米国UserTesting社直伝!活きたペルソナのレシピと共感マップを組み合わせた活用法
ユーザーニーズを把握する手法としても、顧客体験をデザインする上でも、欠かせないと言われるペルソナ作成。しかし、どのように作成すればよいのか、どのように組織の中で活用すればよいのか、など現場での運用には悩みがつきものです。
2020年10月1日のオンラインセミナーでは、米国UserTesting社CXコンサルタントのリヤ・ホーガンさんがご登壇。UserTesting社は、Microsoft、Facebookなど全世界TOP100企業の半分をパートナーとするUXリサーチ専門会社です。
ユーザビリティの研究者でもあるホーガンさんは、ミシガン大学で7年間、ユーザビリティ手法について教鞭も執っておられます。本セミナーでは、顧客のインサイトを宿した 「活きたペルソナ」のレシピと共感マップを組み合わせた活用方法として、すぐに実践できるポイントを含めたペルソナ作成についてお話いただきました。本稿ではそのダイジェストをご紹介します。
【オンラインセミナー動画】米国UserTesting社直伝!活きたペルソナのレシピと共感マップを組み合わせた活用法
目次
7割の顧客が「企業は顧客中心でない」と感じている
コロナ禍を経た新しい世界(NewWorld)で以前にもまして重要となっているのは「お客様とつながりをつくること」です。
しかし、重大な事実として、実はコロナ禍以前から、企業と顧客の間には断絶があったことがわかっています。
具体的には、75%の企業は自社の方針や戦略、やり方が顧客中心であると考えているのに対し、それに同意するのは顧客の3割に過ぎません。
この断絶は「共感ギャップ」と呼ばれています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)により、人と人との直接的なつながりが減っている一方で、顧客は以前として人とのつながりを求めており、共感してくれているという感覚を企業に求めています。
この「共感」が、現在の新しい環境のもとで一層重要になっていると言えます。
▲企業と顧客との「断絶」:75%の企業は自社が「顧客中心」だと考える一方、それに同意する顧客はわずか3割
目的に合わせた4つのペルソナタイプ
ペルソナという言葉を広めその概念を発展させたアラン・クーパーは、その著書「コンピュータは、むずかしすぎて使えない!」の中で次のように述べています。
「チームにとって心理的なモデルを設計することは非常に重要だ。先入観なく、自社製品やサービスのデザインや機能開発に関する意思決定を現実に則したものにできる。 ターゲットがこういうのが好きかもしれないという憶測に基づかなくてよくなる。」
アラン・クーパーが作成したのは目標達成型のペルソナです。目標達成型のペルソナとは、「対象ユーザーが自社製品で何を達成したいと思っているか」に焦点を当てるものです。
そのほかには以下のようなタイプのペルソナがあります。
- 役割型ペルソナ:バックエンドにいる現場の管理職など役割に焦点をあてたペルソナ
- 感情型ペルソナ:ユーザーの感情や心理学的なバックグラウンドを理解するためのペルソナ。物語性を重視しリアルな3D画像を作成します
- 仮説型ペルソナ:人々が必要としているものや欲しがっているものが何かを感覚的に把握するペルソナ。データが入手できない場合に使用します
▲目的に合わせたペルソナタイプの選択が必要
ペルソナに写真や名前は必要か?
まず、一般的には、ペルソナには写真と名前があります。また、ペルソナには、想定ユーザーが何を求めているかを語りかけてくるような情報が含まれていなければなりません。
ただし、近年は、写真と名前が本当に必要かが議論の的になっています。
一部の企業が、心理的なモデルを作成するうえで写真や名前は有用であると考えている一方、気が散る、集中できないという理由から、性別や名前があるペルソナを好まない企業もあります。
重要なことは、あなたのチームに合ったアプローチを選ぶべきということです。
つまり、 チームの意思決定がスムーズになったり、チームにとってリアルに想像できるペルソナの構成要素や属性を考えることが重要でしょう。
ペルソナ作成の本当の意義
ペルソナは対象顧客のニーズをより深く理解する手助けになってくれます。
例えば、ユーザーがどのようなニーズで利用すればシステムの容量制限に達するかを考えるなど、 幅広いユーザーニーズを念頭に置くことでチーム内の合意とコミュニケーションを促進することができます。
一般的には、デザインチームは3~5個のペルソナを設定し顧客の幅広いニーズを汲み取れるようにして設計に反映できるようにしています。
留意点としては、ペルソナを作成しても、 必ずしも毎回使用しなくてもよいということです。
重要なことは、ペルソナをデザインチームの最優先事項とすること、そしてペルソナを デザインチームに常に意識させ続ける仕組みづくりなのです。
つまり、「お客様は自社のプロダクトを毎日どのように使っているか」を常に考えることが重要なのです。
「子供は2.5人」?:ペルソナ作成の落とし穴
ここで、ペルソナを作成する際チームがおちいりがちな落とし穴をいくつか紹介します。
