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日本最大のニュースメディア「Yahoo!ニュース」はなぜUXリサーチチームを作ったのか?

月間150億PVを誇る日本最大のニュースメディア「Yahoo!ニュース」では、大量のログデータがあるにも関わらず、他業務とも兼任する13人体制のUXリサーチチームを作り、常時4~5本のリサーチを実施されています。

2020年1月15日に開催したオンラインセミナーには、Yahoo!ニュース担当のUXリサーチャーであり、組織の立ち上げからマネジャーを務めている日置氏をお招きしました。

「大量のログデータがあるにも関わらず、定性的なリサーチをする理由とは? 」「どのようにリサーチチームを立ち上げたか?」「どのようなリサーチを行っているか?」などUXリサーチチームの立ち上げから現在に至るまでのプロセスをお伺いしました。

目次

 

 

Yahoo!ニュースにUXリサーチが根付くまで

Yahoo!ニュースの日置と申します。本日はYahoo!ニュースでUXリサーチをどのように行い、そしてプロダクト改善に活かしているのかということについてお話ししたいと思います。

ヤフー株式会社全体としては、このようにリサーチを推進する組織は2010年頃から存在しています。一方でYahoo!ニュースという、個別のサービスに紐付く形でリサーチチームを作って活動しているのは2017年からです。

そこからどのようにリサーチを根付かせていったのか、そのためにどのような苦労があったのかという話もあわせてご紹介していきます。そして今回の話をお伝えすることで、今からそうした取り組みを始めようとされている方の参考になればいいなと思っております。

自己紹介

まずは簡単に私の自己紹介をさせていただきます。今の会社には新卒で入りましたが、最初は広告の仕事をしていました。ターゲティング広告やまだ当時出たてだったスマートフォン広告で、どのような広告商品を作るかということを企画していました。その後、広告とメディアの間のようなコンテンツマーケティングの新規事業の立ち上げにも携わり、2014年からはYahoo!ニュースで働いております。

Yahoo!ニュースにはニュースを配信していただく様々なメディアパートナー様がいらっしゃるのですが、私は現在その中でも主に国際系のメディアの担当をしています。そうした担当の仕事に加えてUXリサーチャーとしても仕事をしていて、UXリサーチチームのマネージャーも務めているという状態です。

次にYahoo!ニュースとはどういうものなのか、という紹介もさせていただきます。おかげさまでユーザ数そしてPV数においては、現在日本で一番大きなニュース配信サービスとなっています。

またYahoo! Japanが年に2回一般ユーザを対象にして行っている定点調査で「ニュースといえば何を思い浮かべますか?」という質問をしています。この純粋想起でもYahoo!ニュースは一位という結果が出ています。これは自社調査なので公平性という意味では欠けるとは思いますが、こうしたアンケート調査も私たちのリサーチチームで行っているということもあってご紹介してみました。

ここまでの話は数字や規模の大きさといったものでしたが、Yahoo!ニュースのミッションとしては、「課題解決と行動につながるニュースを伝える」ということを掲げています。ここで言う行動とは、オンライン上に現れるアクションだけではなく、ユーザの実生活において何か意識の変化が起こることで行った行動も含んでいます。

このミッションには、ユーザ一人ひとりの課題を解決することで彼らがそれを行動につなげ、ひいては社会全体の課題も解決できたらいいなという思いが込められています。現在Yahoo!ニュースに携わっている社員は300名ほどいますが、「Yahoo!ニュースを何のために作っているか?」と尋ねれば、誰もが「社会をよくするため」と答えると思います。そして、それが本当にできると思いながら日々仕事をしています。

リサーチチームを立ち上げた背景

ここからはいよいよUXリサーチチームの話に入っていこうと思います。リサーチチームが誕生する前から、ログ解析を元にして何かの意思決定を行うということは当たり前の文化として存在していました。最初にお話したように、ヤフー株式会社全体でマーケットリサーチを担当したり、UXリサーチを推進したりする部署は10年程前からあったわけです。実際に何か定性的な調査をしたいときは、その部署に協力を仰いで一緒に行うこともありました。

しかし、やはり違う部署にお願いをしないといけないということで、リソースや時間がかかってしまいます。社外のユーザにインタビューをする際にはお金もかかります。そうしたこともあって、UXリサーチは少し特別なものとして捉えられていました。

全社横断の組織があると今お話したのですが、Yahoo!JAPAN全体で言うとYahoo!ニュース以外にも多くのサービス・部署があるので、全社横断の部署だけでは全てを対応することはできません。

そこで、もっとUXリサーチを育てて会社のいろいろな場所で活躍してほしいという思いを込めて、育成プログラムというのも行ってきました。私も2013年頃に受講しています。今も毎期行われているのですでに数百人ほどの受講者がいて、もちろんYahoo!ニュースには私以外の受講者もいます。しかし、そうしたプログラムを受けたはいいものの、実際にその業務を行ったことがないという人がほとんどだったのです。

また、Yahoo!ニュースの中にも複数のプロダクトチームが存在しているのですが、受講生が所属するプロダクトチームが独自で調査を行っていることもありました。そうするとそのチームの中に閉じて行われてしまうので、中立性という意味では少し欠けてしまいます。そして、そのプロダクトチーム以外でも参考に出来るようなファイディングスが見つかったとしても、Yahoo!ニュースという組織全体にはシェアされない、といったこともありました。

このような背景があった中で、いよいよ2017年の10月にUXリサーチチームを立ち上げることになりました。これはYahoo!ニュースの最終決裁者である、サービスマネージャー自身がこの教育プログラムを受けたということがきっかけになっています。決裁者向けのショートバージョンの育成プログラムだったのですが、それを受けたことで「UXリサーチってすごい」と思ってくれたようで、2年ほど前に実行者を集めてチームを作りました。

リサーチチームの体制

ここからは、今実際にどのような体制で運営しているのかということをお話しします。いざチームを立ち上げるとは言っても、やはり「どのような活動をするのか」「どれくらいニーズを得られるのか」などがわからず、いきなり専任のチームを作るというのは少しハードルが大きすぎました。そして、教育プログラムの受講者もそれぞれデザイナーやエンジニア、私みたいなビジネス開発、あとはディレクター・データアナリストなど、すでにメインの業務を持っています。

