具体例多数!成果につなげるアンケート設計のポイント(チェックリスト付き)
「アンケートを実施してユーザーの考えが知りたい…。でも成果につなげるアンケートにするには、どういう風に設計すればいいんだろう?」と思うことはありませんか。
インターネットで調べると、大体以下のようなことが書いてあります。
- 目的を明確に決める
- わかりやすい文章にする
- 質問の順序に注意する
- 設問数は多すぎないようにする
一応納得はするものの、結局どうすれば良いのかわからない…。そのような方に向けて、筆者の経験をもとに具体例を用いながら説明していきます。文末にチェックリストも用意していますので、設計した後に確認してみてください!
本記事は以下のような方におススメです。
- 自分でアンケートを設計したいが、ノウハウがない
- 以前アンケート調査を行ったことはあるが、結果を活用できなかった
- NG例が知りたい
※今回は設計をテーマにしていますので、アンケートの配信方法や分析には触れません
アンケートの弱点も把握しておく
アンケート調査は、手軽に多くの人の声を集めることができる有用なリサーチ手法です。しかし、万能ではなく、調査手法として苦手なこともあります。
アンケート調査は、回答者が選択肢を選んだ詳細な理由や、回答者の深層心理に迫ることはできません。
例えば、デザインAとデザインBのどちらが好きかを聞いたとします。
結果的に、どちらが支持を得ているかはわかりますが、「なぜ」デザインAが好きなのか理由や背景まではわかりません。
「Aのデザインを好き」と思うには、その人の背景が絡んでいます。
その人は元々どのようなデザインが好みで、
そのサービスをどのような気持ちで使用していて、
どうなることを望んでいるのか。
これら1つ1つを設問に落として分析していくのは難しく、本当にそれが背景となっているのかも判断できません。
自由記述欄を設けて理由を聞けば良いと思うかもしれません。しかし、「明るい色遣いだから」「文字が大きいから」ともっともらしい回答があったとして、それに合わせてデザインBの文字を大きく明るい色遣いに変更して提示しても、「やっぱりAが好き」となることもあります。
回答者が「自分がなぜそう思うのか」を、正確に言語化して伝えてくれることは期待できません。
「まずは仮説を立てるためにアンケートでボリュームを確認しよう」
「支持された方がなぜ好まれるのか仮説を立てて、2回目のアンケートをしてみよう」
または、「今度はインタビューをしてみよう」など、今回のアンケート調査でどこまでを明らかにし、その結果を持ってネクストアクションはどうするのかまで考えておくと、実りある調査になります。
目的を明確に整理し箇条書きにする
目的を明確にすることは非常に重要です。目的によって、どのような人に対してどのようなことを聞いていくかが変わってきます。
また、アンケートをやってみたけれど、「結局何がしたかったんだっけ?」とならないようにしたいですね。
ここから、具体例を元に考えていきたいと思います。
ここでは架空の自社商品=「OKASHI」という名のクッキー菓子 について、アンケートを作成してみましょう。
アンケート実施の背景:
OKASHIを販売してから1年経つが、売上がやや下降気味である。売り上げ低迷の原因として「OKASHIという存在がそもそも十分に知られていない」「初回に買ってくれた人がリピーターになってくれていない」という状況があるのではないかという仮説を立てたとします。
これらの仮説の検証と、仮説が正しかった場合にどのような施策を打てば良いかをアンケート調査により明確にしたいとして、以下の表のようにまとめます。
- アンケート実施の目的:今回のアンケート調査を行うことでどうしたいのかを明記します。
- アンケート実施により明らかにしたいこと:「アンケート実施の目的」を達成するためには、何を知る必要があるのかを箇条書きにします。
- アンケート結果分析後のネクストアクション:「アンケート実施の目的」が達成された後に、どのように改善を行っていくかを記載します。
アンケート実施の目的 | OKASHIを認知してもらえるように、ボリュームの大きいタッチポイントを把握する |
---|---|
OKASHIを継続購入してもらえるように、満足度と課題を把握する | |
アンケート実施により明らかにしたいこと | ① OKASHIの認知のきっかけは何か |
② OKASHIの購入のきっかけは何か | |
③ OKASHIを食べてみての満足度 | |
④ OKASHIの継続的な購入意欲 | |
アンケート結果分析後のネクストアクション | 回答数が多いタッチポイントに向けた企画を立てる |
回答数が多い課題があれば、同じ課題を抱えているユーザーにインタビューを行いさらに内容を把握する |
なお、アンケートの目的を考えたとしても、その解像度が低いと適切なアンケート設計に落とし込めないので注意が必要です。
