールについての対応例
  • 変更前:「重要な」セキュリティの問題を表示
    ユーザーの行動につながっていない
  • 変更後:ウィジェット(アプリのショートカット機能)をGoogleアカウントのホームタブに移動、最初に表示し、赤色でハイライトに変更
    ユーザーのアクションが大幅に増加

ブランド戦略への展開

ブランドアソシエーション調査

さらに、上記の調査結果についてマーケティングチームと連携しブランディング調査を実施、ブランド戦略へ展開しました。以下にそのプロセスをご紹介します。

まず、ブランドアソシエーション調査では、一つのシンプルな質問をしました。「~について最も連想するのはどのブランドですか?」という質問です。質問はシンプルですが、「~」に該当する項目の開発には時間をかけました。前述の定性調査やチームとのディスカッションから得た情報をもとに作成し、質問に含む機能はチームがより有用と考えるものを選出しました。そして、ブランド名を伏せて米国で3,000名以上を対象に調査を実施しました。

ここにアンケート質問について、いくつか例をご紹介します。

アンケート質問:あなたは、次の各事項から、どのブランドを最も連想しますか?

  • このアカウントを長く使い続けたい
  • 最も安全なオンラインアカウント
  • 他のウェブサイトやアプリ(Spotifyなど)へのログインに最も便利な方法を提供している(2段階認証など)
  • 新しいデバイスからのログインアラートを表示する 
  • アカウントの回復に役立つ機能を備えている 
  • シームレスなログイン体験を提供する 
  • ユーザーの情報を売らない
  • 最高レベルのセキュリティ技術 
  • 個人情報の保護に真摯に取り組んでいる
  • 必要なときにすぐできるサポートしてくれる

この質問から得られたデータで、図11のような「ブランドアソシエーションマップ」を作成しました。Googleは右下のピンクの部分です。そして、エリア内の青い点は今回計測した項目(アンケートの質問の選択肢)です。点と各ブランドとの距離はどの程度連想されるかを示しています。つまり、点とブランドが近いほど、項目からその企業を連想する人が多いことを示します。

図11:ブランドアソシエーションマップ
▲図11:ブランドアソシエーションマップ

ブランドアソシエーション調査からわかったポイントをご紹介します。まず、Googleは機能面においてはブランドエクイティを確立することに成功しているということです。今回、チームが多くの時間を費やしたセキュリティ機能とブランドの間は強い関連性がありました。

しかし、「このアカウントを長く使いたい(I would like to keep this
account for a long time)」というような、より価値に重点を置いている項目はGoogleのピンク色の領域から離れたところにあります。機能については他の企業でも作ることができる一方、価値ベースの影響はより長く続くことを考えると、この結果は チャンスだと考えました。特に、価値観のうち「データの保護に真摯に取り組んでいる(Genuinely cares about protecting my personal data)」「最も安全なオンラインアカウントである(Is my safest online account)」の2つについては距離的に近く、また「安全性」というテーマは前述のSEM分析ですでに出てきたものだったのです。

Safer with Google

その後、ディスカッションやブレーンストーミング、チーム間でさらにリサーチを重ねた結果、Googleは「Safer with Google」という取り組みを最近開始しました。「Safer」というメッセージはデータのセキュリティとプライバシーに関するGoogleの姿勢の一つを具現しています。また、セキュリティとプライバシーについて情報をまとめた新しいウェブサイト「safety.google」も立ち上げました。このサイトでは「Benevolence:善意」を強調しています。例えば、タイトルは「Googleは皆さまのために世界で最も安全なオンライン環境を提供しています」としているほか、セキュリティとプライバシーの機能をまとめた動画を公開し、ユーザーの教育・啓発に努めています。また、Googleの「ヒーロー」機能といえる、セキュリティ・チェックアップとプライバシー・チェックアップも強調しています。このように、調査結果によって「Benevolence:善意」を示すことの重要性を認識したからこそ、その認知を高めるためにデータの安全性に関する情報を、より多く共有しているのです(図12)。

図12:safety.googleのサイト
▲図12:safety.googleのサイト

今では様々な製品に対して「Safer」をテーマとした取り組みを実施しています。また、Googleのリーダー自身があらゆる場でユーザーコミュニティにこの価値観を伝えています。

リサーチフレームワークの応用

本日ご紹介したフレームワークは、いろいろなパターンに応用できます。最後に、どのように利用できるのか簡単な例をあげます。

図13:購買意図を成果変数とした例
▲図13:購買意図を成果変数とした例

「購買意図」を成果変数とした例(図13)では、各階層は次のように考えることができます。

  • Tier0(第0層):「購買意図」
  • Tier1(第1層):「商品」と「サービス」
  • Tier2(第2層):「質」「価格」「アフォーダンス」「信頼性」「価値」などの要素
  • Tier3(第3層):様々な機能
図14:オンラインサブスクリプションを成果変数とした例
▲図14:オンラインサブスクリプションを成果変数とした例

また「オンラインサブスクリプション」を成果変数とした例(図14)では、各階層は次のように考えることができます。

  • Tier0(第0層):「オンラインサブスクリプション」
  • Tier1(第1層):「知覚価値」「機能性」「使いやすさ」「会員特典」「カスタマイズ化」などの要素
  • Tier2(第2層):様々な機能

必ずしも初めにあげたケーススタディのようにすべての階層が必要なわけではありません。高位に位置する成果変数と、それに寄与するドライバー(要素)があればいいのです。そして、それらの間のドライバーの影響力を調査していきます。

Q&Aセッション

---ミックスメソッドリサーチを採用されているということですが、Googleでは定性調査、定量調査、マーケティングリサーチは1人のリサーチャーがすべて担当するのでしょうか?それとも調査ごとにチームがあったり複数名で対応されているのでしょうか?例えば今回の事例では、どのぐらいの人数のリサーチャーが担当されたのか教えてください。