1つ目は、例えば、子供の数を「2.5人」というように数値を合成してしまうことです。ペルソナに必要なのは平均値ではなくリアルなストーリーです。なにが現実に則しているのか真剣に考えなければなりません。
次に、ペルソナは進化しなければならないということです。
一般的には、少なくとも年に1回はペルソナを改訂することで、業界や市場の変化、人々の生活の変化に対応できます。
最近よく見られる傾向としては、調査を毎月実施するなど、企業は以前より多くの時間を使い、人々のニーズが時間とともにどのように変化しているかを把握し、ペルソナを進化させているということです。
また、ペルソナに無駄な豆知識を取り入れないようにしましょう。 皆さんの意思決定に役立たない情報は、ペルソナから外すべきです。
ペルソナを作成するステップ
ペルソナを作るステップは、実はそこまで時間のかかるものではありません。ただし、すべてのステップにおいてコミュニケーションが非常に重要といえます。
そのために、まず、ステークホルダーとどのようなデータが必要なのか、データから何が学び取れるのかについて意見交換しましょう。
次に、全部でいくつペルソナを作成するか決めましょう。 一般的には、特定の製品に対して 3~5個程度のペルソナを用意する企業が多いようです。
そして、ペルソナの作成を開始します。この段階ではデザイナーに積極的に参加してもらいペルソナのビジュアルや成果物を作成してもらいます。ソフトウェアプログラムでテンプレートを作成すれば、情報を入力しアップデートすることもでき、見た目にも美しいペルソナを作成できます。
次は、シナリオ作りです。 基本的には、顧客がニーズに合わせて商品の性能や機能を実際にどのように使うかを説明します。
シナリオを作成したら、いったんチームメンバーと共有しましょう。メンバーの心に響く内容になっているか確認し、ペルソナをチームの生活の一部として取り入れましょう。
ちなみに、全体感のあるストーリーを作るには行動に基づくデータが必要です。市場で販売されている商品の場合、 「どれだけの人がどのような行動をとっているか」を調査します。 また、インタビューやユーザビリティテストで得た情報は、ペルソナの作り込みにおいて行動や態度を肉付けするデータとして役立ちます。
最後に共感マップと組み合わせてペルソナを完成させます。
共感マップは顧客の、商品やサービスに対する特定のインタラクションを概観し、顧客が何を言い、考え、行い、感じるのかについてまとめたものです。
共感マップはどのようにしたら魅力的な体験を作りだせるか理解するのに役立ち、ペルソナと同様、顧客のニーズを共有しチームの意思決定を助けてくれます。
▲ホーガンさんがおすすめするペルソナ作成のステップ
ペルソナ作成インタビューのポイント
ペルソナを一つ定めて、「理解したいこと」と「共感マップを作るプロセス」を明確にした後、インタビューを計画します。
通常は、カスタマージャーニーの任意のポイントやインタラクションについて、ペルソナと属性や動機、経験などが合致している人々から情報を集めます。
まず、可能であれば、定量的なデータから焦点を当てたい層の規模について情報を得ます。どのような情報が必要かは、ステークホルダーとの会話をとおして明確にしていくことが大切です。
質問の重さにもよりますが、通常、インタビューは 20個程度のオープンクエスチョンから構成 されます。インタビューをする時は十分に計算をして 一般的な流れがどのようなものであるか考える必要があります。
まずは自己紹介から始めて、打ち解けるのに必要な2~3個の質問をします。例えば、被験者に最近の経験を聞き、皆さんの商品の性能や機能をどのように使うかなどの情報を得ます。
ほかに、どのような形で会話をしたいか、被験者にどのようにしてもらいたいか、このリサーチの目的はなにか、についても、この段階で共有しておきましょう。
次に一番大事な質問をします。 この時には、十分な時間を確保して最も大事な質問に答えてもらえるようにします。
その後、より深く的を絞った質問に移ります。
ここでは、聞きたい質問は必ずランキング付けすること、また異なる種類の質問を使いわけることをおすすめします。
「異なる種類の質問」には、たとえば、「あなたは靴をどのようにして買いますか?」と購買の始まりから終わりまでの大きなプロセスを聞く質問(=「グランドツアー」)、「ウェブサイトで時間をかけて靴を比較した際のことを教えてください」と特定のシチュエーションの詳細を聞く質問(=「ミニツアー」)などがあります。
その他、例示、過去の経験、慣れ親しんだ言葉による質問(日常会話で使うボキャブラリーを含む質問)なども使い分けるとよいでしょう。
▲質問の5タイプ:「グランドツアー」「ミニツアー」「例示」「経験」「慣れ親しんだ言葉」
また、インタビュープロセスを始める前にペルソナのテンプレートを用意し、インタビューの質問とペルソナの各パートを対応させておいて、情報を得たら埋めることもおすすめです。
最後に、少し時間をとって振り返りを実施し、被験者の回答の中で確認すべきことがないか考えます。 振り返りのなかで被験者が、それまで話していなかったような驚くようなフィードバックを 話してくれるときがあるからです。そして、被験者に時間を頂いたことに感謝し、もらった回答を業務に使用することを伝えましょう。