以下はアンケートを実施するうえでよくある、そのアンケートによって何を達成したいのかが整理しきれていない悪い例です。
× OKASHIの売上を上げる
× OKASHIの改善すべき点を把握する
この粒度では、達成したいことの解像度が低く何を知りたいのかまで書かれていないので、設問をつくる際に軸がブレてしまったり、回答結果を見てどう分析するかわからなくなってしまったりする恐れがあります。
明らかにしたいことを設問に落としていく
いよいよ設問を作ります!前段でつくった「明らかにしたいこと」を明らかにするためには、どのような質問をすれば良いのかを考えます。
以下に一例を記載します。
明らかにしたいこと | 設問 |
---|---|
① OKASHIの認知のきっかけは何か | 1 あなたはOKASHIを知っていますか。 |
2 あなたはOKASHIをどこで知りましたか。 | |
② OKASHIの購入のきっかけは何か | 1 あなたはOKASHIを購入したことがありますか。 |
2 あなたがOKASHIを購入したきっかけを教えてください。 | |
③ OKASHIを食べてみての満足度 | 1 OKASHIを食べたことがありますか。 |
2 OKASHIを食べてみて、あなたはどのくらい満足しましたか。 | |
3 OKASHIを食べてみて感じたことをすべて選んでください。 | |
④ OKASHIの継続的な購入意欲 | 1 あなたは今後OKASHIを買うことがあると思いますか。 |
2 前問のように選んだ理由を教えてください。 |
今回はやや直接的な検証をしていますが、ブランドがすでに確立している場合には「クッキーといえばどの銘柄を思い浮かべますか」と想起を確認する聞き方もあります。
設問を作成する際のポイントを確認しながら作成しましょう。
ポイント1:数ある前提を想定し、唐突な質問にならないようにする
「表2-①OKASHIの認知のきっかけは何か(以下、番号はすべて表2の番号を指す)」を知りたいからといって、いきなり「OKASHIを知ったきっかけは何ですか?」と聞いてはいけません。
なぜなら、これはOKASHIを認知していることが前提の問いだからです。そもそも商品を知らない回答者から見ると、唐突に感じて回答しにくく、自分が蚊帳の外であるかのように感じてしまう恐れもあります。
まずは「あなたはOKASHIを知っていますか」という設問を前に設置し、順序立てて聞くことで回答者全員が答えやすいものにしましょう。
また、「②OKASHIの購入のきっかけは何か」も同様です。
回答者は、友人が買ってきてくれたので食べたことはあるが、自分で購入したことはないかもしれません。
さまざまなシチュエーションがあることを想定し、思い込みを排除しましょう。
ポイント2:誰にでもわかる用語を使う
リテラシーが低い人も回答する場合があります。「用語がわからないために正確に回答できなかった」ということは避けなければなりません。
よくあるわかりにくい用語は、Web用語です。例えばOKASHIの購入先を答えてもらう設問で「ECサイト」という選択肢を用意してしまいがちです。
「ECサイト」とは、インターネット上で商品やサービスを販売するためのWebサイトだということは常識である気もしますが、まだまだECサイトという言葉の意味を知らない人たちもいます。「インターネット上のサイト」などかみ砕くことにより、意味が伝わらないことを防ぎます。
自分たちが普段使う言葉であればあるほど、多くの人が知っているものだと思い込みやすいため注意が必要です。他にもWebサイト上にある「カルーセル」「アンカーリンク」なども正確に通じない恐れがあります。専門用語を使わざるを得ない場合は、設問文に注釈を加えることをお勧めします。
ポイント3:択一選択、複数選択、自由記述は適切なものを選ぶ
「③-1 OKASHIを食べたことがありますか」という設問には、必ず1つの選択肢を選べば答えられます。
しかし「②-2 あなたがOKASHIを購入したきっかけを教えてください」では、必ずしも1つのきっかけであったとは限りません。
仮に、購入したきっかけが「パッケージが可愛くて、値段も手頃だったから買ってみた」だった場合。パッケージと値段のどちらか1つでも当てはまらなかったら購入していなかったかもしれません。
また、表2では「④-1 あなたは今後OKASHIを買うことがあると思いますか」という設問のあとに「④-2 前問のように選んだ理由を教えてください」と聞いています。
このように理由を聞く場合、想定できる選択肢を作っても良いですが、必ず自由記述欄を設けることをお勧めします。制作側が考えてもみなかった感想をもらえるかもしれませんし、「おいしいから」と選んだ人が100人いたとしても、何をもっておいしいと感じたのかは十人十色かもしれません。
自由記述欄で得られるさまざまな意見を知ることが、商品開発のヒントになるかもしれないからです。
ポイント4:せっかく聞くなら度合いも確認できるものにする
「①-1 あなたはOKASHIを知っていますか。」
