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UXコンサルファームのマネージャーに聞く「UX改善力」を高めるための工夫・秘訣~オンラインセミナーまとめ~

先日、「組織・個人のUX改善力をどのように高められるか」というテーマで、日本屈指のUXコンサルファーム・ビービットの元マネージャーで、現在も個人コンサルタントとして様々な企業の事業成長やUX改善を支援する天野聡美さんにオンラインセミナーでお話を伺いました♪大盛況だったセミナーの内容まとめを大公開します。

目次

【オンラインセミナー動画】UXコンサルファームのマネージャーに聞く「UX改善力」を高めるための工夫・秘訣

テーマ1 個人のUX改善力を高めるために何が重要か

Q.どのようなスキルセットが求められるか?

まず、「こんな人がいる」「この人はこういう時に動く」といういわゆる「人間理解」や「消費者理解」の引き出しを持つことが大切です。

例えば「年始や年度初めになると、目標を立てて新しいことに取り組みたくなる」といったものや、「化粧品を使う女性の多くは『成分が気になる』といいながら詳しくは理解しておらず、『最新科学っぽい』『根拠があるっぽい』といった雰囲気が大事」といったように、検討プロセスに踏み込んだ基礎知識があると良いです。
ただし社会が変わっていく中では思い込みは危険でもあります。

そこで大切なのが、施策を試しては結果を分析する、というようにきちんと仮説検証していき、結果を受け入れていくこと。特に難しいのが、自分のアイデアが間違っているということを受け入れることです。

クイックな仮説検証を当たり前に実施し、「できる人材」がそれにより成果を出していく光景を目の当たりにし、「間違っていたことに早く気付けた」と喜べるようなマインドセットを作っていくことが重要です。

クイックな仮説検証としては電話、Skypeでのヒアリングが早くて便利です。「こんな機能があったらどう思う?」「この時にこんな情報があったらどう?」などをターゲットに電話して聞いたり、ポンチ絵を描いて見ていただくのも良いです。

また、理想体験と要件、ソリューションを分けて考えることはUXに限らず習慣化されていると良いです。課題とソリューションが裏返しにならないようにすること、抽象化と具体化を行ったり来たりする考え方です。

例えば、「迷ってるときに指導してくれる人に出会えることが大事」という考えがあったとして、ソリューションとしてはメンター、オンライン相談などいくつかありますが、大事なことは「このタイミングで誰かに相談できる環境があるということ」である、といった分け方が出来ると、ソリューションが資金面や規模感等で導入できない場合にも、別の方法でスモールスタートで試し、良かったら大きくしていくといった柔軟な考え方が出来ます。

参考:顧客像・行動原理の肌感を理解する上でオススメの書籍

(戦略編)
(実践編)

Q.UX改善担当として、どんな人が向いてるか?

UXに限った話ではありませんが、数多くの施策の可能性がある中で、失敗はつきものです。フットワークが軽い人は他社事例など含め様々な仮説を持つことができ、さらに試すことができます。たとえば「ターゲットっぽい知人にまずは話を聞いてみる」「仮説を具現化してみて、他の部署の同僚にフィードバックを貰う」など。

また、結果をきちんと見つめていく必要があります。実際の分析自体は外注することができますが、それに向き合い次の施策に生かせるかどうかは生来の性格の要素も大きいです。知識、技術はとても早くかわるので、失敗してなんぼ、みたいな人が良いですね。

Q.結果に向き合える人/向き合えない人の傾向は?

  • 一人で黙々と仕事している人
  • 同じことをやり続ける人

仕事において孤立していると、他人の意見が入ってきにくいだけに、結果に向き合いにくいです。また、オーナーシップは良いことですが、成功体験が大きくなりすぎてしまうので、なあなあにならないよう社内でローテーションしたり、外部を使い客観的に見てみることも良いです。

Q.UX改善スキルを鍛えるためにどんなトレーニング・経験が有効か?

まず、顧客像や行動原理の肌感を得るには、定量データだけを見ても、因果関係が見えないので「行動原理」としてはピンと来ません。「この人は何を思っていて、なぜこういう行動しているのか」という筋書きの方が、エピソード記憶になり後に残ります。

課題、要件、ソリューションを分けて考えるトレーニングについては、上司から「要件は何なの?これ以外のソリューションはないの?」と聞かれ、考えることで、考え方のフレームワークがインストールされます。様々なソリューションを知れば、演繹的に要件を考えられるようになります。

軽いフットワークやマインドを育てるには、「ちょっとユーザに話を聞いてみる」「ユーザに当ててみる」といった行動が簡単にできるような環境を作るところからです。それで結果が出れば、文句を言われることもヒアリングで仮説が否定されることも嫌でなくなります。

上司であればやってみたら?と言ってみること、やりやすい環境を作ってあげることが大事です。

Q.BtoCとBtoBで必要な能力に違いはあるか?

