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UXリサーチャー求人のハードル「実務経験3年」をどう乗り越える?アイコン1つの改善からUXリサーチャーへ。

近年「UX」に対する関心は急速に高まっています。特に、これまではIT企業を中心に実務に取り入れられていった「UXリサーチ」が他業界でも柔軟に取り入れられるようになってきました。

さらに「UXリサーチ」への関心が高いのは企業側ばかりでなく、求職者の関心も少しずつ高まりを見せているようです。少しネットで検索しただけでも「UXデザイナー」や「UXリサーチャー」の求人票は簡単に見つかります。

しかし、求職者がいざ「UXリサーチャーになろう!」と思っても転職にこぎつけるのはなかなか難しそうです。多くの求人票には応募要件に「UXリサーチの実務経験3年以上」などの項目があり、企業側が求めるのは「即戦力」であることが推測できます。

となると、「UXリサーチャー」になろうという人は未経験でも門戸が開かれた企業に転職するか、現職で経験を積むしかありません。といっても「始め方もわからないし、そもそも社内でもあまり重要度を理解してもらえない…」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、小さくアジャイルに社内UXリサーチを実施しつつ実務経験を積む方法をお伝えします。

UXリサーチャー求人「実務経験3年」のハードル

「UXリサーチャー」への転職をお考えの方にとって一番の難関は「3年以上の実務経験」ではないでしょうか。
並列で語られることの多い「UI/UXデザイナー」のような職種なら、有料の養成所が比較的簡単に見つかります。

業界未経験でも、まったくの初心者でも、勉強しやすく実践的な経験を積みやすい環境が整っています。しかし「UXリサーチャー」にはデザイナーほど養成機関が用意されていません。どこかの会社でたまに開講されているくらいで、いつでも誰でも簡単になれるというような状態にはないのが実情です。

それゆえ「3年以上の実務経験」を積むための基礎もどう積んでいけば良いかわからない…というのが求職者の皆さんの悩みどころかと思います。

外部に養成機関が少なく成り方がわからない。それなら内部で経験を積んでみよう、というのがこの記事の考え方です。少しでもトライできそうな環境なら小さくアジャイルに始めてみましょう。

なお、以下の内容を実践する場合には、あとから振り返るために、なるべく詳細にメモを残しておくと良いでしょう。それが最後に役に立ちます。

小さくアジャイルなUXリサーチの始め方

それではさっそく社内でできることを洗い出してみましょう。

STEP1:お客様からのフィードバック・問い合わせを読みあさる

「読みあさる」と書いていますが、「うちの会社ではユーザーからのフィードバックや問い合わせの履歴が残っていないわ」という方は、まず「ログを残す」ことから始めましょう。数ヶ月後にまたこの記事を読みにいらしてください。

ログがある会社の方は、過去どのようなフィードバック・問い合わせが来ているか確認してみましょう。まずは直近1ヶ月の内容にすべて目を通してください。(…この時点で心が折れかけた方(またはすでに折れてしまった方)、UXリサーチャーは想像以上に地味で地道な作業の多い仕事です。本当に仕事としてやっていきたいか再考するチャンスです。トライする前に向いていないことがわかれば、それはそれでハッピーなことです。)

STEP2:フィードバック・問い合わせを分類する

過去1ヶ月の履歴を分類していきましょう。お叱りの言葉が多くても大丈夫です。会社やサービスが良くなるきっかけだと思って作業を進めていきましょう。
分類の仕方はサービスの内容によって変わりますが、慣れないうちは3つくらいに分類するのがおすすめです。

なお、分類にあたっては「miro(ミロ)」などのオンラインホワイトボードツールを使っても良いですし、アナログにホワイトボードに付箋を貼る形式で進めても良いでしょう。どちらも難しい場合、適当なノートに小さめの付箋を用意して分類するのがおすすめです。

はじめのうちは分類に迷うことがありますし、分類できたと思っても改めて見直すと修正が必要だと気づくこともあります。あとから修正しやすい方法を採用するのがおすすめです。
分類の仕方は以下を参考にしてください。

・効果:本来そのサービス/製品で達成されなければならないタスクが達成できなかった、という内容
・効率:本来そのサービス/製品で達成されなければならないタスクは達成できるが、手間や時間がかかる、という内容
・満足度:上記以外