そういうわけで、そうした業務を行いつつUXリサーチャーとしても活動するという、兼任のチームを作りました。現在も私を含む全員が何かと兼務でやっています。もともとYahoo!ニュースでは、一人がひとつのプロダクトチームに所属してその仕事だけをするということはあまりありません。

プロダクトAチームもやるけどプロダクトBチームに所属していて、その両方の仕事をする。または3つほど掛け持ちする。こうしたことも普通にあるので、UXリサーチャーとしての仕事がひとつ増えるということに対して、現場としての抵抗感はあまりありませんでした。

ただそうは言っても100%のリソースを使うことはできないので、一人当たりは大体2割から多い時だと4割ほどのリソースをあててもらっています。そして、一人でひとつの調査案件を担当するわけではなく、私の方で2~3人の小さなグループを作って調査案件にアサインしています。こうしたグループにすることで、ベテランのリサーチャーとまだ調査経験のないリサーチャーをペアにして、OJTの実践経験を積むことが可能です。

他にも、デザイナーとエンジニアとでペアを組むと、それぞれの視点を持ち寄って調査をすることができます。このような多様性という意味でも、この仕組みはうまく回っているのだと思います。ありがたいことに、現在はプロダクトチームの方から調査の依頼をもらうことがほとんどになってきたので、大体5件くらいの案件が常になにかしら走っているような状態です。

リサーチ活動の浸透

ここからは、チームを作ってすぐの状況から、どのようにしてたくさん依頼が来るような現在の状況まで持って来たのかという話をしていきます。まず初期の段階では、調査手法を4つに分類したこの図でいうと、実際によく使っていた右下のログ解析以外は区別もついていない状況でした。そこでこの図を何度も使って、「UXリサーチとは何か。定性的なものと定量的なものがあって、さらに意識上のデータか行動を観察するのかでも役割が変わる。」といったことを話していました。

そしてもう一つが、やはり最初はお金をかけられないということで、社員を一般のユーザの被験者として募集して、お金をかけずに小さく調査を始めました。ありがたいことに弊社は社員だけでも数千人程いて、彼らも一歩仕事を離れるとYahoo!のサービスをユーザとして使ってくれています。これに関しては今でも行っているのですが、どちらかというと社外の一般ユーザに聞くものよりも、社員を被験者にするお金をかけない調査の方が割合としては多いと思いですね。

しかし、UXリサーチをどのような時に使えばいいのか説明しても、やはり「すぐに調査をやろう」とはなりませんでした。そこで、いろいろなプロダクトチームやプロダクトマネージャーを回って、「ログ解析では測れないものを測りませんか」と営業をかけていきました。

これは2~3年前の話なのですが、スマートスピーカーがまだ出始めたばかりの頃に、その音声のスキルをYahoo!ニュースでも作ってリリースしたことがありました。当時プラットフォーマーからもらえるデータは少なく、ダウンロード数しかわからなかったので、自分たちが一番使い慣れたログ解析が使えなかったわけです。

そうすると他の手法を全然知らないので、何かエビデンスを用いて意思決定を行おうと思ってもできない。実際にこのように悩むプロダクトチームがあったので「ログ解析ができなくても他の調査でこのようなことがわかりますよ」といったアプローチをして、調査をさせてもらったことがありました。

チームを作ってすぐのときは、この図で言うと定性的な意識データを取るためのインタビュー調査をメインでやっていたのですが、そこから今では徐々に守備範囲を広げて、アイトラッキングを使った観察調査も結構行っています。また、最初にお見せした定点調査という形のアンケート調査もしています。

調査手法の役割分担

チームを作りたての頃には、「ログデータだけではだめなのか?」「ユーザの声ならアンケートで聞けばいいのではないか?」「たった5人の意見で何がわかるのか?」といったことも言われました。これを聞いたときは「UXリサーチのことを否定されている。すごくネガティブな反応だな」と思ってショックを受けたこともありました。

それでも、なぜこうした言葉をプロジェクトマネージャーが言ったかを考えると、やはり先ほどご説明した役割分担をしっかりと理解できていないのだろうなと思い至るわけです。つまり「どの手法をいつ使うと、どのようなデータが得られるのか」が分かっていないのです。

そこで、決してリサーチ自体を否定されているわけではないと気づいて、それぞれの反応に対しては以下のような返しをしていました。

  • 「ログデータだけではだめなのか?」

→行動データはわかっても、意識データはわかりません。

  • 「ユーザの声ならアンケートで聞けばいいのではないか?」

→アンケートの選択肢は、私たち作り手が想像する範囲でしか用意できません。フリーコメントも用意できますが、情報を一方的に取得するだけで、さらに突っ込んだ双方向性で得られる情報がありません。

  • 「たった5人の意見で何がわかるのか?」

→数人に聞くことでも、ユーザがその行動をした裏にある理由やインサイトを知ることができます。

最後の疑問に関しては、ユーザビリティテストでは有名なヤコブ・ニールセン博士が出しているグラフで、5人に聞くことで約85%のユーザビリティ上の問題がわかるというものもあります。しかしこれはあくまでユーザビリティの問題かなと思っているので、ニーズ調査やコンテキスト調査でしたら、正直5人などあまり決まった数にとらわれなくてもいいと個人的には思っています。

浸透の決め手

このような否定的な言葉をくれたプロダクトチームの意識改革に、一番効果があったのは何でしょうか?今思い返してみると、実際に調査に参加したりインタビューの見学に来てくれたりして「ユーザが何を考えているのか」を知って衝撃を受けたという体験なのだと思います。やはり百聞は一見にしかずで、自分で見たものに勝るものはないのかなと。

そのときに、何が衝撃だったのかを聞いてみると、

  • ユーザはこちらが見てほしいものを何も見ていない
  • 伝えたつもりでも何も伝わっていない
  • 想定と全く異なる使われ方がされている
  • そもそも全く使われていない
  • 勘違いをして使われている
  • ユーザは結局自分たちのしたいことしかしない