BtoCの場合は、押さえるべき変数が多く、価値観、ライフスタイル、1日の間で大事にしている時間など、その人自身もあまり言語化していないものを深く理解する必要があることが多いです。(日記調査をするとわかりやすい。)

それに対しBtoBの場合は、ターゲットのミッション、業務フローなど、どちらかというと客観的・ロジカルな面を具体的に捉えていく必要があります。

テーマ2 組織のUX改善力を高めるために何が必要か

Q.UX改善力が高い組織の要素とは?

お客様センターなどはあっても、クレーム対処しかせずに、そこに至るまでのプロセスに目を向けない会社も多いです。UIだけを見るのではなく、問題の原因を知り根本的な解決をしたい、またそれを強みにしたいという意識を組織として持つことが大切です。

また、「ちょっとユーザに話を聞いてみる」「ユーザにあててみる」といった行動が簡単にできる環境、制度が整っていれば、失敗に気づいていこうという文化になります。

定量調査を定期的に実施するところは多くても、UX調査やユーザ懇談会を定期的に実施しているところはまだまだ少ないです。予算がかかり過ぎる、準備が大変となると「本番一発勝負」となりますが、そうすると失敗が怖くなるので、他社の二番煎じとなってしまったり、あるいはPDCAが遅れたりしてしまいます。

そうすると、因果関係が分からないので次に繋がらない、そのため期待値が上がらないというギャンブルを繰り返すことになります。

ちなみに外資系は特にUX改善に力を入れる傾向が顕著で、海外では役職が上の人がUX調査を見に来ます。彼らは決められた期間の間に成果を出す必要があり、プロダクトを直すのは難しくても、より改善ポイントの対象も多く、着手しやすいUX改善に目が向きやすいすのではないのでしょうか。

Q.UX改善サイクルをうまく回せる組織体制とは

定点観測は、満足度調査、お客様の声などで顧客の声を拾うなどでも良いですが、その裏の課題を分析するところまで持つ必要があります。どうしても「氷山の一角」を拾いがちなので、サイレントマジョリティ(物言わぬ多数派。積極的な発言行為をしないが大多数である勢力のこと)の声を聴くなら定性調査を定期的にやるのがオススメです。

また、フットワーク軽くユーザを見る、PDCAを回す、と言っても最初はなかなかハードルが高いので、それを解消するために「毎月〇本」と目標を立てている上場企業もあり、導入期の施策としては有効です。(慣れてきたら質の向上のために専門家が必要になります)

定性調査は、現在のサイトを見せたり、仮説イメージを少し具現化するだけで何らかの反応が返ってくるので、「誰でも何かしら得るものがある」調査です。そういう意味では「とりあえずやらせる」というのも有効です。

さらに、PDCAを徹底させたり、企画から実施までのプロセスを見直す機会・担当者を置く必要があります。「施策のROI(Return on investment。投資した費用から、どれくらいの利益・効果が得られたのかを表す指標)」だけでなく、「何をしていたらもっと確度が上げられたのか」など、プロセスについても定期的に見直す仕組みがあるとベターです。

Q.「外注から内製化へ」という動きがありそうだが、なぜそういう動きがあると思うか?

一番の理由はスピード感ではないでしょうか。外注だとキャッチアップしてもらわなくてはならず、特にウォーターフォール型の場合、今までの話をしてからになるので時間がかかると思われているのではないでしょうか。

さらに外注では範囲をうまく区切って出さなくてはならず、発注の腕にもよりますが、局所最適化を起こしやすいと聞いています。UX改善はチャネル数や企画数が多い場合は、一部外注化するにしても全体をコーディネートする人材が欲しいというところがあるでしょう。

Q.UX改善をする上で、組織のよくある課題は?(その対応方針は?)

