UXリサーチを会社に定着させるには。freeeの成果を生み出すデザインリサーチチームのその後
クラウド会計・人事労務ソフトを提供するfreee株式会社。クラウド会計ソフトの法人シェアNo.1に上り詰めたその過程には「デザインリサーチチーム」の活躍がありました。2020年6月に、同社のUXリサーチャー伊原力也さんにご登壇いただいた『freeeの「成果を生み出すデザインリサーチチーム」の秘密』では、ユーザリサーチ仕組み化までのプロセスをお伺いしました。
そこから約1年半が経ち、UXリサーチが定着した組織ではどんな変化が起こったのでしょうか?2021年9月30日のオンラインセミナーでは、freee株式会社のUXデザイナー増田 康祐さんをお招きし、リサーチが定着した組織の変化や課題への取り組みについてお話いただきました。ぜひご覧ください。
全編の動画はこちらで公開しています>>
はじめに
freee株式会社のUXデザイナー増田と申します。
今回は、リサーチが定着してきたfreeeの組織に「freeeのデザインチームが立ち上がって約2年の取り組みについて、リサーチチームにどんな種類があって、リサーチが定着するとするとどんなことが起きるのか」について、お話していきたいと思います。
freeeのデザインリサーチチームの紹介
デザインリサーチチームの歩み
freeeのデザインチームの発足当時は3名体制でした。チーム立ち上げ前も、それぞれ自分の担当のプロダクトやプロジェクトでユーザビリティ調査やインタビュー調査を行い、結果をプロダクトマネージャーやエンジニアに共有していきながら組織としてリサーチの効果が認識されてきたところで、2019年にチームが発足し、リサーチが定着しました。
発足当時のお話はこちらから>>freeeの「成果を生み出すデザインリサーチチーム」の秘密
チーム立ち上げ時に込めた2つの想い
チームで大切にしたことは、リサーチを実施しその結果を伝えて終わりにするのではなく、明らかにしたいことに合わせ設計の提案や、リサーチしたその先のデザインまで一緒に考えられる存在でありたいと考えていました。
また、リサーチは「アウトプット」と「プロセス」2つの価値があり、レポーティング結果の蓄積や、アウトプットからユーザーに対する実感を持つという「アウトプットの価値」だけでなく、リサーチの過程で生まれる企画や、顧客のインサイトが重要だと考えます。そのため、リサーチの過程に色んな人を巻き込んでいくということを大切にしていました。
3つの観点から見るデザインリサーチチームの特徴
組織との関係性
freeeのデザインリサーチチームは、プロダクト戦略のUXデザインの組織から派生したので、プロダクトをどう作りこんでいくか、どのようにデザインするかがテーマです。
リサーチの範囲
プロダクトを作るためのリサーチの手段は問わず実施しました。
発足時は仮説検証型のリサーチがメインでしたが、現在は中長期的な仮説探索のリサーチや、後ほど取り上げる「観察」なども実施しています。
freeeのリサーチの特徴は、ユーザーテストはデザイナーが担当することです。ユーザーが利用する上の課題があるのか、デザイナー自らが評価できるようにしています。実施はデザイナーが担当し、環境整備をリサーチチームがサポートしています。
リサーチをする人
freeeではあえて分散型の形をとっています。理由としては、専門的なプロダクトが多く、キャッチアップに時間がかかることが多かったため、各所にリサーチャーを置くというよりは、社内にドメイン知識のあるリサーチできるメンバーを増やして、ユーザー理解が様々な場所で行える仕組みを目指して分散型としています。
3つの観点から見るデザインリサーチチームの特徴まとめ
リサーチが定着した組織に起きたこと
リサーチャーが足りない
・デザインリサーチキット:HCDサイクルを回すために必要な項目を資料にまとめる
・やるべきこと注意点をまとめたもの
こういったものを用意し、講習なども行いリサーチ環境が出来る仕組みを整備してきましたが、リサーチの相談はどんどん増えて行き、リサーチの需要に対してリサーチャーが足りなくなりました。そして、リサーチできるメンバーがいないと、リサーチ自体が止まってしまう問題が出てきました。
そこで、UXデザイナーをはじめPMやカスタマーサクセスのメンバーにも研修に参加してもらい、リサーチチーム以外でもユーザーインタビューを実施できる体制をつくりました。
その後、他チームでもユーザーインタビュー等を行うことで施策に活かされるなど、徐々にUXデザインのプロセスを活用できる体制になりつつあります。
また、リソース配分の最適化では、リサーチにかかる工数等の見積もりをしてプロジェクトの優先順位を決めたり、リソース配分を可視化することで、少ないリソースを重要なところに配分することが出来ました。
採用に関しても、リソース配分を可視化することで、具体的なリサーチメンバーの採用にもつながりました。
ユーザーに会えない
リクルーティングのプロセスをOps担当に任せて効率化してきましたが、リサーチが拡大するにつれ、リサーチのアポイントが取れず、ユーザーに会えないという問題が出てきました。
特にfreeeの使い始めのユーザーは、メールやアンケートではリクルーティングできず、リサーチができない状態になりました。
そこで、別部門と連携で情報を収集をしていく方法を実施しました。カスタマーサクセスと連携してリサーチを実施したのですが、ハイタッチ活動(対面での活動)と合わせて情報を収集することで、利用初期のユーザーさんに対してもリクルーティングすることが出来ました。
これは、各チームにUXデザインの手法の理解やリサーチの重要性の理解が進んでいたため実現できたことです。
リサーチの効果が下がった?