といった答えが出てきました。

やはりこうした体験をしてもらうことが、プロダクトチーム自身の態度変容のきっかけになったと思います。このようなこと言ってもらうと何か衝撃を与えることが嬉しくなったり、反響があったなと思ったりすることもありますが、それ自体が目的になってしまわないようにというのは自分にも言い聞かせています。あまりその衝撃だけを狙ってしまうと、ユーザが本当に言ってくれたことや、そこから導き出せることを私たち自身が捻じ曲げてしまいかねません。

リサーチのプロセス

では具体的に何か調査案件が発生したときに、どのようなプロセスで調査を行っているのかご説明します。分解してみると以下の4つのプロセスに分けられます。

先ほど社内で実際にプロダクトを使っている人を被験者にするとお話しましたが、そうした社内でのデプスインタビューですと2~3週間で終わる形です。プロトタイピングテストやユーザビリティーテストなど、もう少し簡単なものであれば1~2週間で終わることもあります。

社外のユーザを被験者としたい場合は、リクルーティングだけを調査会社に委託することもあるので、そうなるとさらに1週間ほどプラスになりますが、概ねこれぐらいのスケジュールでやっています。ではこの一つひとつが一体何なのかということを説明していきますね。

課題設定

最初が課題設定のところで、UXリサーチチームとしてはここが一番大切だなと思っています。このプロセスでは調査の依頼をくれたプロダクトチームと一緒に「何のためにこのリサーチが必要か」ということを考えていきます。

プロダクトチームは、何かやりたいことや改善したい施策、リリースしたいものがあって相談をしてくれます。そのやりたいことや目指していることが、Yahoo!ニュース全体が目指していることにつながっているのか。設定しているKGI(Key Goal Indicator…重要目標達成指標)の達成につながっているのか。または、他のプロダクトチームが目指している施策と食い合ってしまっていないか。といった整合性を一緒に見ていきます。

正直これはリサーチチームの仕事ではないのかもしれません。しかし私たちのチームは、あらゆるプロダクトやプロジェクトチームを横断で見ることができる立ち位置にいて、各方面の情報を得ることもできます。

したがってそうしたところも含めて「本当にこのリサーチをやる意味があるのか」というところまで踏み込んでいるのです。仮に言われたとおりに調査をした後に「この施策はYahoo!ニュース全体のためにならない」とわかってしまうと、リサーチ自体が無駄だとは言わないまでも、優先順位が高い他のリサーチに時間を割けたことになります。

そういうわけで、そこの目線合わせは慎重に行っています。もちろん話し合いをした結果、調査をしないという判断をすることもありますし、細かなUI上の判断でABテストでできると思ったらそのように提案することもあります。

一方でリサーチをしましょうとなったときは、検証したい仮説をしっかりと持っているかということも確認しますね。何か施策をやりたい・改善をしたいということは、「ユーザにこのような価値を提供することで使ってもらい、私たちにとっていい結果が出るはずだ」という理想のストーリーがあるはずです。仮にそうしたストーリーがなく、作りたいものが先行してしまっている場合は、一緒に仮説を立てるということもします。

コンテキスト調査などはあまり仮説を立てにくいものだと思いますが、どの調査であってもできるだけ想像でも仮説を立てるように努力をしていますね。そうすることで実際に調査をしたときに、自分たちが主観をもとに考えた仮説と実際のユーザとで、どれほどギャップがあるのかはっきり見るとことができます。

調査設計

そして課題設定ができた後に、初めて調査設計に入っていくという流れです。リサーチの目指す方向性は最初の課題設定で定めているので、ここからはそこまで難しくありません。

具体的には、

  • どのような手法を使うか(定性的か定量的か)
  • スクリーニング条件(誰をリクルーティングしてくればよいか)
  • 実際のインタビューで何を聞くか

といったことを決めていますね。

この調査設計はリサーチチームだけでももちろんできますが、そうすると他人事になってしまうこともあるので、プロダクトチームの人と一緒に行うようにしています。

調査実施

そして計画を立てられたら、いよいよ調査の実施に入ります。先ほど2~3人のグループを作って私がアサインするとお話ししたのですが、いざ調査をやるときはインタビュアーや議事録をとる人も必要です。そこで、案件担当以外のUXリサーチチームのメンバーも、手が空いている人はサポートをしています。実際にインタビュアーをしたり、分析に参加して意見を言ってもらったりという形ですね。

ここでもやはりプロダクトチームには見学に来てもらうようお願いしていて、リサーチチームだけで進めてしまうということは絶対にないようにしています。また、リサーチの対象となるプロダクトチーム以外でも、興味があればどんどん来てもらうようにしています。部署が違う人やYahoo!ニュースの人でなくても呼びますし、逆に私たちもYahoo!ニュースと関係ない社内のインタビューに見学に行くこともありますね。

そして、いざ調査を行うときにはSlackを活用しています。今は弊社のオフィスの中にインタビュールームがありまして、被験者さんに入ってもらうインタビューをする部屋と、そこにすぐ続く形で見学できるバックルームがついています。しかし、インタビュアーと見学者は普通にしているとやりとりをすることができません。

そこでSlackのスレッドを立てて、インタビューの参加者みんなに入ってもらうのです。そうすることでインタビューの途中でも、追加で聞いてほしいことをスレッドを通してインタビュアーに伝えることができます。あとは意見交換やタイムキープもそこでやっていたりしますね。

また、見学している人もただ見ているだけだと、情報が右から入って左から流れて終わりといったことにもなりかねません。そこで、参加したら必ずそのスレッドに自分の気づきなどを投稿してください、とお願いしています。そうすることで、その時に出た新鮮な気づきをテキストとして残しておくことができるので、後の分析でもこれは使っています。

インタビューの場合は一人終わったら、その後すぐに振り返りを行うようにしています。インタビュー終わりは、見学している側もインタビューしている側も気づきに溢れて、何か言いたいという状態になっていることが多いです。そこで、それを忘れてしまわないうちに、言いたいことはすぐに全部記録に残しておくようにします。

