チーム連携とプロダクト成功を実現する North Star ビジョン/Amazon UXヘッドが解説【セミナーダイジェスト】
2022年7月7日のウェビナーでは、Google、Vanguard、IBM、EPAMなどの名だたる企業において、15年以上のUXリーダーシップの経験を持ち、現在は、AmazonのHead of UX & Creative Directorとして、グローバルブランドとUXデザイン・リサーチをリードされている、ナタリア・フラミルさんにご登壇いただきました。
今回は、そのダイジェストをご紹介します。
目次
NorthStarやビジョンを設定することが最優先
今から3〜5年先の将来は、プロダクトによってユーザーの生活は一変しています。なぜそのプロダクトを気に入ってもらえるのか、実際の体験を少しでも可視化してみてください。それはどんな世界なのか、ユーザーはどう感じているのか、プロダクトのシンプルなストーリーを意味や目的を考えて語れますか?
North Starビジョンとは、「North Star(ノーススター)=北極星」の名のとおり、関係するすべてのメンバーに共通認識をもたせプロダクト成功のために目指すべき方向を統一させるビジョンです。
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリさんの「船の建造員を鼓舞するには、木材集め、作業分担、細かい指示出しではなく広大で果てしない海への憧憬を語りなさい」という言葉が大好きです。このNorthStarビジョンが大切で、あることが3つ見えるようになります。
① 本当の目的を理解することができ、仕事の裏にある背景を知ることができる
② 感情的にコネクトする
③ クリエイティブかつ自主的に達成することができる
NorthStarビジョンは、決まった道しかないインスピレーションなのです。
では、なぜ、NorthStarビジョンが必要なのでしょうか。それは、NorthStarビジョンを最初に作ることによって、50%もインパクトの時間を減らすことができ、正しい方向に進むことができるからです。
例えば、住宅ローンアプリで家を買うためには、多くの手続きや書類の作成が発生します。これらは時間がかかるため、デジタル書類に変えるほうが理にかなっていると思うかもしれません。しかしそうではなく、本当にユーザーの問題をしっかり理解して、どうしたらユーザーにとってベストな家を見つける手助けができるのか、経済的に一番いい家を探せるかということが解決につながります。
大きなビジョンがあることで、MVPにフォーカスすることができるため顧客側の一番大切な価値を見つけ出すことができるようになります。
NorthStarビジョンによる戦略的なアラインメントが可能になる3つの理由
まず1つ目は、ステークホルダーの連携と動機付けです。これは、ステークホルダーのユーザーリサーチで顧客のニーズについて話すことができます。
次に2つ目は、プロダクトのロードマップの周知です。これは、とてもパワフルなやり方で、ロードマップやアーキテクチャーを周知することができます。
最後に3つ目は、投資の優先順位の明確化です。これは、投資も明確化することができ、人々は素晴らしいと感じたミッションビジョンを持っている会社に入りたいと思うので、人材採用の質も高まります。
NorthStarビジョンを共有するには様々なやり方が存在します。今回は2つ紹介します。まず1つ目「asana」です。
「asana」は、1日に使うアプリ全てを1つにまとめることができます。例えば、バーチャルアシスタントが、ToDoリストをカレンダーと一致させたり、生産性のないMTGにならないよう全ての会議を自動的に文字起こしを行うことができます。自動的に行ってくれるだけではなく、解決方法まで見つけてくれるため、業務負担をまとめ効率化を図ることができるのです。
次に2つ目は、ストーリーテリングのアプローチの仕方です。
このアプローチは、最初にジャーニーを可視化します。そこからどう変化するのか具体的なコンセプトを出すことで今までになかったものを簡単に投資することができるようになります。
しかし、実際には「時間がない」や機能をお届けする「リソースがない」、既に別の「ロードマップがある」ため、「なぜNorthStarビジョンが必要なのかわからない」といった課題があります。これらの抵抗が発生してしまう理由は、「経験不足」によって誤解が生じているからです。