最後に、インタビューにおいて重要なことは、価値ある情報を得るために被験者との信頼関係を築くことです。
私が常々言っているのは被験者がインタビュープロセスで素晴らしい経験をできるようにしましょうということです。
インタビュアーが内容をジャッジするような姿勢を取らず、 親しみやすい雰囲気をもちながらも過度に饒舌にならないようにすることで、被験者は自分が話をする機会が十分にあるとわかり、 安心して話を共有することができます。
また、被験者が間違っていることを 回答した場合でも、しっかりと耳を傾けましょう。 そうした回答から、顧客の認識を知ることができるからです。
※より詳しいインタビューの実践ポイントについては、ホーガンさんの翻訳記事『活きたペルソナのための「定量的な情報」と「定性的なストーリー」』もご参照ください。
▲ホーガンさんがおすすめするインタビューの流れ
「モデレーターあり」か「モデレーターなし」か
モデレーターなしのテストをする最大の理由は、モデレーターのバイアスを除外できるということです。 モデレーターの表情は時にインタビューの質を下げることがあります。人間は、誰も反応しないときのほうが正直になる傾向があるからです。
ただし、モデレーターなしインタビューは、フォローしたり追加質問することができないため、高度に構造化されている必要があります。例えば、スクリーンに話をし続けるのは退屈になりがちなので、記述式の質問や、何段階かの点数をつけてもらう方式(レーティング式)の質問、選択式の質問を加えたほうがいいでしょう。
▲「モデレーターなし」のインタビュースクリプトの例
一方、モデレーターありのインタビューは、ニュアンスや会話の柔軟性が必要な場合に最適です。 また、機密情報を外に出したくない場合にも、良い方法です。
また、モデレーターありインタビューのもう一つの魅力は、会話に他の人を参加させることができることです。モデレーターは仲介役としてチームからの追加の質問やフォローアップを ライブで共有できます。
最後に
最後に私の好きなサティヤ・ナデラ(マイクロソフトCEO)の言葉を引用します。
「”共感”はすべての仕事に関係しています。満たされていない・明確にされていないニーズに応えることをイノベーションと呼ぶならば、そのニーズに触れるにはどうすればよいでしょうか?事実をもとにニーズを推定するには”共感”が必要です。デザイン思考とは“共感”なのです。」
これを読むと人々が何を必要としているかに耳を傾けることが 本当に重要であることがわかります。 そして、ペルソナは人々のニーズが何であるかを描くのに最適な方法なのです。
Q&Aセッション
コロナ禍後はユーザー調査でペルソナを毎月アップデート
Q.ペルソナの作成について、近年で変化はありましたか?また、コロナ禍ではどのような変化がありましたか?
A.コロナ禍の影響としてはインタビューの方法の変化があげられます。インタビューはリモートとなり、多くは自宅での実施となりました。
また以前は、12カ月~18カ月ほどペルソナを使い続けるのが通常でしたが、コロナ禍では状況が頻繁に変化することもあり、組織によっては月ベースでユーザー調査をするようになってきています。
BtoBのペルソナ作成において留意するポイント
Q.BtoB、BtoCについてのペルソナの作成方法について違いはありますか?
A.BtoBの場合、ペルソナの役割や責任範囲をしっかり設定しなければならない点がBtoCと大きく異なります。BtoCの場合、個人の性格や属性情報に焦点をあてることが多くなる一方、BtoBペルソナは役割型ペルソナであるため、職歴、スキルなどの情報が必要となります。
定量データの入手が困難な場合でもペルソナ作成は可能
Q.BtoBや市場であまり販売されていない商品やサービスの場合、定量データの入手が困難な場合があります。こうした場合はどのように定量データ部分をカバーすればよいのでしょうか?
A.定量データは顧客の嗜好を明らかにする上で必要ですが、得られない場合も多々あります。成熟した市場がある製品であっても、新機能を付け加える場合には定量データがない場合があるものです。
こうした場合は、推測や仮説をすることで定量データを補います。また、定性調査をある程度の規模で実施することで、的外れになるリスクを回避できるでしょう。
定性調査における客観性保持のための3つのヒント
Q.定性的な調査で客観性を保つにはどうしたらよいでしょうか?
A.大きく3つの方法があると思います。
1つ目は、バイアスが無い(=客観性を保っている)状態でも「共感」は可能であると知ることです。つまり、相手に共感しすぎるとバイアスが生じる、という考えは必ずしも正しくないということです。
2つ目は、スクリプトの段階でバイアスがあるかをチェックすることです。一晩寝かせて、新たな目で確認することも大事です。
3つ目は、他の優秀なインタビューを参考にすることです。テレビとかポッドキャストなど、他の同僚や人のインタビューを見て、聞くことは重要です。
このほか、「経営層へUXリサーチの価値を説明するにはどうすればよいか」「UXリサーチャーとしてのどのようなキャリアを目指しているか」「UXリサーチのKPIをどのように設定していますか」など幅広いご質問にご回答いただきました。