このときも気づいたことをただ言い合うだけ・残していくだけだと、調査の目的と必ずしもリンクしないこともあるので、調査設計の段階で明らかにしたい項目を明確にしておく。それについて今回の被験者Aはどうだったか、ということをこのラックアップでやるようにしています。

分析・報告

そしてすべてのインタビューが終わった後、分析に入っていきます。一回のインタビューでユーザが発言してくれたことは、あくまでデータです。したがってそれらを集めて、データから何が言えるのかを抽出する作業が、この分析のプロセスだと思っています。

しかし先ほどもお話したように、インタビュー後にすぐ振り返りをしているので、一人ひとりの分析はある程度できている状態になっています。ですからここでの分析は、一人ひとりに対して言えたことと、全体を通して言えたことに何か差があるのか。全体を通して何が言えるのかということに、よりフォーカスしているかなという気もしますね。もちろんここでもプロダクトチームには参加してもらっていて、ずっと一緒に二人三脚で行うというイメージです。

分析の手法は何か決まったいい方法あるというわけではありませんが、大きく分けると2つあります。一つはポストイットを使ってワークショップ形式で、どのようなファインディングスがあったかをグルーピングして、共通項を見つけていくというやり方。

もう一つ私たちのチームがよく使う手法は、まず今回のリサーチを通して見つけ出したいことを縦軸に何個も並べておきます。そして横軸に被験者をA・B・C・D・Eと並べていき、一人ひとりについてどうだったかを書いていく。そしてそれを全体で見るとどうなのかと考える、といったポストイットやワークショップではないような分析の仕方で行うことが多いです。

前者の場合ですとやった感は出るかなとは思うのですが、その場で思い出さないと細かいディテールが流れてしまったり、見逃してしまったりする懸念があります。個人的に私が心配性ということもあって、全被験者分並べて分析することが多いですね。これをやろうとすると表も大きくなって、情報量も多いのでまとめるのは大変なのですが、どんなに細かいディテールも見逃さないというのはメリットだなと思っています。

被験者一人ひとりの分析はラップアップで作っていけるので、全体が集まった段階でリサーチチームもプロダクトチームもそれを見て、どんな情報が今手元にあるのかというのを頭に入れる。その上でディスカッションをするという進め方が割と多いですね。

実際のアウトプットもケースバイケースで、ニーズに合わせて本当に簡単な1ページのコンフルエンスにまとめることもあれば、しっかり報告資料を作ることもあります。これはリサーチをどのように使うかにもよりますが、プロダクトリリースの参考にしたいということであれば、あくまで情報が必要なのでコンフルエンスで充分かなと判断する時もあります。

一方でこの結果を持って決裁者に承認を取りに行きたい、どこかの場で発表したいというものであれば、きちんと資料作るということもあります。

事例 ココがポイント

ここまで私たちのリサーチのやり方をお話してきましたが、ここで実際にリサーチを行ってプロダクト改善に活かした事例を一つご紹介します。Yahoo!ニュースの仕組みとして、トップページにどのような記事を載せるかは、専任の編集部において人手で選んでいます。25人程度の編集部のチームなのですが、あらゆるメディアパートナーさんから送られてくる記事全てに目を通して、どれを取り上げるか決めています。そしてその記事が難しい内容であったり理解しにくい場合に、ニュースを正しく理解してもらうための付属情報をつける「ココがポイント」という機能を持っています。

参照:「ココがポイント」のポイントは?――ニュースを分かりやすく「紐解く」ヒントを探る

事例 依頼内容とそこから設定した問い

リニューアル前後の見た目の違いは画像のようになっています。これはもちろん同じ内容を示しているのですが情報も見た目も違っていて、以前は写真とテキストだけという簡単な機能になっていました。そしてこの機能を担当しているプロダクトチームから、「機能のリニューアルを考えていて実際にプロトタイプまで作っているが、本当にユーザに使ってもらえるかを知りたい」というお話がありリサーチの相談をもらいました。

このときも依頼をもらってすぐリサーチするのではなくて、先ほどの4つのプロセスに当てはめてまずは課題設定を一緒に行っています。その結果、「そもそも今ユーザがこの機能をどのように使っているか」「ユーザが本当にそのような難しいニュース知りたいというニーズがあるのか」という点を確かめていないことがわかりました。

そこでリサーチチームからは、

  • 今どう思われ、使われているのか
  • コンセプトはニーズを捉えているか
  • プロトタイプはニーズに応えているか

という3つを調べてはどうかという提案をしました。

ここでもまず社内のユーザにインタビューしたのですが、やはり社内だとこの機能のことをよく知っていてバイアスがかかってしまいます。そこで、社外の一般のユーザの人も被験者としてお呼びしてデプスインタビューを行いました。

事例 リサーチからわかったこと

調査をしてわかったこととしては、まず今の機能はほぼ存在を意識されておらず、いらないと言われています。その機能が何なのかということもしっかり伝わっていなくて、ニュースのサマリーが出ていると思われていました。

そして先ほどコンセプトとして「難しいニュースをわかりやすく伝える」と据えましたが、この「わかりやすい」という言葉にはいろいろな意味や定義が込められていると気づきました。例えば今回の例で言うと、「知らない言葉の意味を知る」こともわかりやすく知るに含まれます。「ニュースが捉えた事象の背景がわかる」ということもそうですね。

他には、「どのような経緯でそうなったのかがわかる」ということも、わかりやすいに含まれます。ひとまずわかりやすいという言葉は、人によって様々な用途や目的で使われていると分かりました。つまりコンセプトとしてズレてはいないけど、もう少し分解したほうがいいということです。

一方でプロトタイプに盛り込まれた要素は、ニーズに応えていることが確認できました。したがって今回プロトタイピングテストのみをしてリリースをしていたら、いい結果が出てスムーズにリリースできていたかもしれません。しかし、前提となるコンセプトはズレているので、新たな改善を行うときにどんどんとズレたものができてしまうと思いました。そういうわけで、この段階でプロトタイプの前提となる条件まで確認できたことはよかったですね。