その「経験不足」によって生じる誤解は4つあります。
まず1つ目は、ミッションとビジョンの違いに困惑することがよくあるということです。ミッションとは、直感的発想の簡単なもので、フレーズや1つの文章があるだけで、会社の人々はその方向性に向かって行きます。ビジョンは、測定するのがとても難しく、誰もがどうやって実現するのか理解しにくいため、ビジョンを作りステークホルダーに支持を得ます。
次に2つ目は、ロードマップや機能を実行するのに慣れているため、やる気がなくなり抵抗を感じるということです。12ヵ月も先を想像するのは難しいです。そのため、Amazonでは、長期の目標を考え、メッセージを伝えるようにしています。
次に3つ目は、NorthStarビジョンは実際に最終スペックだと思っている人が多いということです。人々は、全てのパーツをビジョンで価値を達成しなくてはいけないと思っています。しかし、これはスペックではなく常に進化して変化するということが大切になります。
最後に4つ目は、NorthStarビジョンは中長期的なものだと思っているということです。NorthStarビジョンは具体的なものがなく、ストーリーテリングをすると少し抽象的に見えてしまい、実用的ではないと感じてしまうこともあるかもしれません。しかし、NorthStarビジョンはとても記憶に残るインパクトのあることです。
実際にNorthStarビジョンができるまで、価値を得るために待つ必要はない
意図的なプロセスを使って、ステークホルダーを巻き込んで、カスタマージャーニーの1日目から参加してもらうことになると、基本的に実際のNorthStarビジョンと同じくらいの戦略的アラインメントを促進することができます。
これらをどのように始めるのかは、大きなWhyから考えるべきです。
「一番大切なのはNorthStarやビジョンを設定することです。それなしでは、混乱が混乱を呼びます」とスタンレー・ウッドさんが言っています。我々のゴールは、顧客の問題や課題で自分たちのビジネスがどのように影響を与えているのかを理解することです。また、大きなビジネスコンテクストを理解することでUXリサーチャー1番のステップになります。よって、ビジョンにアライメントすることが大切なのです。
ビジョンのプロセスは、知っている人も多いかと思いますが、「ダブルダイアモンド」というデザイン思考です。
最初のダイアモンドは、問題にフォーカスするもので、ユーザーの問題に対して共感するユーザーリサーチです。2つ目のダイアモンドは、解決を探検するというデザインコンセプトです。この2つに加え、ビジョンでは3つ目のダイヤモンドが存在します。3つ目のダイヤモンドは、何をするべきかというビジョンのストーリーを作る部分で、プレスリリースなどが該当します。そして、これらのダイヤモンドには、計画や共有のための連携やビジョンを進化させることが必要になります。これらは定期的にニーズに基づいて見直しを行います。
UXリサーチャーの役割について
UXリサーチャーは、ステークホルダーを巻き込んだり、賛同を得るということの連携から始めます。その際にはUXリサーチャーのリーダーシップが大切になります。ここで推奨するのは、ステークホルダーに協力していただくということです。ステークホルダーにインタビューを行い、ユーザーが感じているペインポイントはどこなのか、カスタマーエクスペリエンスはどのようなものがあるのかをリサーチします。そのリサーチした実例などをリーダーやチームにNorthStarビジョンの価値とともに共有してください。
共感の部分では、カスタマージャーニーマップやユーザーリサーチなどを行います。また、経験からすると、コンペティティブリサーチインダストリーレビューなどを分散し、どういうやり方で解決したのかのインタビューやインリサーチも大切です。しかし最も大切なことは、チームの全員と頻繁に自分の進捗状況を共有するということです。共有することで、チーム全員がビジョンの一部ということを感じ、オーナーシップを感じることができるのです。
探索の部分では、デザイン思考ワークショップやプロセスが大切になります。またここでは、あなたの考えを構成してください。例えば、NorthStarのカスタマージャーニーマップのアイデアを出してペルソナを選ぶ際、一人だけにフォーカスするのではなく、複数人を選ぶことでクリエイティブにすることができます。また、実際にデザインコンセプトも検証します。