【初級編】
ペルソナとして現実離れしたユーザを描くと、当然その後の施策も絵にかいた餅になってしまいます。また、ペルソナが正しくても、UXには一連の流れがある為、組織が分断されているがゆえにCM、WEB、店舗で聞く話がバラバラだったりするなど、最初の獲得メッセージとその後の体験がチグハグになってしまうことがあり、尾を引くことが多いです。

【中級編】
システム開発が終わった後にUX調査という名のUI調査をすることが多いものの、この段階で直せるものは限られており、根本的な修正をするには期間・予算とも膨れ上がってしまいます。「そもそもの必要機能を見落としていた」「スムーズな体験に不可欠なデータ連携が、最初のシステム設計ではできない」などです。

しかし「いつやったらいいのか」というのが分かってなかったり、手法を選ぶのも難しく、「何となく定量調査」になってしまうケースが多いです。

理想的なのは調査設計ができる担当者が社内にいること。他にはUX改善ができる調査会社やコンサルに、プロジェクト冒頭で一度提案をしてもらうと良いです。その中で必要なステップを洗い出してもらい、さらに実施の優先度をつけてもらいましょう。

Q.UX改善をするための有効な仕組み・環境とは?

まずは、何かしら課題意識を持つこと、改善余地に気付くのが第一歩です。ただし顧客の声を集めているが「クレームにしか対応していない」ところが多いのも事実。なので「この声の裏に隠されたサイレントマジョリティがいないか」というように課題までメタ化して集めたり、「どこから対応していくべきか」など気軽にポスト出来るなど、高い視座から検討する仕組みは持つ必要があります。

そこで疑問を持ったら、あとは現状UXと課題の把握、改善施策の検討、施策の妥当性の検証と更なる改善を回していくための環境が重要です。期の目標、ビジネスゴールを踏まえた上で、やりやすさと優先度、費用対効果を整理していくと良いでしょう。

Q.UX人材を採用するためのポイント・工夫は?

  • そもそも「良いUX」はプロダクトによっても、またその時々のユーザによっても違うので、「ソリューションを持っている人材」を採用しようとすると、あまり役に立たないことが多い
  • UIしか分からない人がUX担当となっている時も多いが、それだと定量調査など適切な調査手法が提案できない

良い人材を選び出すためには、「UXを改善するために何をすればいいのか」「どこに課題があるのか」という「問」を立てられ、それを改善するための「手段」が分かっている人材を採用することです。

面接においても、何か既存のサービスを例に「あなただったら、UXを改善するというミッションのもと、何をするか」を考えてもらうような採用プロセスにすると良いのではないでしょうか。それでUIの課題しか挙げなければ、UXといいつつデジタルしか分からない可能性が高いです。

また、UX人材を惹きつけるためには、UX改善を進めるにあたって大変なのが、他の組織が協力してくれなかったり、そもそもUX改善に予算が付いていない時です。そういう職場だと本当にUXが改善できる人はあまり働きたがらないので、UX組織にきちんと力とお金を持たせておくことです。

また、上もUXにコミットしてくれる、予算もあるといった場合は、それを採用時にアピールするのは有効な可能性が高いです。

質疑応答

Q.フットワーク軽くインプットを集めるために、数値を元にして分析し仮説を立てるよりも、感覚値だけでもいいので先にやってしまったほうがいいのか?

数字が出そろっているのであればそれを見て仮説を立てるのは良いですが、数字を見ても因果関係があるのか全然違う理由なのか見えないことがあり、それを細かい軸で集計し直すと大変なので、データを説明するための基本的なロジック(ユーザの考え方、行動原理)を理解するために、まず電話インタビューなどでライトに始めてしまうのが良いと思います。

ただ大きな調査であれば自分の仮説とデータが矛盾しないか、ヒアリング内容に一貫性が持てそうか確認してから調査するという流れもあります。ロジックがわかると定量調査や数値の結果の意味も解釈しやすくなるので、両軸で早くインプットを得ていくことを意識しています。

Q.新しいプロジェクトを始める際に、成功体験にこだわりすぎないよう毎回リセットするのは効率が悪そうだが、これまでの経験値を活かすか、経験に捕らわれないようにするか、どのように判断していますか?

「こういう人」「こういう行動原理」などが頭に入っていることが大事です。「最近のトレンドと違わないか?」「世代が違うがいいのか?」など気になるポイントがあれば軽くでもいいのでヒアリングし、リセットすべきか判断します。

教育や金融など社会の動きに影響されやすいものはドラスティックに変化している可能性があるので留意します。逆に人に深く根差している考え方、人の本来の性質的なものはあまり変化がないので気にしないことが多いです。

Q.育成のトレーニングにおいて、ターゲットを深く知る経験を重ねることは重要だが、実務経験だけだと量が限られてしまう。どのように工夫をし、より経験を重ねると良いですか?