ここでは定性調査を通して「わかりやすいには複数のパターンがある」と気づけたので、追加でアンケート調査を行ってどのニーズが一番多いのかということを、定量的な調査でフォローアップしました。その結果、「効率的に要点をつかめる」というところが規模としては大きそうだと分かったので、先ほどの広かったコンセプトをここに絞ってリニューアルし、今では画像のように見た目が変わりました。

プロダクトチームからのフィードバック

実際にこのようなリサーチをやってくれたプロダクトチームからもらえたフィードバックには、

  • 「わかりやすいといえばこうだろう」という作り手の思い込みにとらわれていた
  • ユーザニーズや課題を実際に確かめることなく、作り手の主観をもとに組み立ててしまっていた
  • 純粋に調査に参加することが楽しい、学びになる
  • たくさんある機能要件の優先順位をつけて取捨選択ができた
  • 次に何をすればよいのかというNext Actionに自信をもって移れた

といったものがありました。

最後のNext actionというのはリサーチチームでも意識しているところで「Next actionにつながらないリサーチはリサーチとしては成功ではない」と思っています。ただ参考になっただけで終わってしまうとそれはあまりいい調査ではなくて、きちんと調査結果から次のアクションを導き出す。そしてそれを実行できて初めて、調査としても成功したと言えるなと思っています。

リサーチの価値

UXリサーチの価値とは一体何かということを総括して図にしてみました。よく勘違いされがちなものが左で、実際に正しいなと私のチームで思うものを右に置いてみました。

調査をするとユーザの声や要望がそのまま聞けるというのは実は間違いで、ユーザが発言したことや行動したことの裏にある体験を知る。そしてそれをどう活かすか、というとことの方が大切かなと思っています。言われたことをそのままやっているわけでは、決してないということですね。

調査をしたからといって、プロダクトチームが何をすればいいのかまで全て教えてくれるわけではありません。はじめに仮説をある程度立てておくことが大切だという話をしたのですが、その確度をどんどん上げていけるということが価値なのかなと思っています。これも調査が終わって資料だけ見たらわかるというものではなくて、やはり調査に参加してもらって実際に気づきを得てもらうことが重要です。

これから始めるために

これで最後なのですが、今後こうしたリサーチを始めたいと思っている方が、何から取り掛かるといいかということを考えてみました。

まずはリサーチでなくてもいいので「同じことをやりたいと思っている仲間を集める」ということが最初のステップとして大切かなと思います。

やはり最初は予算ももらえないので、お金をかけずに進めていく必要があります。調査会社にも頼めず、インタビュアーも自分たちでやらないといけないので、一人ではなくて仲間がいたほうが良いですね。

そして次が「プロダクトチームをどんどん巻き込んで一緒に調査をする」ということ。これは私がチームを作りたての時に失敗したことなのですが、リサーチを広めたいが為に、委託業者のように何でも請け負っていた時期がありました。そうすると、本当に自分事にはなってもらえず、参考情報としてしか捉えてくれなくなります。やってあげるのではなくて一緒にするということは、やはり大切かなと思います。そしていざ何かインタビューができるという状態になったら、「あらゆる職種の人を見学に呼ぶ」ということもいいかなと思います。決裁者も呼ぶことで、決裁者自身にリサーチの大切さを肌で感じてもらうことができます。

そして、もし今回の話が参考になったら大変ありがたいのですが、他社でもUXリサーチを行っている人はきっと同じ課題にぶつかったり、悩みを抱えていたりします。ぜひそうした事例も積極的に取り入れていただいて、社内で説得する材料として使っていただけたらいいのかなと思います。以上で私からの発表終わります。ありがとうございました。

質疑応答

Q.デザインリサーチは全て社内で行っているのでしょうか?もし外注されることがあれば、内製とのバランスやそれぞれへの期待を教えてください。

デザインや開発などものづくりは全て内製です。リサーチに関して言うと、基本は内製ですが、定性的な調査をするときにはリクルーティングを調査会社に外注しています。ですから一般のユーザに聞きたい・社外のユーザに聞きたいとなったときに、リクルーティングだけをお願いするという形です。あとはアテンドですね。弊社に連れて来ていただいて、それ以降の実際のインタビューは、Yahoo!ニュースの案件でしたら私たちのUXリサーチチームで行っています。

一方で定量的なアンケート調査は、調査会社の方に委託しています。設問設計は私たちで行うので、実際のアンケート実施や場合によっては報告書を作ってもらうところまでお願いしていますね。

期待という部分では、まず個人情報の取り扱いというところがあります。ユーザの数としては私たちのサービスは多いのですが、個人情報の取り扱いを厳しく行っているので、そうしたところを委託しています。また、アンケートの場合は数字の集計など手間がかかるところをできるだけミニマムにしたいので、そうした期待を持って社外の調査会社にお願いしているというところが多いです。

Q.今回話していただいたリサーチ以外のことも含めて、UX改善のためにどのようなことをしていますか?

リサーチ以外のことで言うと、もともとYahoo!ニュースの中で何かプロダクトリリースをするときには、決裁者として1番上にいるサービスマネージャーの承認を取ることが絶対になっています。そしてサービスマネージャーだけでなく、横並びで他にいるプロダクトチームのメンバーやプロダクトマネージャーのいる場でしっかり議論をして、承諾をもらう必要があります。

そのときにも、情報として

  • 今のユーザの課題やニーズ
  • ターゲットユーザ
  • 提供する価値

をセットでシェアしなければいけません。その前提条件が何か一つでも抜けていたら、リサーチしようかと自然にそこから流れていくのです。プロダクトリリースのサイクルに、そうした情報を必ず持った上でリリースをすることができているのは、UX改善の取り組みの一つになっているのかなと思いますね。

Q.ユーザリサーチやデータ分析を踏まえた、ユーザの体験設計を行っていると拝見しました。特定の領域だけではなく社内で横断的に行う場合に、工夫していらっしゃることがあれば教えてください。