この質問に対して、選択肢を「はい」「いいえ」とすることもできます。しかし、せっかくコストをかけてアンケート調査をするのですから、より詳細を把握できる選択肢にすると良いでしょう。
例えば、下記のように選択肢を設けます。
A. 名前も、どのような商品であるかも知っている
B. 名前は聞いたことがあるが、どのような商品かはよく知らない
C. 名前を聞いたことがなく、どのような商品かも知らない
こうした選択肢にすることで、「名前だけ知っていれば認知していると見なす」と定義した場合はA~Bの回答数を確認し、商品を理解している人のみの割合を知りたい場合はAの回答数を確認することでOKASHIの認知度を確認できます。
この結果から議論に発展したり、新たな仮説が立つこともあります。
また、「はい」「いいえ」だけの場合は、選択肢を回答者の解釈に委ねることになります。
例として、下記の2つの回答をみてみましょう。
- 回答者1「名前は聞いたことがあるけれど、知っているとまでは言えないので”いいえ”を選ぼう」
- 回等者2「よく知らないけど名前は聞いたことがあるから”はい”にしよう」
この2名は、
「B. 名前は聞いたことがあるが、どのような商品かはよく知らない」
という同じセグメントに属するにも関わらず、違う回答をしてしまう可能性があります。
ポイント5:選択肢はMECEにする
「あなたはOKASHIをどこで知りましたか。」の選択肢を考えてみましょう。
選択肢は、可能な限りMECE(漏れなく、ダブリなくという意味。Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の頭文字でミーシーと呼ばれる)で作るというお作法があります。
提示されているどの選択肢にも当てはまらない場合、次の設問に進めずに回答者が回答を諦めてしまう場合もあります。また、本来は該当しないものを選ばれてしまうと、結果データも信用できないものになってしまいます。
例えば、下記の選択肢はどうでしょうか。
A. 動画サイトのCM
B. 店頭
C. OKASHIの公式webサイト
D. その他( )
一見、「その他」があるので、漏れがなく問題ないように見えます。しかし選択肢式設問のよさは、集計がスムーズにできることです。
「友人が買ってきてくれたので知った」「フォローしているインスタグラマーが投稿していた」などが「その他」で大量に回答されてしまうと、その1つ1つを分類しなくてはならなくなります。
想定しうる選択肢をしっかり準備しておきましょう。
ポイント6:不正回答者を除外できる設問を用意しておく
悲しいことですが、アンケートの回答報酬を目当てに、ほとんど設問や選択肢を読まずにいい加減に回答してくる方もいます。
そういった回答は除外してから集計を行わないと、正確なデータとは言い難くなってしまいます。
存在し得ない選択肢を忍ばせておいたり、自由記述欄を設けるのが有効です。
例えば、「あなたはOKASHIをどこで知りましたか。」という設問に対し、本当は出稿していない「テレビCM」という選択肢を用意しておき、一番上に設置するなどです。また自由記述欄には「aaa」など意味不明な入力をされる方がいます。
不正回答とみなされるデータは集計前に削除してしまいましょう。
ポイント7:必要に応じて、途中終了やスキップの設定をしておく
使用されるアンケートツールによっては十分な機能がない場合もありますが、途中終了やスキップ機能を適切に使うことで、回答者への余計な負荷を防ぐことができます。
「①-1 あなたはOKASHIを知っていますか」に対し「名前を聞いたことがなく、どのような商品かも知らない」を選んだ人にとって、それ以降の設問はすべて答えられません。この人たちにはここでアンケートを終了とするのが適切です。
途中終了ができない場合は、すべての設問に「OKASHIを知らない」という選択肢を用意しておく必要があります。
「③-1 OKASHIを食べたことがありますか」に対し「食べたことがない」を選んだ人は、次の設問「OKASHIを食べてみて、あなたはどのくらい満足しましたか。」に答えられません。
しかし、さらに先の「④-1 あなたは今後OKASHIを買うことがあると思いますか」には答えられます。「食べたことはないがネット広告で気になっていて、いつか買いたいと思っている」かもしれないからです。
その場合は、途中の設問をスキップで飛ばしてあげるのが適切です。
ポイント8:自由記述の設問を最低1つは設置する
自由記述の設問を設置することは、ポイント3でお伝えしたとおり、こちらが想定していない回答を得られるかもしれませんし、
ポイント6でお伝えしたとおり、ふさわしくない回答データを除外するのにも役立ちます。
また、このアンケートに答えてくれた人の中からインタビューに参加してくれる人を選ぶ場合、「どのくらい真摯に回答してくれているか」「OKASHIに対してどういう想いを持っているか」というのも、自由記述で測ることができます。