A:今回の事例では複数のリサーチャーが関わっています。まず、定性調査、定量調査、ミックスメソッドリサーチ、マーケティングリサーチのそれぞれに対応するリサーチャーがいます。マーケティングリサーチについては、UXチームとは異なる部門からリサーチャーが参加する形をとっています。リサーチャーは様々な部門から参加し、それぞれ得意な分野やメソッドを用い、協力して貢献しています。また、シニアのリサーチャーだけが実施したわけではなく、ジュニアがシニアをサポートしながら進めています。例えば、私の場合、サポートが数名入り、定性分析の際には参加者を集めたり、(スクリプトは私が作成するものの)結果を協力してまとめたりして進めています。また、外部ベンダーも利用しています。これは、ブラインド名を伏せたリサーチについては、社員を使うと自分たちに有利な結果が出てしまうためです。

今回のケーススタディは約1年を要しています。ただ調査だけをしていたわけではなく、様々なチームと話し合ったり、ユースケースを導き出したり、結果からの振り返りも実施しました。どのようなメソッドを使えばいいのかについても、パートナーと協力のもと進めています。最終的には、具体的にどのようなメソッドを利用すればよいかということろまで落とし込めたと思っています。

---定性調査の評価に課題を抱えています。定量調査の場合は数値として表れるので評価しやすいのですが、定性調査の場合は評価の是非を判断しにくいです。Googleではどのように評価されているのか教えてください。

A:定性調査であっても、例えば、ユーザビリティテストのようにタスク達成率や、タスク達成にかかった時間、アイトラッキングなどの方法を併せて採用することで、ユーザーの態度を数値化していくことができます。定性調査を行うことで、どこに価値が持たれているか、また自分たちが重要に思っていることとのギャップを測ることができます。また、定性調査の使い方として、今回のケーススタディでは、定性調査から定量調査という流れでしたが、反対の流れも可能です。例えば、透明性に関してユーザーが透明性を良いものと思っているかどうかを知るために先に定量調査を実施して、定性調査でフォローアップするということもできます。

私は定性調査と定量調査を合わせたミックスメソッドリサーチを好んで使用していますが、リサーチを成功させるためには、影響度や関連性をみることが重要です。このためには、まずはじめに定性調査を実施して問題点を見つけることが、どのようなアプローチでリサーチを実施していくかを考える上でとても役に立っています。

---リサーチで他社と差別化するポイントを教えてください。

A:私はこれまでに3社、インターン時代と合わせると4社しか経験していないので、ここではGogoleについて話したいと思います。Googleはユーザーを一番重要と考え、ユーザージャーニーに重きをおいて仕事を進めています。具体的には、Googleはユーザーにどのような影響があるのかを重視しているので、製品のデザインや機能、製品開発については、常にユーザーへの影響度を調査し、その結果をもとに進めています。

---ドライバーの数値化はどのように行われましたか?

A:「どれくらいの満足度があるか」という質問については、例えば「グーグルは業界最高のテクノロジーを使っている、そう思いますか」について「はい」「いいえ」といった回答を用意し、これを数値化しています。

「どのくらい重要か」という風には質問していません。直接重要かどうか質問しないのは、それぞれのユーザーにおいて重要に関する評価基準が異なるため、間違った結果が導き出されるかもしれないからです。例えば「どうしてこの商品を買うことにしましたか」とユーザーに聞いたときに「価格」が要因だと答えるかもしれませんが、実はその背景に「品質」が深く関わっていることもあります。このため、直接聞きたい質問を聞くのではなく、キードライバー分析などモデリングの技術を使い、ドライバー(要素)が実際に満足度にどのような影響があるのかを見ることが重要となります。

---定性調査でインタビューによってドライバーとなる要因を特定されていましたが、例えば定性調査を実施せず、アンケート調査による因子分析からドライバーを特定する方法もあると思います。定量調査ではなく、インタビューなど定性調査からドライバーを特定するメリットを教えてください。また、案件によるかもしれませんが、Googleでは定性調査は最低何名くらいを対象に実施されていますか?

A:Googleでも因子分析を実施したり、因子分析をしてからドライバー分析を実施することもあります。ただ、最初には実施せず、まず定性調査から始めています。本日お見せした多階層ドライバーモデルは最終形態で、実は以前のバージョンではいろんなドライバー(要素)がありました。例えば、コミュニケーションというドライバーもありましたが、コミュニケーションをとることで透明性が上昇しているということが分かり、透明性を軸にしたという経緯があります。

モデリングする際には、定量調査によって影響度を見ましたが、定性調査を実施したことでどのようなドライバー(因子)があるかを把握することができたと思っています。なお、参加者が何名かについては調査によります。通常、定性調査において、小規模は5名、大規模は30名、インタビューは5~7名、本当に小規模でインタビューは1名など、場合によります。

登壇者プロフィール

チュアン・シーさん

チュアン・シー(Chuan She)
Google / UX リサーチマネージャー

LinkedIn

シーさんは、IC(Individual Contributor:スペシャリスト)とマネージャーの役割を合わせもつGoogleのリサーチリーダーです。リサーチャーとして、定性調査、定量調査、マーケティングリサーチ手法を組み合わせて、ユーザーの態度や行動の背後にあるメンタルモデルや動機を理解することに日々取り組んでいます。彼女のリサーチにより、企業は新しいビジネスチャンスを特定し、デザイン、プロダクト、マーケティングといった戦略を推進してきました。現在、Googleのリサーチチームを率い、よりパワフルでインテリジェントかつ使いやすいビジネスプロダクトを提供しています。以前は、Facebook、WhatsApp、Houzzでリサーチチームを率いていました。

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