リサーチチームでは、四半期ことにリサーチ実施したメンバーに対して、効果等についてアンケートを実施していました。はじめてリサーチを実施したメンバーはリサーチの効果を強く実感してくれていました。
しかし、直近半年のアンケートでは、「リサーチの効果」に対する回答が低下傾向になりました。自由記述等でわかったのは、リサーチが定着してきたことで、リサーチに対する期待値が調整されたからだと認識しました。
とはいえ、ユーザー理解の実感が下がっているのは事実なので、新しいユーザー理解の方法を模索していくべきだと考え、いくつか新しい取り組みにチャレンジしました。
ひとつが、開発スケジュールとは別のラインで走らせる、定期リサーチにチャレンジし、リサーチの実施が難しいチームも実施できるようになりました。実施頻度が月1回ほどなので、負荷を分散して実施する体制が出来ました。
二つ目が、オンラインでの業務観察にチャレンジしました。これまではインタビューがメインで、言語化される情報がすべてなのですが、ビデオ会議につないで実際の業務を画面共有していただきそれを拝見することで、インタビュー時には話していなかったけれど、時間がかかる作業などが見え、新しい施策につながるようになりました。
リサーチが定着した組織におきたことまとめ
今後の展望
リサーチデータの資産化
これまでの取り組みをしてきましたが、課題は山積みだと考えています。一つは、リサーチデータの資産化です。それぞれのチームで分散型でリサーチを実施してきたのは良かったのですが、リサーチデータが1か所に集まっておらず、チーム内に情報が閉じている状況があります。今後は、1か所に蓄積され、その後も活用できるようにしたいと思います。
より広がる分散型の形
二つ目が、より広がる分散型の形ということで、今はPMとUXデザイナーがUXデザインプロセスを活用していて、セールスやカスタマーサクセスは方法を知っているだけなので、ユーザーヒアリングをPMやUXデザイナーに閉じないで活用できる方法を考えています。
私の展望:リサーチとデザインをつなげる
最後、これは個人的な展望なのですが、今はリサーチのチームを離れ、プロダクトデザインチームに所属しています。デザインのスキルが高くなることで、リサーチの結果を活かしたデザインが作れるようになるなど、2つの領域を行き来することで良いプロダクトを作っていきたいと思います。
QA
大きい組織でボトムアップでリサーチの文化を浸透させるには?
→いきなり大きい予算をとるのは難しいので、例えば知り合いを呼んでユーザビリティテストを実施しその結果を社内に共有して、理解者を増やしていくことが良いと個人的には思います。
リサーチの予算取りについて、決裁者を説得するにあたり意識すべきことは?
→小さくはじめて実績が出来てくると、決済するメンバーも投資対効果を認識してくれることがあります。最初は予算をかけずに、多少強引にでもマンパワーで開始し、実績ができれば「今回は予算使ってみよう」という流れになることも。
例えば、ユーザーから使いづらいなどの意見が出ている場合は、ユーザビリティテストから発見が得られると思うので、最初はユーザビリティテストから始めるのもよいと思います。
中長期的なリサーチが増えたことの課題は?
→そもそも中長期のリサーチを実施することの優先度が下がりがちになると思います。組織の目標として、中長期に取り組む企画の優先度が上がったためそういったリサーチに取り組むことができた。また、リサーチが定着していき、目の前の課題に対して解決策や方向性が見えてくることで、中長期にも視野が広がっていくこともあると思います。
デザイナーの視点でこそ見えてくるリサーチのインサイトはどんなものか?
→デザイナーだからこそ、ある程度今後の形を見据えてどんな情報収集をすればデザインにつながるか逆算してリサーチすることができると思います。
デザイン業務とリサーチ業務を並行して行うバランスは難しいと思うが、工夫や意識していることはあるか?
→なるべくリサーチを他のメンバーに任せることで、リサーチの負荷を減らしてデザインとのバランスをとっています。
セミナーの内容は以上です。