同じ選択肢を回答した人が50人いたとして、その中からどの5人を選べば良いか判断しにくいですよね。自由記述の内容からは回答者そのものを感じ取ることができます。
ただし、むやみに自由記述とするのも問題です。それだけ回答負荷が高まりますので、途中離脱されることや、投げやりな内容を書かれてしまう可能性があります。
自由記述は多用しすぎず、特に詳細を確認したい設問に絞って自由記述回答を活用しましょう。
ポイント9:全体的に不備がないか確認し、設問を並び替える
今回の設問は、ユーザーの体験に沿った時系列順で作成しており、回答者から見ても自然な流れになっています。
もし作ったアンケートが時系列順になっていない場合や、回答者の思考や行動の流れに沿わない形になっている場合、回答者にとっては回答しにくい流れになっている可能性が高いため、設問の順番が時系列になるように構成の再検討をお勧めします。
明らかにしたいこと | 設問 |
---|---|
① OKASHIの認知のきっかけは何か | 1 あなたはOKASHIを知っていますか。 |
2 あなたはOKASHIをどこで知りましたか。 | |
② OKASHIの購入のきっかけは何か | 1 あなたはOKASHIを購入したことがありますか。 |
2 あなたがOKASHIを購入したきっかけを教えてください。 | |
③ OKASHIを食べてみての満足度 | 1 OKASHIを食べたことがありますか。 |
2 OKASHIを食べてみて、あなたはどのくらい満足しましたか。 | |
3 OKASHIを食べてみて感じたことをすべて選んでください。 | |
④ OKASHIの継続的な購入意欲 | 1 あなたは今後OKASHIを買うことがあると思いますか。 |
2 前問のように選んだ理由を教えてください。 |
他注意する点としては、話題があっちこっちへ飛ばないように注意しましょう。
例えば、途中で他社製のお菓子の感想を聞いたあとに、またOKASHIの話題に戻るなどです。回答者の思考がまとまりにくく、答えにくい恐れがあります。
最後に、忘れずに聞いておきたいことがあります。
回答者の性別年齢や、職業、家族構成など、OKASHIを購入する背景となりうる情報です。このような自分の属性情報は回答するのにさほど頭を使う必要がありません。
そのため、冒頭に設置してスムーズに回答できそうなアンケートだと印象づけたり、集中力が途切れても答えられる設問として最後に持ってきたり、アンケートのボリュームに応じて設置順序を考えると良いでしょう。
1つ1つの設問の回答負荷具合にもよりますが、30問以内のアンケートであれば、冒頭に属性情報を聞くことで準備運動の役割を果たせるのではないでしょうか。
ポップインサイトでは、アンケートの設問数は、20~30問に抑えるよう努めています。都合上設問数が多くなる場合は、回答報酬を調整する、重要な設問を前半にもってくるなど工夫を行っています。
回答者が答えやすいか否かという点においては、他者が設計したアンケートに答えてみるなどして、さまざまなアンケートを体感してみるのもお勧めします。
アンケート設計チェックリスト
□ | 明らかにしたいことが、漏れなく設問に落とし込めているか。 |
□ | 回答結果により、次に何をすべきかを明確にしてあるか。 |
□ | さまざまな状況に置かれた回答者にとって唐突な設問がないか。 |
□ | 誰にでもわかる用語を使っているか。 |
□ | 択一選択、複数選択、自由記述の使い分けは適切か。 |
□ | 「はい/いいえ」だけでなく度合いを確認できる選択肢になっているか。 |
□ | 選択肢の内容はMECEになっているか。 |
□ | 不正回答を除外できるようなダミー設問は用意しているか。 |
□ | 必要に応じて、途中終了やスキップを設定してあるか。 |
□ | 自由回答の設問を最低1問は設置してあるか。 |
□ | 自由回答は、特に詳細を確認したい肝となる設問に対して設置してあるか。 |
最後に
筆者のこれまでの経験をもとに、成果につながるアンケート設計についてまとめました。アンケートは世にあふれていますが、ポイントを押さえていないとまったく結果に繋がらないばかりか、コストだけがかかり無駄になってしまいます。そのような事態を避けるためにも、本記事がお役に立てると幸いです。
また、アンケート調査は複数の書籍が出版されている奥が深い調査手法です。どのような設計がベストであるかは一概に言えませんので、お困りの場合はぜひポップインサイトへご相談ください。
ポップインサイトでは、アンケート設計はもちろんのこと、集計、分析、レポーティングを通じて意思決定のお手伝いや、商品企画やマーケティング戦略を円滑に進めやすくするためのインタビューなどの定性調査も多くの実績があります。ぜひお気軽にご相談ください。
執筆者:森川
ポップインサイトに入社後、UXリサーチャーとして、大手ECサイト、旅行雑誌、公営競技、求人媒体、電子コミックのサイト改善など、UXリサーチの業務全般を担当。