私が受けた教育プログラムのような全社横断の組織があって、そこが主導でリサーチ活動の支援行っています。もちろんUXリサーチチームを立ち上げる前はそこにどんどん頼っていて、一緒に調査もしてもらいました。リサーチチームを作った後でも、少し進め方で不安があるときはそこの人たちに相談に乗ってもらって、これでいいか・よりよい方法がないか確認しています。

教育プログラムもベーシックやアドバンスといろいろあって、私も去年アドバンスを受講しました。そうするとYahoo!天気でリサーチやっています、Yahoo!メールでリサーチしています、GYAO!でやっていますといった人たちもその場で集まってきます。そこで仲良くなることで「リサーチ見学行ってもいいですか」みたいな話もできます。社内で違うサービスや部署でリサーチを行っている人たちと関われるというのも、全社横断につながっているのかなと思います。

Q.さまざまなリサーチ手法があるかと思います。(ユーザビリティテスト、アンケート、インタビューなど)どの手法でリサーチをすることが最も多いですか?またその理由も併せて教えていただけるとうれしいです。

先ほどの事例のようにプロトタイピングテストをしたいと言われたときに、こちらから「もっとニーズ調査からしたほうがいいですよ」と提案して、それを組み合わせて行うことが一番多いですかね。前提条件がしっかりとできていないと、その後の改善などで方向性がずれていったりすることも多いので、その組み合わせが数としては一番多いかなと思います。その次がアンケートですかね。定点調査のように定期的に行うものが多いです。

他には、例えばYahoo!ニュース全体をユーザがどのような流れで使っているかという、全体を見たいときに大規模なコンテキスト調査も行っていました。一方であまりないなと思うのがユーザビリティテストです。というのもメディアのサービスなので、必ずこうした使い方をしてほしい、必ずここに行き着いて最終的にこれをクリックしてほしい、といったことがありません。そういうわけで、タスクを与えてというユーザビリティテストはあまり行っていないですね。

だからこそ他のメディアサービスのリサーチャーの人はどのようにしているのかは少し興味もあります。そこはもう少しいい方法を見つけられたらなと思っています。

Q.日置さんは(Yahoo!ニュースは)どのタイミングや頻度でUXリサーチを取り入れていますか?

理想はコンセプトやプロトタイプを作る前に、ユーザを知るための調査を行う。そして知ってからコンセプトを立てて、ものを作って、プロトタイピングテストをやって、UIのパターンを決めて、リリースして、ユーザビリティーテストを行う。その段階ごとにできたら本当に理想だと思うのですが、それをゆっくりやっている時間もありません。

そこで先ほどお話したように、ある程度今持っている情報を頼りにコンセプトを立てて、プロトタイプも作ってそこでテストをする。そして前提条件となるニーズ調査も合わせてやる、というのが一番多いですかね。

はじめのうちは本当に主観だけでコンセプトを立てたり、ユーザの課題やニーズを考えたりするのですが、たくさん調査を行ってきたことでその結果も参考にして組み立てるようになります。そうすると当たり外れで言うと、かなり当たりに近いところを調査する前から作れるようになってきているので、そのタイミングが多いかなと思いますね。

Q.なぜリサーチをしようと思ったか、Yahoo!に入社しようと思ったのか、ご自身のきっかけを教えてください

 

個人的な話になりますが、私は最寄りの駅まで車で30分ほどドライブをしなければいけないほどの山の中で育ちました。本当になにもなくて、本屋さんもないので情報にとにかくアクセスできませんでした。それでもインターネットができるようになって、そのハードルが一気に飛び越えたというか。子供ながらにインターネットの力って凄いなと思っていて、自分もユーザだったということで、今の会社を選んだというのが理由ですかね。

Q.どのように知識習得などされていますか?おすすめの本など、他の方もできるようなことがあれば教えてください。

本以外のところですと、リサーチチームが13人いるので勉強会をすることはあります。例えば社内の被験者さんのインタビューの場合は比較的リテラシーも高いのですが、一般ユーザの方を前にするとすごく難しい応答されることもあります。そこでベテラン勢が難しい被験者役、ジュニア勢がインタビュアーといった形のロープレも行います。

あとは心理学にすごく詳しいものがいるので、人間というのはいかにバイアスを持つ生き物なのか、といったことを学術的な情報を紹介してもらったりします。

おすすめの本としては2冊あります。

ベーシックだがとても参考になる教科書的な本。社内の誰かを説得したい、リサーチを知ってほしいというときにもおすすめ。

人間という生き物がどのような心理学的特性を持っているか、どのようなものを好むのかといったことが書かれている。デザインであればどう作ればよいかも載っていて面白い。

Q.社内の勉強会は社外の方を呼んだり、公開されたりもするのですか?

それもありますね。公開はしてないですが、他の会社でUXリサーチをやっている方に講師をやってもらったことはありました。もっとそうしたこともできたらいいなと思っています。

Q.UXリサーチャーの評価をどのような評価軸で行っていますか?兼任の社員評価の仕組みはどのようになっているのでしょうか?

評価は確かに難しいところです。仕組みから先にお話しすると、私はチームのマネージャーですが、チームに所属しているリサーチャーの評価は行っていません。彼らが所属している組織の上長にあたる人が、評価を行うことになっています。その一方で、私もチームとしてどのような活動したかというのはしっかりと目標設定し、評価を行っています。

やはり何の軸で評価するかは毎期迷うところです。定量的にしたいとは思っているので、対応する調査の数も目標には置いているのですが、単に数をこなせばいいというものもでもありません。その案件が与えるインパクトと、今のYahoo!ニュースという組織で重要視しているKGI、またはそれに紐づくKPIにどれぐらい貢献したか、といったところになるのかなと思います。ただ正直とても難しいです。どうしても定性的な評価になってしまって、定量的に評価する方法を教えてほしいなと思うこともありますね。

Q.所属している部署がメインで評価をして、横断チームでの評価も参考として渡すという形でしょうか?