最後のストーリーテリングは、成功に繋がるとても大切なものです。リサーチャーとして、ユーザーのペインポイントと連携したビジョンストーリーを作ることで顧客にそのストーリーを体験してもらうということが大切です。
NorthStarビジョンの難しさ
NorthStarビジョンが大きすぎると時々大切だけれど難しいと感じてしまうことがあります。その際には、なんでもよいから大きなビジネスチャンスが起こるようにアイデア化をします。アイデア化するためには、まず提供したい価値をチームで理解することです。その価値に関連した商品やサービスが開発され、何度もテストを行うことで実際のデータのデリバリーに基づいて作ることができます。
NorthStarビジョンを始めるタイミング
よくある質問なのですが、NorthStarビジョンはどこで始めるのか、特にどのプロダクトサイクルに該当するのかということです。GoogleやAmazonなどでは、年間のプロダクト戦略プランニングというものがあり、四半期ごとに分けて企画を行います。
例えば、第一四半期では賛同を得てリサーチを行い、第二四半期ではアイデア化をしてソリューションを考えます。第三四半期では日々の仕事の上にあるストーリーテリングを行うといったように大きなプロセスを考えます。
また、実際にインパクトなるビジョンかどうかは、自分自身やチームメンバーに「ユニークかつ、やる気を起こさせるものなのか」「視覚的に訴え、共感的なのか」「ビジネスとユーザーの価値がマッチしているのか」といった3つの観点で確認することができます。
最後に
大切なことは2つあります。
まず1つ目は、ビジョンへのジャーニーというのは、ビジョン自身と同じくらい大切だということです。ビジョンを常に共有し、企業の成長の一部にしてください。また、ロードマップで機会やソリューション、あなたのビジョンに対して比較することで、みんなが同じ方向に向かっているのかということを確認することができます。
2つ目は何度もビジョンを定期的に見直すということです。永遠に続くことは何一つありません。そのため、定期的に見直しを行い、自分らしいものであるのか確認をし、価値を提供することで新しい情報を学び、見つけることができます。ここでのポイントは、ビジョンを複雑化しないほうが良いということです。
UXリサーチャーは、顧客のストーリーをお話しするストーリーテラーになれます。ただインサイトやデータ、結果だけを出すのではなく、より良い将来や人々の生活を一変させるストーリーを語ることが基本になります。これが役に立てば嬉しく思います。
Q&Aセッション
①NorthStarビジョンとNorthStarメトリックやKGI/KPIといった成果指標との整合性は、どのようにとればよいのでしょうか?
成果指標を作る良いチャンスだと思います。KGIとKPIはとても相性がよく、このビジョンによって、どのように問題を解決するのか、ユニークな方法でわかります。また、メトリックによって、実際どのようにしてそのビジョンに向かって前進しているのかということがわかります。もしも、NorthStarビジョンがなくて、メトリックがあった場合の例ですが、アメリカの銀行でとても素晴らしいメトリックがありました。その銀行ではユーザーの口座数を測定したいと思っていました。この際に一番わかりやすい指標としては、口座数が多いほどロイヤリティが高いということです。しかし、この銀行には戦略やビジョンが全くなく、挙句の果てには銀行員が口座を開けてしまうという問題が発生しました。その反対に、ビジョンはあるが、メトリックがない場合は、実際に前進しているのかどうかわからないということがあります。これは、ネットフリックスの事例ですが、ネットフリックスのミッションは、世界にエンターテイメントを提供するということです。メトリックは、ストリームコンテンツを見て時間を過ごすということです。これはユーザーが視聴後、時間とロイヤリティの関係性がわかります。このビジョンとメトリックとKGI/KPIの3つが戦略的なアプローチには必要になるということです。
②NorthStarビジョンの具体的な立て方について、ビジョンはどの程度の粗さで設定するのがよいのでしょうか?たとえば、時間軸や含める要素についても教えてください。また、ビジョン策定において、どういう立場の人が必要で、何人以内であるべきなのかなどのベストプラクティスはありますか?