それでは実際にコピー機を例に分類を見てみましょう。


・効果

  • 紙詰まりが発生したが、エラーの内容がわからなくて社内の誰も紙詰まりを解消できない(紙詰まりが発生したことで印刷できないまま)
  • インクの交換方法がわからずインクが補充できない(インク補充方法がわからないことで印刷できないまま)

・効率

  • 紙詰まりが発生したが、エラーの内容がわかりにくくて紙詰まり解消に何時間もかかった(紙詰まりは最終的に解消されているが、解消方法がわかりにくく印刷までに時間がかかる)
  • インクの交換方法がわからずマニュアルを読んだが内容がわかりにくく、結局インターネットでやり方を調べた(インクは最終的に補充されているが、補充方法がわかりにくいことで印刷までに多大な手間がかかる)

・満足度

  • 紙詰まりのときのエラー音がもう少し大きく聞こえやすいと良い(印刷に支障は出ていないが、好ましくない)
  • インクのせいかわからないが印刷がにじむ(印刷に支障は出ていないが好ましくない、ただしにじみの程度によっては「効果」への分類になる)

STEP3:フィードバック・問い合わせの背景を明らかにする

3分類は効果>効率>満足度の順に重要度が高いですから、まずは「効果」に分類されたフィードバック・問い合わせの背景から明らかにしていきましょう。


ユーザーが発した「〜できない(しにくい/好ましくない)」などの発言には必ず背景があります。表面的には同じ「〜できない(しにくい/好ましくない)」でも、ユーザーの立場や業種など背景情報によってはフィードバックの意味や重要度が変わる場合があります。
特に明らかにしていただきたい背景は以下のとおりです。

・企業名(toBの場合のみ)
・業種(toBの場合のみ)
・ユーザーの立場・役回り(toBの場合のみ)
・決済者(toBの場合のみ)
・プロダクトの利用目的
・他社プロダクトでなく自社プロダクトを利用している理由(自社プロダクトに重視していること)
・フィードバックの概要(誰が/いつ/何に対して/どんなことを/なぜ 感じたのか、フィードバックの発生文脈を明らかにする)
・フィードバックの概要に対し、ユーザーが求めること(誰が/いつ/何に対して/どんなことを/なぜ 求めるor求めないのかを明らかにする)

上記の内容をはじめからうまく埋めるのは難しいかもしれません。特にテキストでのフィードバック・問い合わせだけでユーザーの要求事項を読み取るのは難しいですから、その場合は社内で応対した人に話を聞いたり、過去に似たような例がなかったか探したりしてみましょう。

STEP4:課題を解消する仕組みを考える

ここでのポイントは「仕組み」を考える、という点です。解決策の内容によっては、蛇口から流れ続ける水を雑巾で拭き続けるだけで根本的な解決に至らないこともあります。仕組みを考える際には、必ず「ボトルネック」を見極めて打ち手を考える必要があります。この仕組みは蛇口をひねってもとから水の流れを断てるのか?と振り返る癖をつけると課題解決の道のりが楽になります。

また、繰り返し生じるフィードバック・クレームがある場合、それは何らかの大きな課題が存在していて、その課題が長らく解決されていないことを示しています。正しく課題を解消できなければサイレントマジョリティーは音もなく離れてしまいます。

ただし、慣れないうちはそのような課題は(残念ながら)後回しにしたほうが良いでしょう。そこまで大きな課題であれば会社として解決に取り組んでいる可能性もありますし、何より一人で抱えるには大きすぎる課題となるでしょう。すでに社内にある情報を整理し、クリティカルな課題が存在することを明らかにするだけでも価値が出ることはあります。それはそれとして一つの成果としておきつつ、今回の社内リサーチではもう少し小さな課題に着目して取り組んでいきましょう。

例えば会社Webサイトのアイコン1つがわかりにくい、という話でも良いのです。まずはUXリサーチの流れを掴むためにも小さくアジャイルにプロセスを回してみてください。

なお、課題を解消する仕組みを考えるには、まずは課題が発生する仕組みを考えてみましょう。

・課題の正体
・課題の発生箇所
・課題によって誰/何にどのような影響が生じるか
・課題解決の打ち手
・打ち手によって本当に課題が解決するか(打ち手によって別の課題が生じないか、目的の課題が解決されても残る課題はないか)