まさにそうですね。ただ、メインの組織の上長が把握しきれていないなと感じた時は、その上長と私で面談をします。そして、この人は今期こうした活動してくれましたよとプッシュすることもあります。

Q.他業務とUXリサーチを兼任されているとのことですが、業務稼働のバランス調整はどのように行っているのでしょうか?(配分を決めていてもそのとおり実施することは難しいとおもいます)

 

そうですね、括弧書きとかまさにその通りだなと思います。先ほども少しお話したのですが、リサーチャー業務を抜きにしても、プロダクトチームAとBを兼任しているといったことは行われています。2~3割のリソースをリサーチに割いてほしいとは伝えていますが、実際にどれぐらいの時間配分で稼働するかは、私がアサインした案件担当にお任せしていますね。

私が何を基準にアサインするかというのも、「この人は今こういう経験を積んでいるけど、ここのエリアの経験をもっとして欲しい」といった形でスキルアップを含めて渡すことが多いです。そして一旦渡した上で、無理だったら教えてほしいと伝えています。私は基本個々の案件にはあまり入らないようにしているので、回らなくなってきたときには私が助っ人として入っています。

Q.他業務との兼ね合いについてですが、もっとリサーチに軸足をおきたいなど希望はありますか?

個人的にはリサーチが面白いので、リサーチ中心がいいなと思っていたりします。今私はチームのマネージャーをやっていますが、一時期別の方にお任せしていた時もありました。その時に比べるとマネージャーをやっている今は、より軸足がリサーチのほうにあるのでいいなとは思っています。

しかし弊社の職種の分類として、リサーチャーというのは独立していません。エンジニアやデザイナーと同じように企画職のような職種があるのですが、その中に入っています。私自身も企画職である以上はリサーチだけをやっていたらいいというわけでもないので、何か他のこともやらないといけないなという感じではありますね。

今はビジネス開発のようなメディアパートナーとの案件もしているのですが、例えばリサーチからわかったことを実際にUIの改善に活かすために、ABテストを回すといったことも少し始めています。何か一つのことだけをやるよりは、そこから派生するように、いろいろなことをする方が個人的には楽しいと思う性格なのかなと最近思っていますね。

Q.UXリサーチチームのマネージャーとして、成果を出すために何を工夫していますか?

個々の案件で何か調査したいですという依頼が来たときは、私よりもメンバーを優先してアサインするようにしています。それで誰も困っていなければ、私は実際の案件からは一歩引いた感じでいることができます。また、同時にたくさんの案件が来た時は、私とプロダクトマネージャーとで優先順位をつけて、リサーチの案件があまり混み合わないようにもします。あとは先ほどお話したように、チームとしての目標設定や評価も行います。

今はありがたいことに依頼がほとんどになってきているのですが、何か独自で行った方がよいエリアがないかも探しています。もしよさそうなものがあれば、リサーチチーム発信で調査の案件を作ることもあります。あとは、メンバーのスキルアップも考えてアサインしているので、そのためにメンバーの今のスキルセットや、好き嫌いなどを把握するようなこともしていますね。

Q.専用のUXリサーチャーチームを作ることになった経緯について、より必要性を感じた理由や、立ち上げの過程で先ほど話していらっしゃらないことがあれば教えて下さい。

やはり各プロジェクトチームで閉じて活動していた時期に、中立性にかけていたり、調査結果が広くシェアされなかったりといった課題点の方が目についたということですかね。

実際に調査案件を行う中でも、偶然にして自分が入っているプロダクトの案件が回ってきてしまうことがあります。自分のプロダクトなのに、自分で調査も行うということになってしまう。いくら自分がリサーチャーとして行おうと思っていても、中立的でなくなってしまう・難しいなと思うときはありますね。自分が全く関係ないプロダクトの調査案件に携われるという意味では、個々のチームの中に置いてしまうよりもいいのかなと思います。

Q.どのような組織体制を目指していて、そこに向けて何をしていますか?

プロダクトチームに専任でリサーチチームを置くよりも、横断でいるチームというのを今みたいにして別で作って、そこから入るという形の方がいいのかとは思っていますね。ただ、今は兼任の人しかいないので、そこは専任のUXリサーチという形でできたらとも思います。

Q.「UXリサーチ担当」の専任者を別途採用する想定はありますか?

先ほどもお話したとおり職種が分かれていないので、デザイナーのように企画職に含まれてしまうのかなと思いますね。しかし今の13人の組織でも常時5件ほどの調査を回すと手一杯になってしまうので、もう少し人を増やしたいなとは思っています。Yahoo!ニュースの組織に所属している社員の中で、リサーチに興味がある人は探すようにしていますね。

このUXリサーチチームも立ち上げた時から同じ人がずっといるわけではなく、途中で入れ替わりもあります。チームで学んだ人が巣立って、小規模なテストであればその人が所属するプロダクトチームにお任せする。リサーチチームはアドバイザーのような形でつくといったことができると、もう少したくさんの調査案件を回せるようになるかなと思います。

Q.UXリサーチの結果を、どのように実際のサービスやプロダクトの改善に反映させていますか?サービスやプロダクトの担当者(担当部署)との連携方法はどうなっていますか?大変な点、工夫している点があれば教えてください。

先ほどお話ししたように、リリースするためにはリサーチ結果からわかったことをしっかりと入れた上で、プロダクトチームの合意をとらないといけません。自ずとプロダクトサイクルに改善が活かせるような仕組みになっているのは、ありがたいところですかね。連携方法も一緒にやっているのであまり困りませんが、逆にお任せしますと丸投げされてしまうときは、いやいやと言って無理矢理にでも引っ張ってくることはあります。

大変なことや悩みに関しては、やはり調査してこちらが提案しても、それが必ず採用されるわけではないということですね。それは長期的なメリットよりも、短期的に何か実現したいことがあるようなときに起こります。それでも、それをやることでどのようなリスクがあるかはきちんと提案するようにしています。そのリスクも飲んだ上でやるのかやらないのか、といった理解をYahoo!ニュースの組織全体ができるようには努力はしていますね。

Q.組織のUXへの理解はどのようなプロセスで深まっていったのでしょうか?そこまでプロダクトサイクルに入っていなかったときから、今になっていくまでのプロセスでどのような変遷があったか教えて下さい。