良いビジョンの要素はペルソナのストーリーです。ある一日のストーリーはどのような感じでしょうか。ユーザーが朝起きて大変だと思うことをどう変化させるのかなどのストーリーを見せてください。例えば、ビデオやスライド、ドキュメントなどでお話ししていただきます。その詳細レベルは、様々ありますが、時間軸も入れます。また、先ほどあったasanaは少しレベルが高く難しいかもしれません。これは、CEOが現在みんなは何をしているのかを理解するのに悪戦苦闘し、できていなかったというのは我々にも共感できる問題です。しかし、デザインを提供することに関していくつかの具体的な象徴的瞬間があります。ストーリーはパワフルで、顧客がそのストーリーと共感できれば「欲しい」と思います。そのため、そのストーリーと欲しいと感じさせる瞬間もしっかりデザインされるべきであると思います。その象徴的な瞬間は、asanaの場合5つあります。それはタイムフレームです。もし、タイムラインがもし短いとなればタイムボックス化してください。例えば、発見には2.3週間と決めてください。そうすることによって、本質的には何があるのかが固定されて、ビジョンからスタートし、進行するにつれて変わっていきます。そのため、タイムボックス化することを恐れずに、時間を決めるということです。四半期を過ごしたとしてもその価値がわからないということはよくあります。エンジニアやセールスマーケティングサポート、ステークホルダーなどにも入ってもらい、一つのリーダーがタイムラインで整合するいろんなプロセスを一つ一つ分けることが大切です。また、ビジョンでは、コラボすることが大切です。Googleでは3つのチームに分かれ1チーム8〜9名のチームでしたが、その連絡担当を行っていました。ここまでする必要はないですが、リーダーになることで参加しているメンバーに役割やタスクを与えることができます。
③社内で顧客ロイヤリティをNPSで計る事の正否についていろいろな意見があるのですが、(例えば次回購入意向の方がより良い指標であるなど)どうお考えですか?またNPSは使われていますか?
とても注目されている話題で、とても簡単なメトリックです。しかし、必ずしもロイヤリティと関係しているわけではないです。ロイヤリティは長期的で時間にまたがって起こります。一方NPSはある一時的なポイントがあるものです。例えば、誰にお勧めしますかなどの要点的な質問ではなく、保守的な構図原因と効果の質問や購入意図の質問が良いでしょう。ただ、それをどうコンテクストで測定するのかは、ロイヤリティメトリックスだと思います。私の経験からは、とてもハイレベルなあまり、頼りにならないメトリックです。
プロフィール
ナタリア・フラミル Natalia Framil
Amazon/ Head of UX & Creative Director
Linkedin
現在、AmazonのHead of UX & Creative Directorとして、グローバルブランドとUXデザイン・リサーチをリード。Google、Vanguard、IBM、EPAMなどの名だたる企業において、15年以上のUXリーダーシップの経験を持つ。これまで、大小さまざまなUXデザイン・リサーチプログラムを一から構築し、優れたデジタルプロダクトを立ち上げ変革し、戦略的なNorth Starビジョン策定を通じてチームを拡大・指導してきた。また、UXPA(User Experience Professionals Association, Delaware Valley)の会長、Boxes and Arrows, Journal of Usability Studies (JUS), UXPA Publicationsのエディターも歴任。彼女の仕事は、NerdWallet、eCommerce Davey Award、UXPAなど、数々の賞で評価されている。
カテゴリ: UXウェビナーダイジェスト, UXリサーチ, UXデザイン UXリサーチを学ぶ, ユーザーテスト、ユーザビリティテスト, 海外の最新UXを学ぶ, カスタマージャーニー、プロトタイプ、ペルソナ