そのほか、課題解決に関する書籍なども参考にしてください。

また、必要に応じて社内の定量データを集めて分析することも必要になるかもしれません。UXリサーチだからといって定性的な調査しかしてはいけないというルールはありませんし、重要なのは課題を明らかにして解決の道筋を立てることです。使える素材は存分に使って課題を深堀していきましょう。

なお、どれだけ考えても解決策が思い浮かばない場合、単にアイディアが出ないというだけでなく、そもそも設定した課題が間違っていることもあります。その場合はSTEP3に立ち戻ってユーザーの利用文脈や要求事項に誤りがないか確認し、誤りがあれば修正してからSTEP4に進みましょう。

STEP5:課題を解消する簡易的な仕組みを作って検証する

ここまでたどり着けたら仕組みを簡易的な形(プロトタイプ)に落とし込みます。プロトタイプができたら、仕組みの検証のため社内のメンバーに実際のユーザーになりきってもらい、あなたが考えた課題の内容が合っているか、それに対する解決策が本当に課題を解決できるかを判定してもらいます。

とはいえ、ここが一番苦労するところかもしれません。Webサイトやアプリ制作の企業であれば、プロトタイプを作って課題が解決できているかABテストをする、というようなことができます。

自分で作れる人は自分で作ってみましょう。自分で作れない場合は社内のデザイナーやエンジニアに協力を仰いでプロトタイプを作ってもらうこともできるかもしれません。ただしプロトタイプ作成にもそれなりに工数がかかりますから、いきなり作り始めるのではなく、ホワイトボードや紙にアイディアを落とし込んでいきましょう。

STEP5でうまく仕組みが形にできなければ必要に応じてSTEP3・4に戻ってサイクルを回し、ある程度課題解決の道筋が立ってからプロトタイプを作り始めても遅くはありません。

なお、有形商材の場合はプロトタイプ制作にかかるコストが大きくなりやすいので、上記のようなプロセスを取ることが難しいケースもあります。その場合は課題解決のアイディアと仕組みを「セールスシート」に落とし込んでいきましょう。


セールスシートを作る際は、以下のような内容を盛り込みます。

・セールスシートの作成目的
・課題の提示(課題の内容が合っているか仮想ユーザーに判定してもらうため)
・解決策の提示(前頁で示した課題を本当に解決できるか仮想ユーザーに判定してもらうため)

STEP6:結果を資料にまとめる

あなたがどれだけ苦労して検証を進めても、それが誰にも知られなければ意味がありません。最後にここまでやってきたことを資料にまとめましょう。

資料は目的に沿って内容や構成を変えます。例えば実際にプロダクト改修を企画したいのであれば、結果をまとめるだけでなく「こういうことがわかったから、ここをこう変えるべきです」という提案を盛り込みましょう。また仲間を募りたい場合は社内リサーチをしてみてよかった点や苦労した点などを盛り込んでおくと興味を持ってくれる人が見つかるかもしれません。

ただし、どのような形でまとめるにしても「やって終わり」という印象にならないよう注意が必要です。

「アイコン1つでも良い」という話と一見矛盾するように思われるかもしれませんが、そもそも調査の目的は「課題を見つけて改善すること」です。調査のきっかけは「転職のためにまずは小さく実務経験を積む」ことだったとしても、組織の力学としては取り組むメリットが必要です。

特に継続的に取り組むうえではビジネス的なメリットが重要になります。資料をまとめる際には、自分の組織にとってどのようなことがメリットになりうるのかも考えてまとめると良いでしょう。

[ おわりに ]
ここまでお読みいただきありがとうございました。
UXリサーチャーは、調査の対象の大小を問わず、このような地道なプロセスを経てリサーチしています。しかしコツコツと積み重ねた事実から仮説を考え、それが検証を経て立証されたときの面白さといったらありません。

ぜひ皆さまにもそのような面白さを体験していただければ嬉しいです。
もちろん、実際にトライしてみて社内に重要性も伝わったけれど継続的に自社だけで取り組むのは難しいという場合はお手伝いいたします。お気軽にフォームよりお問い合わせください。

コラム執筆者

大石

ポップインサイトのUXリサーチャー。前職はSaaSの営業・インサイドセールスを担当。現在はSaaS、外食チェーン、自動車メーカーなどの各種大手企業のリサーチを担当。趣味は新しくできた店舗を観察しながら顧客属性や顧客単価を想像し、自分が店長だったらどれくらい収益が見込めるか考えること。

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カテゴリ: UXリサーチャー, UXリサーチ, UXリサーチ