やはり最初は「なぜやるのか?」といったことを普通に言われる状態だったので、偉そうな言い方にはなりますが啓発をする・教育をするところがはじめのプロセスでした。そして実際に見てもらい、衝撃を受けてもらう。今までユーザニーズやユーザの課題を自分たちの主観で考えていて、その主観が合っていると思い込みをしている人が多かったので、実際に見学で触れてもらうことで、自分たちの主観がいかに間違っているのかに気づくのです。

そうなると、今まで主観が合っていると思ってやってきた仕事が、これで本当にいいのかと不安に思えてきます。そしてニーズや課題を明らかにするためにも、やはりリサーチが必要だという考えに行き着く。こういったプロセスです。

今話していて思ったのですが、リサーチが根付く以前から、ユーザの課題やニーズを想定したうえで機能や施策を考えることはしていましたね。しかしその想定が間違っていると気づいてもらえたからこそ、今の段階まで来られたのかなと思います。

Q.経営陣等へのUXに対する理解の浸透をどのようにされていますか?工夫している点などをお話ししていただきたいです。(そもそも理解のある土壌があったかなど)

ヤフー株式会社という会社の経営陣ですと本当に高いレイヤーになるのですが、そこに働きかけてくれているのは、まさに全社横断のリサーチ支援の組織です。そこはユーザの調査に加えて、マーケットリサーチも同時にやっています。もともと経営陣へのインプットの時間というのをしっかりとっているので、今の情報や知っておくべきことなどは、そのチームに伝えてもらうことが多いですね。

逆に言うとYahoo!ニュースなど個別サービスの日々の意思決定は、サービスマネージャーのレベルで決まることもあります。そのような中間にあたる決裁者の人でしたら、現場と距離もすごく近いので実際に呼んでしまいますね。一緒に設計はできないまでにしても、来て見てもらうことはできると思います。現場レベルとその中間の決裁者は、そこまでアプローチは変わっていないかもしれないですね。

Q.社内で理解度が上がるごとに連れて、各チームが自ら「ゲリラUXリサーチ」を実施するようになることがあると思います。Yahoo!ニュースでもそのような時期はあったのでしょうか? (もしあった場合どのぐらい続いたのでしょうか?)

私がYahoo!ニュースに来る前のことはわからないのですが、2013~2014年頃からはこのような形でやっていたと思います。おそらく数も少なくて、1年に数回横断チームに依頼して一緒にやるという形ですかね。もしかしたら、決裁者であるサービスマネージャーがプログラムを受けて凄いと思わなかったら、それがまだ続いてしまっていたかもしれないです。

Q.デザイナーとしてニュース分野で気をつけるポイントなどありますか?

Yahoo!ニュースの特徴として言うと、本当に子供からお年寄り、大人までいろいろな属性の人がいて、リテラシーも背景も全く違う人が使ってくれているということがあります。また、使ってもらうシチュエーションも、平常時に面白いニュースを見てもらうということもあれば、災害が起こったときや事件・事故が起こったとき、非常時にも使ってもらうということもある。情報摂取という意味では、ある種のインフラのようになっているかなというのが特徴です。

ですからデザインを設計するときも、奇をてらった新しいデザインより、どんな人でもどんな状況にでもわかるということを強く意識しています。あくまで記事を読んだり情報摂取したりする体験がメインなので、それを邪魔しない・自然に行ってもらえるような設計にしています。

あとは音声読み上げに対応させるなど、目が見えない人でもきちんと内容を把握できるようなユニバーサルデザインやインクルーシブデザインにも気をつけていますね。また、Yahoo!JAPANという会社の名のもとに複数のサービスがあるので、デザインにも全社統一のルールがあり、その統一デザインの中で作ることももちろん意識しています。

Q.UXリサーチの予算については、デザインや開発費用に含まれるのでしょうか?UXデザインの取り組みの予算はどのような形で捻出されているのでしょうか?

予算は調査専用のお金としてとっています。デザインや開発は基本全て内製なので、委託という意味でそちらに専用の予算が付くということはあまりないです。それでもたくさん予算をとっているわけではなく、数百万円ほどですね。

アンケート調査を調査会社の人に委託すると結構高いお金がかかるのですが、インタビューのリクルーティングのお願いですと数十万円で抑えられることもあるので、そのように抑えられるところはできるだけ節約しています。

Q.会社からUXリサーチ専用の予算が支給されるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

やはりはじめは予算を当ててもらえないので、社内のユーザを対象にした調査を何回もします。そうすると、Yahoo!ニュースのことに詳しい、バイアスがかかった人からしか話を聞けないということがわかったので、一般のユーザにも聞いてみたいと説得して予算を分けてもらった形ですね。

また、弊社で提供しているコワーキングスペースには、社外のお客様が来られるようなスペースがあります。そこに来てくれる人にも謝礼を支払って調査をしました。そこで聞いた結果が社内の被験者と違ったら、やはり社外のユーザと社内のユーザは違うというポイントを見せることができます。このようにして、社外のユーザに調査したいですと説得していきました。

Q.今後挑戦したい新しい取り組みなどがあれば教えていただきたいです。

リサーチの分野でやりたいのは、エスノグラフィー調査です。ユーザの人が普段どのような生活をしているのか、オフライン・オンライン問わずその人の生活様式を見に行く。そして、それを理解した上でインターネットというのはどのような存在なのか、ニュース全般はその人にとってどのような存在なのかを知るような調査はやりたいですね。

これは先ほどの、オンライン上で明確なコンバージョン設定ができないというところにもつながってくるのですが、オンライン上に限らず、ニュースを見ることでオフライン上の態度変容や行動につながってくれたら、それがコンバージョンのような気もします。そこを図るためには、ユーザの生活まで入っていかないといけないのかなと。

あとは、他の会社や業界で同じようにUXリサーチをしている人ともっと交流して、意見交換や勉強をしたいなと思っていますね。

以上、たくさんご質問をいただいた皆様、また詳しくご回答いただいた日置さん、ありがとうございました。

また、弊社UXリサーチャがご支援致しますアジャイルUXリサーチにもお問い合わせお待ちしております。
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投稿日: 2020/03/16 更新日:
カテゴリ: UXウェビナーダイジェスト