事業会社だとターゲットが決まっているので深く掘っていくことが実務と重なる部分が多いと思いますが、コンサルやWEB広告など支援系の会社だと、まずは同僚が何をやっているかをキャッチアップして、会社に資料を見るのが好きな人がいればリストアップしてもらうと良いです。

トレーニングとしてはニュースや気になった会社などでも良いのですが、例えば買い物中であれば、「自分がその会社にアサインされたらどうするか?」「どこから直すか」を考え、お客様アンケートに自分なりにソリューションを書いて提案する、なども面白いです。

Q.UX改善力とはどういう定義ですか?

厳密に件数などで考えるというよりは、「前向きである」ということが大きな要素です。前向きだと結果として大きな価値を生み出せるようになります。

Q.UXが大事という共通認識はあるが、改善のアプローチ(リサーチ、自分で考えるなど)が違うと認識が合わず衝突があると思うがどう解決するか?

リサーチ結果がクライアント側で合意が取れない場合には、「どこまでが事実」「どこまでが分析」「どこまでがそれを踏まえた提案」なのか、分けて持っていくことで、どこまで合意いただけてるか確認しやすいです。合意いただけない所はそこだけ議論したり修正したり、というイメージです。

Q.仮説と違っても受け入れる、固執は良くないということは、仮説を持たずに調査したほうが良いということですか?

基本的に仮説をもって調査に望むべきと思っています。
例えば若者のライフスタイル調査などであれば仮説はいりませんが、ここに導きたい、使ってほしい、ロイヤリティを持ってほしいなどの目的がある場合、そのための改善手段と課題の仮説がセットになっている必要があります。ただ、仮説なので間違っていることがあり、間違っていても良いという意図です。

仮説を持つことで調査が恣意的にならないよう、バイアスがかからないような聞き方のテクニックや、ピックアップが偏らないように留意する必要はあります。
答えの仮説を持つというより、問いの仮説を持つことが大事です。イエスとノーの答えを操作するのではなく、明らかにしなくてはいけないことの精度を上げるための仮説を持ちましょう。(イシュードリブンの考え方)

Q.ユーザー調査を経てプロダクト修正をした場合でも解約になってしまうことはありますか?組織にUXを浸透させたいため、こういう懸念をカウンターしておきたいです。

ユーザ調査によって課題だけ見つかった場合は修正しても修正方法が違えば解約になることもあります。修正方法まで検証した場合は、ある程度合理的な理由や根拠があるので少なくともそのターゲットにとっては改善になるでしょう。

ユーザ調査によって、課題仮説、改善案仮説のどちらがわかったのか、によります。

Q.n=1の場合だとその結果に引っ張られすぎて大きなところに目が向けられなかったり間違うリスクがあるのではないか?

2つ考えなくてはいけないパターンがあります。

  • n=1が特殊だった場合
  • 確かに課題は存在しているが対象が少ない場合

n=1しか出ない時は、普段の生活で見ないような人の場合もあるので警戒します。ただ新規事業を考える場合はこの1に宝が眠っている場合もあるので、マーケティングや今あるものの改善なのか、0から1を生み出すのか、によってみるべきポイントが違います。

対象者が少ない場合の重要度の重みづけについては、「こういう因果関係でこの人はこれを課題だと思っている」「こういう悩みを持つ人はどれくらいいるのか」という考えに戻すことで量的な感覚を得て、そこで課題が見えたらアクセスログや裏付けるデータがあればラッキー、なければ定量調査をして優先度を決めようということが多いです。

例えば、レシピの検索の際に「材料で探したいが見つからない」というような場合、それだけだと材料で探したい人は本当にいるのか?となりますが、背景として冷蔵庫に残り物が基本的にあるので材料ベースで探していることがわかります。

それでは冷蔵庫に残り物がある人はどれくらいいるのか?がということがわかると、同じような概念製でニーズに繋がっていくのではないか、と先にそちらを検証することで、結果的に同じ課題の部分が検証できるというようなイメージです。

参考:質疑応答などで出てきた質問に関連する本

◆数字との向き合い方(n=1の意味、数字を見る段階)

※定量・定性のお作法を網羅できる。但しビジネス用というよりアカデミック向け

◆要件とソリューションを分ける思考方法

のお悩みについては、弊社のアジャイルUXリサーチが解決させていただきます。ご質問など是非お気軽にお問い合わせください。
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投稿日: 2019/12/18 更新日:
カテゴリ: UXウェビナーダイジェスト, UX改善